2009年のビットコイン誕生以来、その中核技術であるブロックチェーンは飛躍的な進化を遂げてきた。現在では暗号資産やNFT、ゲーム、食品、医療、不動産など、様々な領域で活用されている。
さらに、2024年1月に米国証券取引委員会(SEC)が現物型ビットコインETFを承認し、2025年1月には暗号資産を積極的に支援するドナルド・トランプ氏が大統領に就任するなど、ブロックチェーン関連市場に追い風が吹いている。
今後、ブロックチェーン関連領域はどのような変化を遂げるのか。デジタル資産運用会社『コインシェアーズ』でインデックス ファンドマネージャーを務めるアレキサンダー・シュミット氏に、ブロックチェーンの現在と未来について聞いた。
――まず、コインシェアーズ社およびシュミット氏ご自身の紹介について教えてください。
コインシェアーズ社は、ヨーロッパを拠点とし、暗号資産ETP(暗号資産を投資先とする上場投資信託)を提供しているデジタル資産運用会社です。現在、約70億ドルの資産を運用しており、その一部にはETFやインデックスファンドの連動対象となっている、「コインシェアーズ・ブロックチェーン・グローバル・エクイティ・インデックス、以下、「ブロックチェーン・インデックス」」が含まれています。私自身は株式市場で11年ほどのキャリアを持ち、そのうち約5年半にわたり「ブロックチェーン・インデックス」に関わっています。以前は証券会社などで、主にテクノロジー・セクターの調査を担当しており、その経験が現在の業務に活かされていると考えています。「ブロックチェーン・インデックス」は、私と同僚のサティシュ・パテルが共同で管理しています。
――ブロックチェーン関連市場の現状について、どのように感じていますか?
初期の頃から比べて大幅に進歩しています。当初はビットコインなど限られた資産にとどまっていました。それが現在では暗号資産に加えてNFTやゲーム、その他のさまざまな業界のデータベースなどにもブロックチェーン技術が活用されています。こうした市場の広がりとともに、活用領域もますます多様化していると感じています。
――今後の成長が期待されるブロックチェーン関連領域はどこでしょうか?
最大の成長分野は金融取引、特にビットコインをはじめとする暗号資産の領域だと考えています。今後もこの分野がブロックチェーン市場の中心であり続けるでしょう。
一方で、暗号資産以外にも成長が期待される分野は数多くあります。たとえば、ゲームなどオンライン上におけるアイテム所有権です。スキンなどのデジタルアイテムを購入し、異なるゲームやプラットフォーム間で利用できる流通市場ができることによって、新たなビジネスやサービスが生み出されるほか、ユーザーの利便性が大きく向上します。また、こうしたエコシステム内で使用される取引通貨もブロックチェーン上で運用される可能性があります。
――2024年1月、米国証券取引委員会がビットコインETFを承認しました。そのインパクトについてどのように分析されていますか?
影響は非常に大きかったと言えるでしょう。承認前からビットコインへの需要が期待され、2023年後半にはビットコイン価格は大きく上昇しました。上場後も、ビットコインETFへの資金流入は続き、米国史上最も成功したETFの立ち上げとなりました。
ビットコインETFの運用資産総額は1年でおよそ1,200億ドルに達し、特に米国の大手資産運用会社では、ビットコインETFの資産規模が金ETFを上回るほどの成長を遂げています。これは本当に意義深い出来事であり、暗号資産市場のさらなる拡大を示唆していると言えるでしょう。
――2004年に金ETFが承認された時も大きなインパクトがあったと思いますが、その時と比較してどのような違いがありましたか?
先に述べたように、1月末現在、ビットコインETFの資産規模はおよそ1,200億ドルに達しており、金ETFの資産規模である3,000億ドルの半分近くにまで迫っています。金は長い歴史を持つ資産クラスですが、ビットコインはわずか1年でその半分近くの規模に成長しています。
ビットコインと金はしばしば比較されますが、少なくとも投資という観点では、ビットコインは金と並ぶ魅力的な資産クラスになりつつあります。
――米国での上場承認により、年金基金や大学基金などの機関投資家がビットコインETF に参入する動きも見られますが、どのような影響が考えられますか?
