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目次
米中央銀行関係者のタカ派的発言がより大きく響き渡る
中東情勢の緊迫化にもかかわらず原油価格は下落
英国のより急速なディスインフレへの期待は続く
ユーロ圏はディスインフレの面で大きく前進
米国経済は力強く見えるが、消費者には小さな逆風が吹いている
中国とカナダからのニュース
資産クラスへの影響
今週の注目点
注目の日程
先週、市場や投資家に影響を与えた項目の中でも、米10年物国債利回りの上昇、原油価格の下落、ユーロ圏のディスインフレ、そして好調な米経済データがとりわけ注目を集めました。金利に関する中央銀行関係者の発言も含めて、私が今、注視している事項は以下の通りです。
先週、米10年物国債利回りは、昨年11月以来で最も高い水準まで上昇しました1 。きっかけとなったのは、数週間前に発表された米消費者物価指数(CPI)が予想を上回ったことで、これを受けて市場は全体的に、今年の米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に対する考え方を変えました。こうした見方は、予想を大幅に上回った先週の米小売売上高や、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバー達による一連のタカ派的な発言により、更に強まりました2 。いくつかの先週のハイライトは、以下のとおりです:
WTI原油価格は先週、直近の高値から下落しました7 。中東情勢が緊迫していることを考えると首をかしげる人もいるでしょうが、私は、これにはいくつかの重要な要素が反映されていると考えています:
直近の英国CPIは、英国のインフレが引き続き粘着的となりそうだということを示唆しました。サービスインフレは緩和しましたが、マーケットウォッチャーが望んだほどではありませんでした。加えて、英国の賃金の伸びも予想より鈍化しました。このため全体的に市場は、イングランド銀行の最初の利下げがいつ実施されるかについて、考え方を変えました。
しかし私は、4-6月期の終わりまでに利下げが実施されることへの期待を持っています。イングランド銀行のラムスデン副総裁による以下の発言は、私に安心感を与えました: 「4月のガス・電力市場局(Ofgem)の上限価格水準が分かっており、3月予算での燃料税凍結も考慮すると、他の条件が同じであれば、4月のヘッドラインCPIインフレ率は2%の目標近くまで急落するとの確信を持てる9 。」英国の失業率が1月の3.9%から2月は4.2%に大幅上昇したことも、早期緩和を後押しすると考えられます10 。
ユーロ圏の3月のインフレ率は前年同月比2.4%となり、2月の同2.6%、1月の同2.8%から低下しました。1年前のインフレ率が同6.9%だったことを考えると、これは素晴らしい進展です。食品とエネルギーを除いたコアインフレ率も、3月は前年同月比2.9%で変わらず、更にタバコを除いたコアインフレ率も同2.6%でした11 。私の見解では、このトレンドにより、欧州中央銀行(ECB)が6月の会合で利下げを実施することは事実上確実と考えられます。
多くのデータによって、米国経済がかなり力強いことが裏付けられています。比較的堅調な内容のデータに続いて出された、先週の米小売売上高を見るとよく分かります。これはハイイールド債のスプレッドにも反映されており、ここ数カ月で実際にスプレッドは縮小しています。それは米30年物平均スプレッドの4.93%を大きく下回り、歴史的に景気後退のタイミングと一致してきた7.5%の水準をはるかに下回っています12 。
しかしいくつかのデータからは、消費者-少なくとも低所得世帯-にいくらか逆風が吹き始めていることが示唆されています。例えば、2023年10-12月期の米国クレジットカードの延滞率は、フィラデルフィア連銀が2012年にデータを取り始めて以来の最高水準に達しました13 。また、最低支払額しか支払っていないアカウントの割合が、その前の四半期から0.34% 上昇して過去最高となっており、収入面でのストレスが高まっていることを示唆しています14 。
クレジットカードを発行する銀行の中には、延滞率の上昇にさらされやすいところもあり、米国の低所得世帯へのエクスポージャーが高い金融機関の決算発表会では、既に延滞率の問題が取り上げられています。私たちはこの動向を注意深く見守りたいと思います。失業率が大幅に上昇すれば、特に低所得世帯の貯蓄水準が低いことから―それはすなわち経済的な逆風が強まった場合のバッファが不足しているということを考えれば―これらの世帯に相応の影響が及ぶ可能性があります。これは私の基本シナリオではありませんが、自身の見方に慢心しないようにする必要があり、消費者の健全性を注意深く観察することが重要です。
中国の1-3月期の国内総生産が予想を上回り、前向きなサプライズとなったことも注目に値します。これは、的を絞った財政刺激策が景況感を改善し、経済に有益な影響を与えていることを示唆しています。
また、カナダの2024年度連邦予算が先週発表されました。経済成長を押し上げ、家計の経済的安定を高めるような興味深い提案もありますが、同時に政府債務とその返済コストの高さへの懸念も浮かび上がらせています―とは言え、国境を隔てた米国で表明されている懸念ほど深刻なものではありません。
リスク資産は明らかにプレッシャーを受けており、利回りの上昇によって今後もそれは続くでしょう。しかし私は、これも過ぎ去るだろうと考えています。FRBが6月に利下げを実施し、年内に合計3回の利下げを実施する可能性は、まだ多いにあると私は考えています。 しかし、更なるディスインフレの進展と「より熱くない」経済状況を示す重要なデータが出るまでは、市場はおそらく考えを変えないでしょうし―従ってリスク資産へのプレッシャーもなくならないでしょう。
