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目次
「大きく、美しい法案」が財政懸念をもたらす
米国債利回り:上昇する可能性が高い
関税:再びの脅威
米労働市場:データに基づけばFRBは据え置きが妥当
英国のインフレ:予想を上回った
EUと英国の合意:正しい方向への第一歩
ではどうなるのか?考えられる市場と中央銀行の反応
注目の日程
先週は、財政懸念と債券利回りの上昇に関する話題が市場を席捲しました。一部の人々にとっては、貿易や関税の心配からの一時解放と思われたかもしれませんが、それも束の間でした。金曜日にトランプ大統領は、6月から欧州連合(EU)に対して50%の関税を1、国外生産のアップル製品に対して25%の課税を課すと表明しました2。
私たちは、米国のデフォルトが起こる確率が有意に高いと考えているわけではありませんが、財政懸念は、米国債利回り及びタームプレミアムの上昇に現れる可能性があると考えています。今、米国以外の国債や短期債券が魅力的に思われます。
トランプ大統領の「大きく、美しい法案」(減税、歳出削減などを含む幅広い法案パッケージ)は木曜日、215対214の僅差で米下院を通過しました。今後は上院での審議となります。上院では共和党の優位が下院に比べて大きい(共和党53議席に対して民主党47議席)とはいえ、可決はスムーズにいかない可能性があり、法案の修正が予想されます。
上院の財政タカ派の中には、同法案に盛り込まれている、債務上限を4兆ドルほど引き上げる条項を快く思わない議員もいます3。債務上限の条項があるため、実質的には7月下旬から8月上旬までに法案を可決する必要があります。米国議会予算局によれば、米国財務省の資金が底をつくと予想されているのがちょうどその頃となるためです4。
この法案は、2025年末に期限切れとなるトランプ減税1.0を延長し、その他の免税措置等も次回の大統領選挙後まで延長するものです。ムーディーズは、2035年までに財政赤字が対国内総生産(GDP)比6.4%から約9%に拡大すると試算しています5。こうした税制改正が市場の財政懸念を悪化させ、ここ数週間の長期利回り上昇の主要因となっていると私たちは考えています。
米財務省は水曜日に20年物国債の入札を行いましたが、クーポンレートは5%で、2020年にこのテナー(期間)が再導入されて以降で最高となりました6。私たちの見るところ、入札状況は市場の期待ほど盛況ではなく、長期の利回りは上昇しました7。一部の投資家が、長期の米国債から追加的な利回りが得られないことや、外貨が米ドルに対して上昇する可能性があることから、短期の米国債や外債を選好したのかもしれません。ただし、今回の入札を深読みしすぎるのは禁物です。20年物国債は通常、どんなに良い時でも非常に大きな需要があるとは言えないためです。
それでも先週利回りが上昇し8、米ドルが下落したという事実は9、通常、利回りと通貨の間に見られる連動性がもはやないことを物語っているのかもしれません。財政と成長への懸念がドル安につながっており、私たちはこのトレンドが続くとみています。財政懸念が残っている間は、米国債利回りは、低下よりも上昇する可能性の方が高いでしょう。
トランプ大統領は、米連邦準備理事会(FRB)に利下げを求めています。これは良い考えとは思えず、ハードデータが依然として堅調な状況でFRBが大統領からの圧力に屈すれば、米国債利回りは低下ではなく上昇する可能性があると考えられます。
関税引き上げ論争から数週間の休息を経て、トランプ大統領がEUとアップルに対して関税引き上げの威嚇を行ったことについて、この絶え間ない関税ニュースの浮き沈みに市場参加者が慣れていく必要があるだろうということ以外は、特に言えることはありません。当然のように、市場はニュースの流れに左右されてしまうかもしれません。トランプ大統領の著書、「アート・オブ・ザ・ディール(取引の技術)」を読んで学んだのは、これが当事者たちのバランスを崩すためのプロセスの一部だということです。最初に攻撃的な要求を行った上で一歩後退した後、現在は再び攻勢を強める時期に入ったようです。
総合購買担当者景気指数(速報値)は、4月が50.6だったのに対し、5月は52.1となりました10。米新規失業保険申請件数は先週小幅に上昇したものの、過去の水準からすると依然として低位に留まっています11。全体的に、米国労働市場のデータは依然として、米国経済が差し迫った景気後退に向かっているわけではないことを示唆しています。この状況が続く限り、FRBが更なる利下げを行う理由はほとんどないと考えられます。
