2025年4月、米国政府は自国の国家安全保障と経済的自立の観点から、他国からの製品輸入に対し、相互関税を導入する計画を発表しました。その影響は広範囲に及ぶことが予想されていますが、とりわけ注目されているのが経済・技術の中核である半導体産業への影響です。本記事では、米国の新たな関税政策が市場に与える潜在的な影響と、投資家が注視すべき動向についてレポートします。
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トランプ大統領が進めている相互関税は、貿易相手国が米国製品に高い関税を課している場合、米国も同じ水準の関税を課すという考えに基づくもの。この政策は「トランプ関税」とも呼ばれています。
対象となるのは、原則として除外対象品目以外の輸入品。2025年4月9日時点の情報によると、中国以外の国に対する関税率は7月まで一律10%ですが、その後、追加関税が課される見込みです。追加関税後の税率は、EU(欧州連合)20%、日本24%、中国145%など、国・地域により異なる可能性があります。
新たな関税制度の発表当初、半導体を含む広範囲な産業への影響が懸念されていましたが、2025年4月21日現在は、スマートフォンやコンピューター、半導体、太陽電池を含む電子機器・部品は関税の適用対象外となることが明らかになっています。この除外規定は、米国のテック企業が製品価格の急騰を懸念したことを受けての対応です。
ただし、今回の措置は恒久的なものではなく、今後の市場動向や米国経済、地政学的リスクなどさまざまな要因により、除外対象品目が関税対象となる可能性は否定できません。そうなれば、半導体製造市場で圧倒的なシェアを誇るアジア圏のみならず、設計・開発領域で主権を握る米国、製造装置を供給する欧州などにも広範囲な波及効果が生じる可能性があります。その結果、世界的な製造コストの上昇や納期延滞といった課題が浮上するでしょう。
このような潜在的な影響やリスクを最小限に抑える意図で、すでに半導体産業において以下のような対策が講じられています。
中国に依存していた素材・部品の調達を見直す動きが活発化しています。特に、日本や台湾・東南アジアなどへの調達先の多様化により、地政学的リスクへの耐性を高めるとともに、サプライチェーンの安定化も図られています。
IntelやTSMC、Samsungなどの大手企業は米国内に半導体工場の新設・拡張を進めており、同国政府のCHIPS法(※)に基づく補助金や税制優遇を活用しています。これにより、重要技術の国内回帰を図ると同時に、サイバーセキュリティや知的財産保護などのメリットも期待されています。
(※)2021年に制定された、米国内の半導体産業を強化するための国防政策のこと。
生産効率を高め、コスト高を緩和する目的で、製造プロセスの自動化やAIを活用した設計・検査技術(例:AIによる回路設計の最適化・リアルタイムな品質管理システムなど)の導入も加速しています。このような動きは製品の歩留まりを向上させる一方で、開発期間の短縮が期待できるでしょう。
関税の影響による世界的な不透明さが広がる中、投資家はどのように対応すればよいのでしょうか。注目すべき3つのポイントは以下の通りです。
今後の追加措置次第では、部材の輸入コスト上昇や納期延滞による収益悪化が懸念されます。特に、関税対象製品への依存度が高い企業は大きな影響を受けやすいため、各企業の依存リスクや管理体制の見極めが重要です。
一部においては、「サプライチェーンの多様化や製造拠点の分散が産業のリジリエンスを高める」というポジティブな見方もあります。特に、米国内や日韓台に拠点を置く企業は、着実に製造体制の強化を進めており、地政学リスクを最小限に抑える体制が整備されつつあります。
関税リスクへの対応が求められる中、今後、中長期的な成長が期待されている領域のひとつが、製造装置・材料関連・自動化ソリューションを提供するAI企業などの半導体インフラです。特に、イノベーションとコスト最適化の両面で貢献できる企業には、高い注目が集まることが予想されます。
半導体は、現代のあらゆる産業を支える重要技術です。今回の関税政策は市場に波紋を投げかけていますが、その一方で、産業全体のリジリエンスを高める機会と捉えることも可能です。投資家にとっては短期的な不確実性を踏まえつつ、中長期的成長性に目を向けて冷静な判断を下す姿勢が重要となるでしょう。Wealth Roadでは今後も半導体市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=141円
※本記事は半導体技術に関わる基礎知識を解説することを目的としており、半導体関連銘柄への投資を推奨するものではありません。