年金基金や大学基金は膨大な資金を管理する一方で、非常に保守的な投資スタンスを取っています。特に年金運用においては、資産と負債のバランスを慎重に管理する必要があるため、新しい資産クラスへの投資には慎重にならざるを得ません。
そのため、ビットコインETFは非常に興味深い投資対象ではあるものの、彼らが本格的にこの分野に大規模な投資を行うには、まだ数年の時間を要すると思います。一方で、一部の公的年金やソブリンウェルスファンドはビットコインETFへの投資をスタートさせており、今後の広がりが期待されます。
――ビットコインの今後の見通しについて、どのようにお考えですか?
将来に前向きな見通しを持っていなければ、私はこの仕事に就いていません(笑)。確かにビットコインは価格変動の激しい資産であり、短期的な浮き沈みはありますが、長期的に見れば大きなメリットがあることを繰り返し証明してきました。分散投資の観点からもビットコインのリターンは極めて優れたものとなっています。
また、アメリカ政府の債務を考慮すると、将来的にドルが弱体化する可能性があます。ビットコインは米ドルと負の相関関係にありますので、ドルが下落すればビットコインは上昇する傾向にあると予想されます。
――暗号資産と株式市場はどのような連動性を持っているのでしょうか?
投資家はリスクオフの局面では暗号資産を含むリスク資産を売却する傾向があるため、株式市場が大きく下落すると暗号通貨も同様に下落するという認識を持たれているかと思います。しかし、実際のところ相関性はそれほど高くありません。長期の相関係数は約0.4です。
短期的には急上昇や急低下が見られるものの、長期的に見れば株式市場との連動性は限定的だと考えています。
――長期的な投資の観点から、ブロックチェーン関連株式はどのような魅力を持っていますか?
ブロックチェーン関連企業が属する経済圏や活用されている技術は既存の企業とは大きく異なります。そのため、成長の軌跡も独自のものとなるでしょう。
ブロックチェーン関連株式市場がさらに成熟し、適切に評価されるようになれば、その価値はさらに高まるはずです。また、この分野でも分散投資の機会が広がっていく可能性があり、そこが投資対象としての魅力の一つと言えるでしょう。
――投資家がポートフォリオのリスク・リターンを改善するためには、ブロックチェーン関連投資をどのように組み入れるのが効果的でしょうか?
我々のインデックスは株価指数との相関性が相対的に低い特徴があります。これは、ビットコインや暗号資産の推進要因が、従来のビジネスとは全く異なるためです。
一例としてマネックスグループを挙げましょう。日本の証券会社の株価は一般的に日本の株式市場と連動し、大きな成長を遂げるものではありませんでした。しかし、マネックスグループは2018年にコインチェック社を買収し、暗号資産やWeb3領域への積極的な投資を表明しました。その結果、2020年から2021年にかけて暗号資産市場が急成長する中で、他の証券会社とは対照的に、非常に高いリターンを達成したのです。
こうした事例を踏まえると、ビットコインとの相関が高い株式やファンドをポートフォリオに少し加えるだけで、シャープ・レシオ(リスク調整後のリターン)を大幅に向上させる可能性があります。分散投資の一環としてブロックチェーン関連投資を組み込むことで、リスク・リターンの最適化が図れるでしょう。
――日本の投資家に向けて、ブロックチェーン関連投資の可能性についてメッセージをお願いします。
現在、米国政府は暗号資産の規制緩和や積極的な活用を推進しており、世界的に見ても非常に好条件がそろっています。また、日本でもビットコインや暗号資産に関する規制緩和の動きが加速していると感じています。
私たちのインデックスでは、日本の暗号資産関連株式が約20%と大きな部分を占めています。伝統的な日本株とは異なる銘柄が多く組み入れられている点、ビットコインに直接投資するよりも税制面での優遇がある点にも注目していただきたいです。
ブロックチェーン関連株は、テクノロジーの発展と暗号資産市場の成長から恩恵を享受できる有効な投資手段です。日本の投資家の皆さんにも、この新たな市場の可能性をぜひ活用していただきたいと思っています。