財政刺激策が行き詰まる一方で楽観論が続く米国

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米国の景気刺激策と、様々な意見の相違

米新規失業保険申請者数の改善とワクチン開発の状況

〔要旨〕

●上院議会の休会で、財政刺激策の合意は9月まで持ち越し
●米中の閣僚級貿易協議が突然中止に
●新型ウイルスのワクチン開発の進展と、良好な経済指標を確認

1. 米国の財政刺激策の進展状況
追加の財政出動が先延ばしに

2. 新型コロナウイルス感染状況
世界各地で感染拡大が続く

3. 米中関係の緊張
貿易協議の中止など、しばらくは米中関係の悪化が続く見込み

4. 米ドルの動向
米ドルの緩やかな下落が続く

5. 民主党バイデン氏による副大統領候補の選出
民主党副大統領候補にハリス上院議員が選出される

待ち望まれるワクチン
良好な経済指標の発表とワクチンの早期開発への期待から米国やアジアの株式市場が上昇

 

前週、私は8月に注意すべき5つのことをお伝えしましたが、直近1週間に、それらに関する進展が見られました。本稿では、それらの進展状況を簡単にご紹介するとともに、米国の新規失業保険申請者数の改善と新型ウイルスのワクチン開発の状況についてお伝えします。

1. 米国の財政刺激策の進展状況

追加の財政出動が先延ばしに

予想されてはいましたが、米国議会上院が9月まで休会に入ったことで、財政刺激策第4弾の議会通過の可能性が後退しました。その意味では、トランプ大統領が大統領令を発動し、失業給付が延長されたことは朗報でした。一方で、州・地方政府など、資金を必要とするいくつかの主体は、政府の援助を得ることができませんでした。特に、現在米国内の雇用の13%を占めている州政府と地方自治体 1 、そして2016年時点で民間部門の雇用の47%を占めていた中小企業 2 への援助が不十分であることが懸念されます。今年は大統領選挙が行われるので、最終的には財政刺激策は議会を通過するでしょう。ただし、時間がかかればかかるほど、経済へのダメージは大きくなるため、早期の決着が望まれます。

2. 新型コロナウイルス感染状況

世界各地で感染拡大が続く

米国では、新型ウイルスの感染者数が一部の州で増加傾向にあるものの、直近7日間の新規感染者数の全米平均は8月上旬から減少しています。ただし、以前からお伝えしているように、9月からの学校の授業再開が感染の急増を招くのではないかと懸念しています。米国以外でも、欧州、特にスペインとフランスの感染者の急増が心配です。日本も同様の状況です(ただし、人口当たりの感染者数は、依然として低いままです)。そして、ブラジルとインドも状況の改善は見られず、いずれの国・地域でも感染拡大が止まらない状況が続いています。

3. 米中関係の緊張

貿易協議の中止など、しばらくは米中関係の悪化が続く見込み

状況は前週よりも厳しくなりました。米国と中国は、特段の説明もなく8月15日に予定されていた貿易協議を中止しました。同協議では、2020年1月に署名された貿易合意第1段階の遵守状況を点検する予定でした。両国間の緊張が高まっている中で、多くの市場関係者が協議の開催を期待していたため、米国株は押し下げられました。今後しばらくは米中関係の悪化が予想されますが、長期的な視野を持つ投資家にとっては中国株式の投資魅力がより高まることになるでしょう。

4. 米ドルの動向

米ドルの緩やかな下落が続く

前週の米ドルは下落したものの、その程度は緩やかでした。米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和政策や、財政赤字拡大の見通しなど、さまざまな要因が米ドルの動向を左右する要因となりました。米ドルの緩やかな下落は、引き続き新興市場の株式の下支え要因になると考えています。

5. 民主党バイデン氏による副大統領候補の選出

民主党副大統領候補にハリス上院議員が選出される

民主党の大統領候補であるバイデン氏は、副大統領候補としてハリス上院議員を選出しました。通常、副大統領候補の選出は、市場にとってそれほど重要ではありません。私は、バイデン陣営は副大統領候補の選出で順当な判断をしたと考えます。ハリス上院議員は、おそらく最終候補者の中で最も望ましい人物であり、市場に安心感を与えたと考えられます。副大統領候補の選出が終わったことで、投資家は次のイベントへ目を向けることができるでしょう。

