メンバーからの「愚痴」をチャンスに変える方法とは?

『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法 』より一部抜粋

(本記事は、ピョートル・フェリクス・グジバチ の著書『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法 』=朝日新聞出版社、2018年08月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「愚痴」が出たら会話のキャッチボールを始める

マネジャーの役割は、言うまでもなく「チームづくり」なのですが、その役割を果たすうえで重要になるのが「建設的」というキーワードです。たとえば、チームづくりのときに必須なのは「建設的な言葉づかい」で、わかりやすいのは「愚痴を要望にして言い返す」という会話法です。

「うちのメンバー、最近、私の話を聞いてくれないんだよね」よくありがちな愚痴ですが、こう返す人が多いのではないでしょうか。「はあ、そうなんですか、大変ですね」愚痴をそのまま聞き流すというパターン。

また男女差もあるようです。男性は、「ああ、それならこうすればいい。だからもう悩むな」などと解決しようとするというか、話を終わらせる。女性は、「ホント、イヤね。○○ちゃん、頑張って」などと励ます―。

建設的な「要望」で返すなら、そうではなく、次のような言い方になります。「じゃあ、○○さんは、メンバーにもっと話を聞いてもらいたいんですね?」とか「話を聞いてもらえたら、何かが変わるんですね?」というふうに、相手のネガティブな発言をポジティブな表現に言い換えて聞き返すわけです。

そうすることで、自分から次のアクション―この例で言えば「話を聞いてもらうにはどうしたらいいのか」―に進むことができるわけです。

たとえば、「最近、残業が多いし、疲れているんだよね」という愚痴だったら、「じゃあ、もうちょっと休みたいんですね?」と聞き返す。本人は確かに休みたいのですから、「そうだね、残業を減らすために何か工夫しないと……」などと、自分で次のアクションを考えるようになるわけです。
その際に気をつけていただきたいのは、責めたり問い詰めたりしているような言い方にならないようにということ。ゆっくりと明るい声で話すように心がけてください。

速いペースで次々と話しかけられると、あたかも詰め寄られているような心理的圧迫を感じさせてしまうので、これもNGです。相手の話が終わったら、一呼吸置いて話し始めるくらいでちょうどいいと思ってください。

これらのことは、相手が感情的になっている際には、とくに重要になってきます。感情的になっているのは、その問題が重要であることの表れですが、だからこそ相手の話をさえぎったりせず、とにかく話を聞いてあげてください。聞いてあげて、理解を示したうえで、建設的な話へと進むようにしましょう。

愚痴はチームのことを気にかけている証拠

愚痴を言っている人というのは、じつはすごくチームを手伝おうとしているのではないでしょうか。チームのことをいつも気にかけて見ているからこそ、「直したい、改善したい」と常に考えている。ただ、その思いが愚痴になって出てきているだけなのです。

たとえば、何か仕事をするたびに「面倒くさいな〜」などと、周りに聞こえるような一人言で愚痴っている人がよくいますよね。そのときにマネジャーが「みんなの前でそういうこと言うのは、やめろよな!」などと注意する。これもよくありがちです。

そうではなくて、マネジャーはその愚痴の中に「チームの改善に役立つメッセージが含まれている」と考えて、「チームをよくするチャンス」と歓迎すべきなのです。そうすれば、愚痴を建設的な「提案」に変えることができるはずです。

また、愚痴を言う個人の価値観(大切にしていること)、信念(正しいと思っていること)や基準(何を持って成功したと思うこと)などを把握ができるメリットもあります。

たとえば、残業しているときに「面倒くさいな〜」という愚痴が出たとき―。「じゃあ、もっと早く帰りたいんですね」と話しかけてみる。きっと「当然じゃないですか!」などと不機嫌な答えが返ってくるでしょう。

「当然ですよね、わかりました。じゃあ、今度のチームミーティングで、みんなの残業時間と仕事内容を見直して、どこがボトルネック(障害)になっていて、何が起きているのか、残業が減らせるように、みんなで話し合ってみませんか?」

愚痴を言った人も、こうした前向きな提案には、さすがに「面倒くさい」とは言えないでしょう。
「ええ、いいですね」
「じゃあ、あなたがミーティングをリードしてくれませんか?私がサポートするから!」
「わかりました、やってみます」

そんなふうにうまくいくわけがないと疑う人もいるでしょうが、一度ぜひ試してみてください。実際、僕(筆者)がこれまで出会ってきた優秀なマネジャーたちは、「愚痴がチャンス」ということをよく理解していて、メンバーの愚痴にちゃんと耳を傾けていました。

僕の会社では、定期的に、愚痴を積極的に言ってもらう「愚痴会」を開いているくらいです。高圧的な言動で愚痴を封じてしまったら、メンバーが何を考えているのかさっぱりわからなくなってしまいます。

メンバーから愚痴が出たら、ぜひ会話のキャッチボールを始めましょう。建設的な言い方でいろいろと聞き返して、「じゃあ、一緒にやろうよ」という前向きな提案に変わるまで会話を続ける。そして、最後に「よく言ってくれたね、ありがとう」といった感謝の言葉で締めくくってください。そうすれば愚痴を言った本人も、ネガティブな気持ちだったものが「言ってよかった」というポジティブな気持ちに変わるはずです。

会話を通じて、チームメンバーの選択肢を増やしてあげる

僕はGoogleを辞めてから経営コンサルタントとして独立して、プロノイア・グループとモティファイ(注1)という2つの会社を経営しています。管理職育成や組織開発などのコンサルティングを行うプロノイア・グループも、人事ソフトウェアなどの開発・販売をしているモティファイも、社員は5〜10人ほどで、副業の方を数名交えながら運営しています。どちらもベンチャーですから、大企業と違って社員一人ひとりがなんでもやらなければいけません。

