コロナ禍の需要急拡大により、世界規模で争奪戦が繰り広げられたロジスティクス(物流)。バブル状態が沈静した現在、さらなる市場成長のカギを握る領域として、グリーン物流および流通ネットワークインフラへの投資が拡大しています。本記事では持続可能な社会に向けて、グリーン物流と流通ネットワークの未来像について考察します。
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国際標準化機構(ISO)によると、物流・輸送産業は世界のCO2排出量の3分の1強を占めており、多くの先進国で最大のCO2排出セクターとなっています。世界のネットゼロ目標を達成するためには、2030年までに輸送による排出量を約2割削減する必要があります。
このような中、ソリューションとして注目されているのがグリーン物流です。グリーン物流は、物流・輸送による環境負担を最大限に抑えるためのビジネス慣行や技術です。具体的には、配送用車両や貨物船、航空機のEV化から代替燃料や再生可能資源の利用、AI(人工知能)やビッグデータ、クラウドサービスを活用した物流管理システム(WMS)、宅配ロッカー、ドローン配送まで、コスト効率や配送スピードの向上、CO2排出量と廃棄物の抑制などに役立つ多様なソリューションを指します。
グリーン物流への移行は環境面のみならず、長期的な利益やCSR、顧客満足度の向上、パートナーシップの強化などの、様々な利益を企業にもたらすと期待されています。
このような背景から、近年はグリーン物流への投資が加速しています。
たとえば、ドイツに拠点を置く国際宅配サービス大手DHLは、クリーン・オペレーションと環境を配慮した物流ソリューションに、2031年までに総額70億ユーロ(約1兆1,480億円)を投じる予定です。その一環として2030年までに車両の6割をEV化し、持続可能な航空燃料の割合を3割以上に増やすほか、新しい建物をカーボンニュートラルになるよう設計し、全てのコア製品とソリューションに環境に優しい代替品を使用する計画を明らかにしています。
一方で、米市場調査企業アライド・マーケット・リサーチの最新レポートによると、世界のグリーン物流市場は2022年に1兆3,000億ドル(約198兆9,000億円)に達しました。今後は物流セクターにおける企業の社会的責任(CSR)活動やEV化の加速、環境規制・法律の強化、AI導入企業の増加などに後押しされ、2032年までに2兆9,000億ドル(約443兆7,000億円)に成長する見込みです。
EVやドローンの利用拡大が予想される中、さらなる成長を促す方法として、以下の3つが注目されています。
スマートグリーン倉庫はWMSやオーダーピッキング技術、ドローン、照明や空調の自動調節、再生可能資源の利用などを通じて、持続可能な生産性の向上を目的とする倉庫施設です。環境面だけではなく、生産性の向上やスペースの有効利用、労働者のウェルネスの保持増進効果なども期待できます。
スマート配送エコシステムは、テクノロジーを活用して様々な物流データを収集・連結することにより、配送ルートや手段、時間、燃料コスト、積載量を最適化するなど、輸送およびサプライチェーンの効率化を図るためのエコシステムです。
ラストワンマイルとは、最終地点である受取場所(店舗や宅配ロッカーなど)を消費者が選択できるオプションのことで、再配達の負担を軽減することにより環境への影響を抑制する意図があります。消費者にとっては利便性が高いことから、今後も需要が増加し続けることが予想されています。
グリーン物流は多数の成長要因が期待されている反面、根強い化石燃料への依存や高額な導入コストなどの課題も横たわります。米コンサル大手マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、グリーン物流が全体の輸送量に占める割合は5%未満です。持続可能性の重要性が高まっている今、グリーン物流への取り組みは避けては通れない課題であることから、今後、投資がさらに加速することが期待されます。
それと同時に、環境に優しい輸送車両や代替燃料技術、流通ネットワークをサポートするためのソリューションなど、多様な製品・サービスが投資対象としての魅力を増していくでしょう。Wealth Roadでは、今後も物流・輸送市場やESGに関する動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=153円、1ユーロ=164円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買及び投資を推奨するものではありません。