本記事は、大内一敏氏の著書『トヨタの営業マン「ざんねん」なヒトと「できる」ヒトの違い』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
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営業において基本となる活動は人と人の交流である。したがって営業スタッフはさまざまなお客様と日々交流をして信頼関係を築いたり、商談を促進する。そういった交流において、あのお客様とは、相性が良いとか、あのお客様とは今一つ相性が合わない、などという言い方をすることがある。
では何をもって相性というのか? 辞書によると「相性は人と人との関係がしっくりいくかどうか」とある。
確かにお客様と一口に言っても、控えめで穏やかなお客様、活発で明るいお客様、冷静沈着なお客様、さまざまなタイプのお客様がいる。同様に営業スタッフにも様々なタイプがいる。つまり相性が良いとは、お客様と営業スタッフの相互の性格・調子などが合っているかどうかということに他ならない。
孫子の兵法に「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず」という言葉があることからも、営業スタッフは、お客様のタイプを知り、且つ自分自身のタイプを理解した上で、営業スタッフの方からお客様のタイプに『同調』することで相性が良くなり、商談をスムーズに展開できる。
そして、同調=ペーシング(pacing)のコツを一言でいうと「B・M・W」を意識し実践すれば良い。
図にあるB・M・Wとはボディランゲージ(BodyLanguage)・ムード(Mood)・ワード(Words)の頭文字を取ったものである。以下にB・M・Wを順番に補足説明するので商談時に活用して頂きたい。
ミラーリングは、相手の体の動きに合わせて自分の動きを鏡に映しているように合わせていく。例えばお客さまと商談コーナーで話している時、お客さまがカタログを覗き込んだら自分も同様に覗き込む。お客様が納得して頷いたら同様に自分も頷く。といった動作を意識的に続けることでお客さまとの一体感を醸成する。
チューニングは、相手のムード(気分や雰囲気)を察知し、周波数を合わせる。例えば、相手が車種・グレード・装備等の選択で考えあぐね、悩んでいたら、自分もお客様の立場で一緒に考えてあげる。納車時に新車を見て満面の笑みで喜んでいたら、自分も同様に感動し喜んであげるというように、状況に応じて相手の感情や気分に周波数を合わせることで一体感を醸成する。
マッチングは、相手とワード(話し方:声の大小、高低、速度、方言等)を合わせる。例えば、早口のお客様にゆっくりと話しかけると「トロイ奴だ」と思われしまう、逆にゆっくり話すお客様に早口で話すと「せっかちな奴」と思われてしまうことがある。だから早口の人には早口で、ゆっくり話す人には、ゆっくりと話しかけることでワードをマッチングさせ同調することができる。以上、B・M・Wをペーシングすることで、初対面のお客さまに好感も持って頂くことができるので、是非実際の商談で活用していただきたい。ただ、ここで注意すべきことは、この営業テクニックをわざとらしくやってしまい、営業スタッフの意図がお客様に見透かされてしまうと逆にあざとい人、と悪影響を及ぼしてしまうことがあるので、実施においては、熟練とさじ加減が必要である。
売れる営業スタッフは、ボディランゲージをミラーリング、ムードをチューニング、ワードをマッチングすることで相手に同調し好感を得る。
×「ざんねん」なヒト(売れないドツボ)
お客様を十把ひとからげの消費者として捉え、ワンパターンの対応で交流が進展しない。
〇「できる」ヒト(売れるコツ)
様々なお客様のタイプに合わせた個別対応のペーシングで、交流を深める。
<著者プロフィール>
大内一敏(おおうち・かずとし)
4年制大学卒業後、トヨタ系ディーラーで新車営業スタッフとして全国トップクラスの販売台数を上げ、金バッジ取得。販売マネジャーを経て、トヨタ自動車営業人材開発部インストラクターとして、提案型営業等、各種研修開発・担当。トヨタ系ディーラーで人材開発室長へ経て、2005年にスキル&モチベーション株式会社設立、代表取締役就任。新人・中堅・管理者・経営者等、幅広い階層に対し、現在まで延べ100,000人以上を対象に教育研修を担当。日刊自動車新聞にコラム連載、『カーディーラーの店長に読んでもらいたいドラッカー』は、35回連載後書籍化。