待ち望まれるワクチン

良好な経済指標の発表とワクチンの早期開発への期待から米国やアジアの株式市場が上昇

前週は、さまざまな国で良好な経済指標が確認されました。ユーロ圏の鉱工業生産指数は前月から上昇し、中国の鉱工業生産と自動車販売も前年比プラスとなりました。また、米国では、新型ウイルスの感染拡大による一時解雇が本格化してから初めて、新規失業保険申請者数が100万件を下回りました 3 。良好な経済指標と、新型ウイルス予防ワクチンの早期開発への期待から、米国とアジアの株価指数(特にダウ工業株30種平均、上海総合指数、日経225指数)は前週上昇した一方で、欧州の株価指数(FTSE100指数、DAX指数)は下落しました。そして、米10年債利回りも上昇しており、投資家の市場に対する楽観的な見通しが反映されています。

理想的なシナリオが実現することはほとんどない

世界が新型ウイルスワクチンの開発状況を見守っている現在、私は「ゴドーを待ちながら」という演劇を思い出しました。この劇は、ゴドーという人物を待ち続けている2人の男性が主人公で、彼らは会ったことのないゴドーがいつ到着するか、そして彼が到着するとどうなるかを話しながら、その永遠を待ち続けています。私は、市場はゴドーの到着を待っている状態と思います。投資家はワクチンがすぐに開発されると考えており、その間、金融政策は引き続き緩和的で経済指標の改善が続くと予想しているということです。これは「最良」のシナリオでありますが、私たちが望む理想的なシナリオが現実に起こることはほとんどありません。劇中では、結局、ゴドーは姿を見せず、2人は落胆します。

ドイツの公衆衛生研究所がワクチン開発の見通しを修正

ワクチンの開発が投資家の予想よりも遅れ、経済指標が悪化したとしても、市場が大きく落胆することはないと思いますが、ある程度の失望に備える必要があると思います(特に米国では株式のバリュエーションが高い水準にあります)。そして、それはまさに現実に起きるかもしれません。前週、ドイツの公衆衛生研究機関であるロベルト・コッホ研究所は、「早ければ2020年秋には新型コロナウイルス感染症のワクチンが利用可能になり得る」とした先の報告を修正しました 4 。これは、ウイルスが容易に変異したり、ワクチンによる免疫機能の高まりが短期間である場合には、驚くことではありません。

米国で安価かつ迅速に結果が分かる唾液検査が承認される

しかし、米国などでより効果的な検査と感染者の追跡が行われることで、この失望が和らぐかもしれません。特にビル・ゲイツ氏は、米国では新型ウイルスの検査結果を受け取るまで数日かかるため、その検査体制について高い問題意識を持っています。そして食品医薬品局(FDA)は、はるかに安価で迅速に検査結果が判定できる唾液検査を、前週末に承認しました 5 。検査が広範囲かつ低コストで実施できることは非常に有益であり、これは消費者信頼感の上昇をもたらしそうです。

ワクチン開発への取り組みは続く

「ゴドーを待ちながら」では、2人の男性は壇上に残ったまま幕が下ります。2人が諦めたのか、それともまだゴドーを待ち続けているのかはわかりません。もちろん、現実は劇とは異なり「脚本の最後のページ」はありません。ワクチン開発とより効果的な治療法や対応への取り組みは、物事が予想されたとおり進まなくても続いていきます。

 

1.出所:ブルームバーグL.P.、“States, Cities Already Cutting Jobs With Financial Toll Mounting”、 April 2, 2020年4月2日。
2.出所:米国中小企業庁。
3.出所:米国労働省、週間データ(2020年8月8日時点)。
4.出所:ロイター、“Advisory: German institute withdraws report saying COVID-19 vaccine could be available”、2020年8月12日。
5.出所:STAT、“FDA clears saliva test for Covid-19, opening door to wider testing”、2020年8月15日。

 

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

 

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