なので、面と向かって「忙しすぎて、できない!」などとたまに愚痴られます。そんなときは、必ず時間を取って建設的な会話をします。そして、一緒に建設的な結論を出すまで話し続けるようにしています。決して「今日はこれくらいにして、また今度」などと打ち切ることはありません。

「わかった、大変だね。何が不満か詳しく話して」と、まずたっぷり愚痴を聞いてあげる。そして、「じゃあ、すぐにできることは何?」などと前向きなアクションにつながるような質問をします。

「○○ならすぐにできると思う」「じゃあ、○○から始めよう。あなたがリードして、みんなで一緒にやっちゃおう」そんな結論になると、「ああ、今日話してよかった。ありがとう」と言ってくれるし、実際にみんなで作業をすれば、すごく盛り上がるし、一人でやるよりも当然ながら早く終わるわけです。

要は、会話を通じて本人の選択肢を増やしてあげることが、マネジャーによるコーチングの大事なポイントなのです。愚痴に限らず、たとえばメンバーが自分の失敗を報告してきたとき―。「すみません、ミスしてしまいました」そこでいきなり「おまえ、ダメじゃないか!」と声を荒らげて責めてしまったら、相手は言い訳に終始して、次のアクションの選択肢が出てきません。

そうではなくて、「そうですか、何が起きたんですか?」「わかりました。じゃあ、対策はどうしますか?」「それで、また同じミスをしないように、今後はどんな工夫をしてくれますか?」などと、落ち着いた声で、建設的なほうに会話を持っていく―。

そうしたら、だれでも「ここが悪かった」と素直に自分の失敗をさらけ出して、「今度は同じミスをしないように、こうやります」と、自分から選択肢を考えてくれるはずなのです。

コーチングの際に心がけてほしいこと

こうしたコーチングの際に心がけてほしいのは、常にメンバーに対して「性善説」に立って会話することです。それは、じつは僕の個人的な体験に基づく考え方と言えるものなのですが―。

僕には二人の兄がいました。最近(注2)、次兄を亡くしたのですが、それよりも前に、長兄をアルコール依存症で亡くしています。ポーランドの田舎の村のことなので、家族にアルコール依存症が一人いるというだけですごく評判が悪くて、僕は彼のことが大嫌いでした。

彼が酔っぱらって何か問題を起こすたびに、なんとか酒をやめさせようとしたのですが、ぜんぜんダメでした。家族に怒られた次の日でも、酔っぱらって道端で寝てしまうという状態。完全な依存症です。

僕も酒をやめるように繰り返し説得していたのですが、そのうち「死ねばいいのに!」という気持ちで接するようになっていました。そうしたら本当に死んでしまった―。すごく後悔しました。自分がもう少し違うやり方で接していたら、もっと話を聞いてあげていたら、彼は死なずにすんだかもしれない―。

いまでも心の傷として自分の中に深く残っています。一方で、長兄を亡くして以来、残された次兄とのコミュニケーションがまったく変わりました。それまでは仲が悪くて、ほとんど口もきかなかったのですが、お互いになんでも話せるほど仲よくなったのです。
この経験を通じて、僕は人に対する考え方が変わりました。それまでは、周りに迷惑をかける人というのは、何か意図的に相手の邪魔をしようとするものだと思っていたのですが、そうじゃないと気がついたのです。

人は、相手の邪魔をしたいといったネガティブな動機ではなくて、根本的にはポジティブな意図で動いていると考えるようになりました(たとえばアルコール依存症にしても、良し悪しは別にして、「お酒を飲んで、落ち着きたい」というのは前向きな欲求でしょう)。

周りに迷惑をかけるのは、単にやっている手法が間違っているだけと考えるようになったのです。要は、それまでは「性悪説」だったものが「性善説」に変わったわけです。

先を読み、チームメンバーが喜ぶような「プロセス」を提供する

ただ人は、必ず怠けるし、間違いを犯すし、ときには落ち込んで後ろ向きにもなるものです。人が「面倒くさい」というとき、単に怠けたいだけという場合も往々にしてあるでしょう。

性善説に立ちながら、いかにリスクを減らすか。まさにマネジャーの腕の見せどころですね。怠ける時間がないように、間違えないように、後ろ向きにならないように、先を読んで、メンバーが喜ぶような「プロセス」を提供していく必要があるわけです。

たとえば、「さあ、やれ!」と冷たく命令するのではなくて、ケーキを差し入れして「ケーキを食べて、みんなで頑張りましょう!」と明るく励ます。たったこれだけでも人を喜ばせるプロセスです。自然に「ありがとう。じゃあ、頑張ります」となるはずですね。性善説に立つとは、何も難しいことではなくて、人は善意に対して善意で応えるものだと楽観的に信じること―。そんなシンプルな人間観にほかなりません。

もちろん、ケーキでなくてもよいわけです。「面倒くさい」と愚痴る人に、「じゃあ、どうしたら面倒くさくなくなるのか、一緒に考えてみましょう」と建設的に話し合うことも、立派な善意の示し方と言えるでしょう。


1: 社名が「モティファイ」から「ワークスタイルテック」に変更となっており、現在はエグジットしたため、経営から退いています。
2:執筆当時の著者の状況。

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<著者プロフィール>

ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ株式会社代表取締役社長、株式会社TimeLeap 取締役

『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法』

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