本記事は、大内一敏氏の著書『トヨタの営業マン「ざんねん」なヒトと「できる」ヒトの違い』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
「最も決断を急ぐべき案件が、最も重要な案件であることは滅多にない」これはアメリカ第34代大統領アイゼンハワーの言葉である。彼は大統領であるとともに、時間管理の達人だったそうだ。そんなアイゼンハワー大統領が使った時間管理の手法はアイゼンハワーマトリクスと呼ばれ、歴代の大統領に脈々と受け継がれてきたという。米国の大統領ともなれば、これから実践すべき政策課題が多数あり、その多数の中から常に優先順位を考慮し対処してきたのだろう。
このように人は限られた時間内で行うべき案件がA・B・C・D……と複数あるとき、その中から、先ずどの事柄から着手すれば良いのか、優先順位(プライオリティ)を決めるだろう。
そして優先順位を決めるときの判断基準として、緊急度の高低だけを基準に判断していることはないだろうか。もしそうだとしたら、その人は場当たり的な判断しかできない人だ。
アイゼンハワーマトリクスは緊急度だけではなく、重要度と緊急度の二軸から構成されたマトリクスを用い、これから実施すべき案件を4つの象限に分類する手法である。
象限を順に説明すると、以下の通りである(図参照)。
「象限(1):重要度高い・緊急度高い(大口商談、事故処理)等」
「象限(2):重要度高い・緊急度低い(顧客満足、自己研鑽)等」
「象限(3):重要度低い・緊急度高い(電話応対、来店応対)等」
「象限(4):重要度低い・緊急度低い(無駄な会議、備品の整理)等」
この4つの象限の中の事象について、どんな営業スタッフでも、大口商談・事故処理等、重要度・緊急度ともに高い象限(1)の領域の事柄に対しては優先して実践するだろう。
また象限(3)の電話応対・来店応対等、緊急度の高い事柄についても直ぐに対応しているはずだ。ところが、CS向上「顧客満足」や、自身の商談力や交渉力を高めるための「自己研鑽」等は、重要度は高いが、緊急度が低いので、ついつい後手後手になってしまったり、まったく着手していないということはないだろうか。
売れる営業スタッフは忙しさにかまけて、象限(2)の案件を疎かにすることなく、確実に実践している。
これらのことから「最も決断を急ぐべき案件が、最も重要な案件であることは滅多にない」と言ったアイゼンハワーの言葉の意味がお分かりいただけると思う。
自動車業界を概観すると、CS「顧客満足」向上やお客様第一主義といった言葉だけは浸透しているが、お題目化してしまっている。
実際のところは、日々、あと何日、あと何台、といった売上至上主義や利益至上主義に走り、顧客満足や自己研鑽等が疎かになっている傾向があるのではないだろうか。
人が何か行動を起こすとき、どうしても喫緊に差し迫った緊急度の高い事柄だけに眼を向けてしまうが、CS「顧客満足」や自己の能力向上「自己研鑽」等、重要度にも着眼して、仕事の優先順位を決めることが求められる。
×「ざんねん」なヒト(売れないドツボ)
緊急度だけで評価し行動するので、いつまで経っても第2の象限に取り組めない。
〇「できる」ヒト(売れるコツ)
重要度と緊急度から評価し、自分自身がすべき行動を明確にして取り組む。
<著者プロフィール>
大内一敏(おおうち・かずとし)
4年制大学卒業後、トヨタ系ディーラーで新車営業スタッフとして全国トップクラスの販売台数を上げ、金バッジ取得。販売マネジャーを経て、トヨタ自動車営業人材開発部インストラクターとして、提案型営業等、各種研修開発・担当。トヨタ系ディーラーで人材開発室長へ経て、2005年にスキル&モチベーション株式会社設立、代表取締役就任。新人・中堅・管理者・経営者等、幅広い階層に対し、現在まで延べ100,000人以上を対象に教育研修を担当。日刊自動車新聞にコラム連載、『カーディーラーの店長に読んでもらいたいドラッカー』は、35回連載後書籍化。