今後のデータに期待することを考えるとき、私はモーツァルトのライバル、アントニオ・サリエリが(少なくとも映画の中で)宣言したとされる言葉を思い出します。「私はあらゆる凡人を代弁して話す。私は彼らのチャンピオンだ…凡庸さの守護聖人なのだ。」ここ数週間のデータが、サリエリのような(平凡な)CPIや小売売上高なら良かったのにと思います。私は、今後数週間から数ヶ月の間に発表される米国経済データにも、サリエリのような瞬間-すなわち予想を上回らない平凡なインフレデータや一般的な経済データ―があることを期待しています。
米国がディスインフレ傾向にあることを示す証拠が増えさえすれば、楽観的な見方をする理由はあります。今回の下げは健全で、リスク資産のバリュエーションをより魅力的なものにしていると考えられます。そして今後市場に流入し得る現金は、まだ豊富に積み上がっています。実際、先週の決算説明会における大手グローバル銀行の最高財務責任者(CFO)のコメントが、そうした見方を裏付けています:「…現時点では多くの現金が積み上がっている。つまり―もちろん株式市場の動向にもよるが―今後も継続的な運用資産の増加が期待できるということだ。我々は皆、現時点で運用されず積み上がっている現金の量に驚いている15 。」私は、これは例外的なケースだとは思いません。多くの銀行が、運用されず積み上がっている現金の量の多さを目の当たりにしているのではないでしょうか。
今週発表される最も重要なデータは、米個人消費支出だと考えています。また、米国内総生産とミシガン大学消費者インフレ期待も重要となります。言うまでもなく、私はこれらのデータが「サリエリ」的なデータ、つまり平凡で、上方へのサプライズのないデータになることを期待しています。
今週は日銀の金融政策決定会合もあります。ここ数日、植田総裁は、インフレが上昇し続ければ、日銀は更なる金融引き締めを辞さないとの見解を示しています。渡辺努氏による最近の調査によれば、日本の消費者のインフレ期待は上昇しており、これはより高いインフレが継続しそうだとの見方を裏付けています16 。従って今回の金融政策決定会合は、日銀がいつ再び行動を起こす可能性があるかについての指針を与える意味で、重要となるでしょう。これは、非常に弱くなっている円を円高方向へ導くのに役立つ可能性があります。
また今週は、ラガルドECB総裁を始めとするECBメンバーの重要なスピーチが予定されています。私は、6月の利下げ開始を実質的に確認するメッセージが続くのではないかと予想しています。
最後となりますが、いよいよ決算シーズンが本格化します。産業・消費者・企業の行動、そして経済全体に関する洞察を得るため、決算説明会で得られる情報を楽しみにしています。
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
4月22日 | ECBラガルド総裁講演 | 中央銀行の考え方について洞察を与える |
4月22日 | ユーロ圏消費者信頼感 | 消費者の家計と経済に関する見方を追跡 |
4月23日 | ユーロ圏PMI | 製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
4月23日 | 英国PMI | 製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
4月23日 | 米国PMI (S&Pグローバル) | 製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
4月23日 | 米国新築住宅販売戸数 | 住宅市場の健全性を測定 |
4月24日 | ドイツIfo景況感指数. | 現在のドイツの景況感を評価し、 今後6カ月間の予想を測定 |
4月24日 | 米国耐久財受注 | 耐久財の新規発注を追跡 |
4月24日 | カナダ小売売上高 | 消費需要を測定 |
4月24日 | ECBシュナーベル専務理事講演 | 中央銀行の考え方について洞察を与える |
4月24日 | カナダ銀行会合議事要旨 | 中央銀行の考え方について洞察を与える |
4月25日 | ドイツ GfK消費者信頼感 | 一般的な経済環境や家計の財務状況に 対する将来的なな見通しなど、消費者の 様々な動向を測定 |
4月25日 | 日銀金融政策決定会合 | 金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
4月25日 | ブラジル中央銀行金融政策委員会 | 金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
4月25日 | 米国国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
4月25日 | 英国GfK消費者信頼感 | 英国の消費者の家計と経済に関する見方を 追跡 |
4月26日 | 日銀記者会見 | 中央銀行の考え方について洞察を与える |
4月26日 | 米国PCEデフレータ | 消費財・サービスの価格変動を測定 |
4月26日 | 米国個人消費支出 | 米国の消費者の健全性を示す |
4月26日 | ミシガン大学消費者調査 (インフレ期待を含む) | 将来のインフレに対する消費者期待を測定 |
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2024-056