『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法 』より一部抜粋
(本記事は、ピョートル・フェリクス・グジバチ の著書『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法 』=朝日新聞出版社、2018年08月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
目次
Googleでは、アンコンシャス・バイアス(Unconscious bias、無意識の先入観・偏見)、つまり自分では気がついていない自分の先入観や偏見について、そしてバイアス・バスティング(Bias busting、先入観・偏見を壊すこと)について、全社員を対象に研修を行います。自分の先入観や偏見に気づいて、それをなくしていくことを意図的に教育しているのです。
先入観や偏見というものは、さまざまな場面に表れます。先ほどの「アジェンダを守らなければいけない」というのも先入観や偏見、いわば思い込みです。
打ち合わせをしているうちに、これまでのプランが間違っていたということがわかってくる。わかってきたら、思い込みを捨てて建設的に修正する。自分の前提が正しくなかったと気づいたら、その時点で先入観や偏見でつくったものを捨て去る─。
変化の激しい今日のビジネス環境において、もはや計画主義では生産性を高めることはできません。それができるのは、やはり、前章で紹介した「学習主義」なのです。Googleのバイアスに関する研修も、こうした学習主義を徹底させるためにあるわけです。
当然ながら、マネジャー自身のアジェンダについても、先入観や偏見、思い込みを排していつでも見直すべきです。「チームリーダーだから、メンバーにかっこいいところを見せなきゃいけない」などと考えているマネジャーも、少なくないのではないでしょうか。こうした考え方も思い込みの一つですね。建設的な修正の邪魔をするだけなので、さっさと捨てたほうがよいと思います。
極端なたとえ話を一つ。
「今日は、私がアジェンダを用意しました」とマネジャーがかっこよく説明し始めた。すると、「マネジャー、大変です!あなたの後ろで火事です!」とメンバーが騒ぎ出した。ところがマネジャーは「いいから、いいから。黙ってアジェンダの話を聞きなさい」と話し続ける。「でも、もう煙が・・・」「うるさい!」
火事のときにアジェンダについて話し続けるマネジャーというのは、まったくバカげていますが、実のところ、似たようなことが日常的に行われているわけです。
「マネジャー、アジェンダについてですが、ここでこういう現象が起きているので、もう少し時間が必要です」と、メンバーからアジェンダ見直しの提案が出たときに、「ダメ、やって!」と、マネジャーが従来の自分の計画どおりの指示を出し続ける。メンバーはしぶしぶ従う。ありがちですね。
「私がつくったアジェンダはどうでもいい。あなたのアジェンダを重視します」というような態度は、主体性がないように見えて、ある種かっこ悪いかもしれません。けれども、自分の計画を変える見直しによって、メンバーのモチベーションは確実に上がるわけです。
どちらが本当にかっこよい態度なのか、答えは明らかでしょう。アジェンダの方向性が変わったら、マネジャーはむしろ率先して柔軟に対応を変えるべきです。
要するに、大事なのは成果、アウトプットであって、そこに至るための道筋は一つではないのです。一度決めた計画に固執するマネジャーは、そうした本質的なことがわかっていない。だから、一瞬で対応を変えることに抵抗を感じて、従来どおりのアジェンダを守ろうとするのでしょう。
計画重視のマネジャーの気持ちもわからないわけではありません。従来どおりのプロセスを守っていれば、従来どおりの成果が出せるという、いわば経験則があることは十分に想像できます。けれどもそれは、残念ながら、チームの集合知を含めた生産性を高めることには決してつながらないのです。
アジェンダの変更などについて、マネジャーが判断するときに大事なのは、やはり「経営者目線」だと思います。
いまチームでやっている仕事は会社全体の中でどんな意味があるのか、このチームはメンバーの給料の総額に見合うアウトプットをちゃんと出しているのか、メンバーそれぞれが成長してもっと大きな仕事ができるようになっているのか─。マネジャーは、こうした経営者目線で物事を見て、さまざまな判断をしなければいけません。
もちろん、経営的な判断というのは難しい。経営者向けのビジネス書を一冊読んだらわかるというものではありませんね。ただ、マネジャーにとってヒントはごく身近にあります。自分の上司がチームをどう見ているのか、あるいはその上司の上司が自分のチームをどう見ているのか、ということが経営者目線の参考になるわけです。
彼・彼女たちが、チームに予算を下ろすか下ろさないか、人を採用するかしないか、チームを存続させるかさせないかといったことを決定するわけですから。
経営者目線というのは、突き詰めると「インパクト」 (影響)と「成長」を追求し続けるということだと僕(筆者)は考えています。ビジネスのどんな局面でも、インパクトが大きければ大きいほどいいし、成長が大きければ大きいほどいい─。たとえば、先に「挑発が大事」と述べましたが、チームのメンバーそれぞれが成長し続けるために挑発は必要なわけです。
挑発によって、チームはクリエイティブ・カオス(創造的混沌の状態になります。新しいアイデアが生まれるとき、その前段には多くの場合、一見デタラメのように思えるようなカオス状態が生じます。つまり挑発は、新しいアイデアが生まれるような素地をチームに故意につくり出す行為なのです。
チームがカオス状態になると、メンバーはその状態を早く抜け出そうと、より集中して考えたり、アクションを起こしたりします。それが個人個人、ひいてはチームの成長につながる大切な機会になるわけです。
クリエイティブ・カオスから抜け出すことが習慣化すると、メンバーはどんな状況でも「困った、どうしよう・・・」と立ち止まったり、戸惑ったりしないようになります。「困った、でも、やってみよう!」とか「やってみたけど、どう?」というふうに、いわばマネジャーよりも早く動ける人材に育つわけですね。
ただ困ったことに、日本の大手企業でありがちなのは、 「失敗したらだれが責任を取るのか?」「他社はどうしているのか?」などと言って、管理職が(ときには経営者も!)現場のビジネスパーソンの自発的な言動をむやみに止めようとする動きです。それは経営判断の核心であるインパクトと成長とは、まったく逆の動きなのです。本当にひどい話ですね。
そのような人たちのことを僕は「オールドエリート」と呼んでいます。新しい価値を生み出す「ニューエリート」に対して、「オールドエリート」です。図表7はその簡単な対比表ですが、詳しくは拙著『ニューエリーNEW ELITE) 』 (大和書房)で説明していますので、そちらもご参照ください。
そのようなオールドエリートが社内で威張っている場合には、どうすればよいのか。極論すると「そんな会社は辞めたほうがいい」というのが僕の考えなのですが、その真意については第6章の最後でお話ししています。
新しいビジネスモデルを短期間に開発するスタートアップのリーダーは、オールドエリートには務まりません。スタートアップは新しい価値を生み出し、それと同時に、チームに資金を提供してくれた人たちのために、成果を数字としてしっかり出さないといけないからです。
つまりスタートアップのリーダーは、自分のアイデアやプロセスに固執していてはダメなのです。積極的に自分よりも優秀な人たちの力を借りて、臨機応変にインパクトと成長を追求するしかない─。
チームを率いるマネジャーには、こうしたスタートアップのリーダー的な経営者目線を持ってほしいと思います。
<著者プロフィール>
ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ株式会社代表取締役社長、株式会社TimeLeap 取締役
『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法』
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