※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。
目次
世界経済の見通し:国際通貨基金(IMF)は、7月発表の世界経済見通しでほぼすべての国の経済成長予測を下方修正
米国国内総生産(GDP):米国の4-6月期GDPは市場予想を下回る。ただし、その数値が示唆するほど悪い内容ではなかった
ロシアのエネルギー供給:ロシアが欧州への天然ガス輸出を削減。これは、ユーロ圏が景気後退に陥る可能性が大きく高まったことを示す
IMFのチーフ・エコノミストが世界が景気後退に陥るリスクを抱えていると明言
米国経済は2四半期連続でマイナス成長に。ただし、これがFRBが今後、金融引き締めの積極化を緩めるきっかけとなる可能性も
FRBの金融政策運営はデータに依存している。直近、消費者によるインフレ期待が低下したことから、FRBの金融引き締めが緩まることも見込まれる
消費関連企業の企業業績は下振れすると見込まれる。また、7-9月期の業績予想では、下方修正が示されている
中国の不動産市場はますます問題が深刻化しており、中国経済全体への大きな重しに
ロシアの欧州への天然ガス供給量の削減を受け、ユーロ圏が景気後退に陥る可能性が高まる
ここ1週間、世界経済の成長率予測の下方修正、米国経済の状況(景気後退するか否か)、企業決算など、さまざまな問題について、クライアントの皆さまから多くのご質問を頂きました。本稿では、最も多かった質問についてお答えします。
国際通貨基金(IMF)は年に数回、経済予測を策定しています。世界経済が減速していることを考えれば、IMFが最新のリポートでほぼすべての国の成長率予測を下方修正したことは、言うまでもないでしょう 1 。主要国のうち、米国の2022年の経済予測は3.7%から2.3%に低下し、最も大きく下方修正されました。ユーロ圏は小幅な下方修正にとどまりましたが、ユーロ圏が大きなインフレ圧力にさらされていることを考えれば、これはいささか意外なことでした。カナダも3.9%から3.4%と小幅な修正にとどまりました。一方、中国は4.4%から3.3%へと大幅に下方修正されました。政策当局が2022年の成長目標にこだわらない姿勢をみせていたり、不動産セクターが中国景気への逆風になっていたりするにもかかわらず、中国当局が大規模な景気刺激策を講じていることを考えると、これは少し行き過ぎではないかと私は考えています。
成長率、インフレ率、金利の予想などのように、正確性を追求することは難しいため、実際の数値よりもその方向性が重要と考えます。IMFのチーフエコノミストであるピエール・オリヴィエ・グランシャ氏が「4月以降、見通しは著しく悪化している。前回の景気後退からわずか2年で、世界はまもなく景気後退の淵に立たされるかもしれない」と明言したように、IMF見通しにおいて重要なポイントは、世界が景気後退に陥るリスクを抱えているということです。私は世界的な景気後退を回避できると考えますが、ロシア・ウクライナ紛争、欧州のエネルギー危機への対処、中国経済の回復の強さなどに左右される部分が非常に多くなっています。そして、これらの難題が世界経済と市場にとって好ましくないことは明らかです。
しかし、多くの点で、これらの問題は新たに生じたものではありません。今後重要となるのは、今後の中央銀行の動向と考えられます。たとえエネルギー問題が懸念材料であり続けるととしても、経済成長に陰りがでてくるのに合わせて、国内そして需要サイドがもたらす部分のインフレは後退する可能性が高いでしょう。他のコモディティ価格も、まだ高水準にあるとはいえ、ロシア・ウクライナ紛争下の最高値からかなり下落しています(エネルギーが武器化されるなかでの欧州の天然ガス価格は除きます)。これらのことは、中央銀行が引き締め策を継続させるものの、つい最近懸念され始めたほどには引き締めに積極的でない可能性を示唆しています。このことは、各資産価格の下落を抑えるのに役立つはずです。
米国の国内総生産(GDP)成長率は、1-3月期の▲1.6%から4-6月期には▲0.9%となりました 2 。そして、4-6月期は市場予想を大きく下回っています。2四半期連続でマイナス成長となったことは、米国がテクニカル・リセッション入りしたことを意味しています。しかし、より堅調な経済環境を示す経済指標も発表されています。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が先週の記者会見で示したように、景気後退のより適切な定義は、多くの産業にわたって経済活動が幅広く低下することです。
4-6月期のGDPのマイナス成長は、在庫の積み増しペースの鈍化が主な要因であり、GDPへのマイナスの影響は一時的な可能性があります。(実質最終需要は1-3月期に1.2%減少した後、4-6月期には1.1%増加しました 2 )。注目すべきは、1-3月期のマイナス成長は、データの振れが大きい貿易不均衡(米国外の経済成長の鈍化により、輸出が輸入を大きく下回った)によるところが大きかったことです。純輸出は、異常な動きをみせた1-3月期の後、4-6月期には大きく改善しました。ただし、今後については再び緩やかに減少すると予想されます。
GDPは好ましい数値ではありませんでしたが、私は、これが示すほど悪いものではないと考えます。これは「悪い知らせが良い知らせ」となる可能性があり、今後数週間に発表されるデータいかんによっては、おそらく早ければ9月にFRBが金融引き締めの積極化を緩めるきっかけとなるかもしれません。