4月の英国ヘッドライン消費者物価指数(CPI)は3.5%となり、3月の2.6%を大幅に上回っただけでなく、ブルームバーグのコンセンサス予想も上回りました12。4月は公共料金、携帯電話、道路税、テレビライセンス料金が上昇したため、インフレ率の上昇は幅広く予想されており、それ自体はサプライズではありませんでした。しかし、航空運賃が前年同月比16.2%上昇したことの方が重大であり、これによりサービスインフレが5.4%となりました12。イングランド銀行(BOE)はサービスインフレを注視しており、今回のインフレ上昇は、利下げサイクルのスピードに疑問を投げかけた形です。市場予想からは、BOEが今年1-2回の利下げを行う可能性が示唆されています。私たちは、今後数ヶ月のうちに労働市場の弱含みやインフレの減速が見られることで、BOEがより迅速に利下げを行う可能性が高くなると考えています。このニュースを受けて、英国ポンドは上昇しました13。
先週のEUと英国の首脳会談は、欧州におけるより緊密な連携を示す一連の合意と声明で幕を閉じました。これらの合意は、防衛関連の調達や渡航に関する協調と協力の強化に道を開くものと言えます。また英国とEUとの間で衛生植物検疫措置の適用に関する協定を設置するとの合意がなされたことは、両地域間の農産物取引を再び容易にする可能性があります。これを受け、EUの漁業者が英国の水域に立ち入ることができる期間が12年延長されました。これらの合意は、それ自体がゲームチェンジャーとまでは言えないものの、今後のEU―英国関係の方向性の改善を示唆し得ます。少なくとも、英国ポンドとユーロにとって、これは前向きなニュースです。
全体として、今週もせわしなくニュースが飛び交う週でしたが、私たちのコアな大局観を変えるようなニュースはありませんでした。米ドルはさらに軟化し、米国以外の株価がアウトパフォームし、多くの投資家が長期の米国債の保有に慎重になると予想されます。
FRBがこの不確実性の高いマクロ環境にどのように対応するかは議論が分かれるところですが、あらゆる点を考慮すると、私たちは、労働市場のデータが有意に弱まったとき、初めて利下げが開始されると考えています。私たちの見るところ、まだそこまでは至っていません。それでもBOEは、先週インフレ率の上昇を示すデータが出たものの、現在市場が織り込んでいるよりも迅速に利下げを実施する可能性が高いと私たちは考えています。
国・地域 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
5月27日 | 米国耐久財受注 | 製造業と米国経済の健全性と方向性に関する洞察 |
5月27日 | ドイツ小売売上高 | ドイツの消費者の健全性を反映 |
5月27日 | ドイツ消費者信頼感指数 | ドイツの消費の今後の潜在的な伸びに関する洞察 |
5月27日 | フランス消費者物価指数(CPI) | インフレ指標は欧州中央銀行(ECB)の次の潜在的な政策決定に関する洞察を得るのに役立つ |
5月28日 | 米連邦公開市場委員会(FOMC) 議事要旨 | 今後の金融政策決定へのさらなる洞察 |
5月28日 | フランス個人消費支出 | フランスの消費者の健全性を反映 |
5月28日 | フランス国内総生産(GDP) | フランス経済全体の健全性を詳述 |
5月28日 | ドイツ失業率 | ドイツの雇用市場の健全性を詳述 |
5月28日 | 欧州中央銀行(ECB)4月 消費者調査 | ユーロ圏の家計部門が主要な経済変数をどのように認識し、予想しているかをタイムリーに洞察 |
5月28日 | エヌビディア第1四半期決算報告 | 米最大手企業のうちの1社の決算発表により短期の市場の方向性に影響が出る可能性 |
5月29日 | 米国GDP | 貿易摩擦が起こる前の経済の状況がどうだったかに関する視点 |
5月30日 | 米国個人消費支出(PCE) 価格指数 | FRBが選好するインフレ指標が金融政策の方向性について洞察を与える |
5月30日 | ドイツ、イタリア、スペインCPI | インフレ指標がECBの金融政策の方向性について洞察を得るのに役立つ |
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