しかし、米国の家計や民間セクターのバランスシートの強さ、労働市場のひっ迫度合いを考えると、景気後退局面ではない可能性があることについて、投資家は考慮しなければならないでしょう。米国経済がマイナス成長となったのは、企業支出の変化と同様に、パンデミックやロシア・ウクライナ紛争下でのコモディティショックによる個人消費の変化(新型コロナのロックダウン下でのサービスから財への消費シフト、経済再開に伴うサービス消費への軸足の変化、食料・エネルギー価格の高騰による「必需品」の重要性の高まり)を反映している可能性があります。
私の予想通り、FRBは政策金利を0.75%引き上げました。ミシガン大学の消費者調査によると、5年先の消費者による期待インフレ率が2.8%に低下し(直近の会合前に発表されました)、米国経済が急速に減速しているように見えることから、これは適切と考えられます 3 。さらに、パウエルFRB議長は、FRBがフォワードガイダンスの活用に否定的な意見を示しました。これは、FRBがいかにデータに依存した政策運営に移行していったかを浮き彫りにしています。これらのことから、FRBが2022年後半、早ければ9月に、金融引き締めの積極化度合いを緩めるという可能性が明確に存在することが推察されます。
パウエル議長はまた、バランスシートの縮小について、9月に圧縮ペースを拡大すると述べました。FRBがデータに依存した政策運営を続けることや、パウエル議長がこれまでの引き締めが経済データに十分に反映されていないと考えているとのニュースに、今のところ、市場はポジティブに反応しています。今後は、FRBメンバーが非常にタカ派的な発言をし、市場の興奮を抑え、インフレと闘うにあたっての信認を維持しようとすると予想されます。
重要なことは、一部の見方とは異なり、FRBは先週、タカ派姿勢を弱めることはなかったものの、今後数カ月において弱める可能性をひらいたということです。
今までのところ、S&P500種を構成する企業のうち、56%が4-6月期決算を発表し、うち73%が予想を上回る1株当たり利益を、66%が企業業績の上振れを発表しました 4 。一方で、いくつかの主要企業から予想を下回る発表もありました。インフレが消費者の消費意欲に与える影響を考えると、消費関連企業は圧力を受けており、企業業績が予想を下振れする可能性が見込まれます。
今回の決算説明会では、さまざまな見解が示されました。前回の本リポートで紹介したように、一部の金融サービス企業は、米国の消費者の強さが続いていることを強調しました。また、多くの企業は労働市場が緩んだことについて言及しました。これを要約すると、労働環境の改善が次のように強調されています:「労働市場について述べた88のダウ・ジョーンズおよび中・大型消費財関連企業のうち、35社が労働力の確保が改善したと回答したのに対し、労働力不足が深刻化したと回答した企業はわずか1社であった。実際、コメントを寄せた人材派遣会社のうち、3社すべてが労働力を確保しやすくなったと回答している 5 」。さらに、賃金上昇の圧力が緩和されたとする企業もありました。
7-9月期の業績に関しては、7月に入り、下方修正が出ています。実際、アナリストは7月、7-9月期の予想1株当たり利益成長率(EPS)を例年以上に引き下げました。また、同期間のボトムアップEPS予想(S&P500指数に採用されている全企業の7-9月期予想EPSの中央値を集計したもの)は、6月30日から7月28日までに2.5%(59.44ドルから57.98ドルへ)低下しました 6 。今後、さらに下方修正が増えると予想しています。
中国の不動産市場の問題はますます深刻化しており、中国経済全体への大きな重しとなっています。住宅価格は下落し、多くの住宅プロジェクトが行き詰まり、現在建設中の物件の住宅ローンの支払いを拒否する不動産オーナーが増えてきています。しかし、当局は先週会合を開き、未完成の建築プロジェクトを確実に完成させるなど、不動産セクターを支援することを約束しました。
その他の経済指標としては、7月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が前月の50.2から49.0に低下し、失望的な内容でしたが、非製造業が53.8と引き続き高水準にあるのは良いニュースといえるでしょう 7 。製造業PMIの低調は、不動産市場の低迷と新型コロナウイルスの感染者数の増加の影響を受け、経済再開を受けた景気回復が失速し始めたことを示しています。政策当局は、成長の逆風に対抗するため、さらなるインフラ刺激策(そして特に不動産セクターへの支援)を実施する可能性が高いでしょう。
先週、ロシアは再び欧州への天然ガス供給量を削減し、欧州連合(EU)加盟諸国への圧力を強めています。ノード・ストリーム1による欧州へのロシアの天然ガス供給量は、現在、供給能力の約20%にとどまっています 8 。このため、欧州ではエネルギー価格が急速に上昇しており、4-6月期のGDP成長率は改善したものの、ユーロ圏が景気後退に陥る可能性が非常に高くなりました。今後、ロシアがEUへの天然ガス輸出を制限、あるいは停止した場合、供給リスクを軽減するために、欧州全体としてどのように天然ガス備蓄を増やし、他の地域から代替供給を確保するかが注目されます。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。
MC2022-105