『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法 』より一部抜粋
(本記事は、ピョートル・フェリクス・グジバチ の著書『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法 』=朝日新聞出版社、2018年08月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
目次
Googleで行われたプロジェクト・オキシジェンの調査・分析によって明らかになった「チームのパフォーマンスを高めるマネジャーの特性」は、次の8つでした。
①よいコーチである
②チームを勢いづけて、マイクロマネジメント(チームのメンバーに対する過度な監督・干渉)はしない
③チームのメンバーが健康に過ごすこと、成果を上げることに強い関心を持っている
④生産的で成果主義である
⑤チーム内のよき聞き手であり、メンバーと活発にコミュニケーションしている
⑥チームのメンバーのキャリア形成を手助けしている
⑦チームのためのはっきりとしたビジョンや戦略を持っている
⑧チームのメンバーにアドバイスできる専門的技術・知識を持っている
①〜⑧の中で一番大事なのは「①よいコーチである」こと。コーチングできることがよいマネジャーであるための土台、必須の条件です。裏返して言えば、コーチングできないマネジャーは、たとえ②〜⑧ができているとしても、結局はチームのパフォーマンスを上げることができないということです。
コーチングというのは、「君、これやって」などと指示・命令することではありません。
たとえば、「最近どうですか? 今日は少し時間を取って、いろいろお聞きしたいですね。うまくいっていることと、もう少し力を入れなきゃならないことを、ちょっと二人で一緒に整理しましょう」などと対話すること。「なるほど、うまくいっているのはこれですね。よくできているんじゃない?
じゃあ、細かくよくできた理由を考えてみましょう。なんでこんなにうまくいっているんですか?」
そうした質問や応答を通じて、本人に自分がやっている仕事について自己認識させることが、コーチングの目的です。コーチが行う基本的な質問としては、次のような「GROW」が知られています。
・G(Goal、目標)……「あなたが望んでいること/目指していることはなんですか?」「興味があることはなんですか?」「何をもって成功したと言いますか?」「それはあなたにとってどれくらい重要ですか?」
・R(Reality、現実)……「いまどれくらいまで進んでいますか?」「あなたの同僚は状況をどう捉えていますか?」「どんな壁に直面していますか?」「いま、どんなリソース(資源)があったら目標に届きそうですか?」
・O(Option、行動計画)……「もし、いま直面している壁がなかったとしたら、どう行動しますか?」「あなたがもっとも信頼・尊敬している人が同じ状況に直面したら、どう行動しますか?」「目標達成に必要なスキルをこれから鍛えるとしたら、まず何をすることができますか?」
・W(Will、意欲)……「(今日から)どうしますか?」「1から10でいうと、どのくらいのレベルであなたはコミットしていますか?」「いつから始めますか?」「乗り越えるべき壁はなんですか?どうやって乗り越えますか?」
コーチングというと対個人と思われがちですが、当然ながらチームでもできます。
メンバー全員が集まった場でみんなに向かって質問する。たとえば、「うちのチームはどこが強いですか?どこが弱いですか?」「このチームはどこまで目標を達成しているんですか?これからチームをどうしたいんですか?」
こうした質問から始まるメンバーたちのやり取りの中で、チームとしての「自己認識」を深めることができるわけです。
もちろん、こうしたチームレベルのコーチングは1対1の個人レベルのコーチングがあって初めて成り立つものです。
言うまでもなくコーチングは、「チームづくり」に欠かせない中心的なテーマです。この本ではこのあとも折に触れて、コーチングについて繰り返し述べることになるでしょう。
さて、Googleのチームに関する調査・分析はプロジェクト・オキシジェンにとどまりませんでした。さらに2012年、「生産性の高いチームの特性」を明らかにする「プロジェクト・アリストテレス」に取りかかります。
調査対象は、エンジニアリングの115チームとセールスの65チームでした。生産性の高いチームと生産性の低いチームを比べて、どんな違いがあるのか。いろいろと調査・分析したわけです。
たとえば、チームのメンバーについて性格テストをしたり、男女比なども含めたダイバーシティを調べたり、チームリーダーたちにインタビューしたりー。
また、力学(メンバーの行動特性を規定している諸法則や諸要因)やスキルセット(メンバーの知識や技術)、エモーショナル・インテリジェンス(Emotional Intelligence=EI、心の知能)などについても調査・分析しました。
そして、メンバーたちにさまざまな質問もしたわけです。「賛成できないときに反対意見を言える雰囲気か」「ボトルネック(障害)があったときに乗り越えられるかどうか」「自分は信頼できる従業員かどうか」「自分が他人に興味があるかどうか」―。
プロジェクト・アリストテレスによって明らかになった、チームの生産性を高めるために必要なこととは何か。その結果を紹介する前に、「チーム」と「生産性」という言葉について、僕(筆者)なりに定義めいたものを簡単にまとめておきます。
仕事におけるチームというとき、みなさんはどんなふうにイメージするでしょうか。なかには、家族のようなものと考えている人もいるかもしれませんね。僕は、会社のチームはスポーツチームにとても近いものだと思っています。
家族というのは、たとえば子どもが学校をサボっても、お母さんはその子を愛し続けます。でもスポーツチームは違います。練習や試合をサボる人は許せないし、骨折してプレイできない人もいらない。会社のチームも一緒ですよね。仕事をサボる人、仕事ができない人は許しません。その意味で会社のチームはスポーツチームとよく似ています。
Googleの定義だと、チームというのは、単に一緒に仕事をしている集団ではなくて、意図的・戦略的に、長期的に一緒に動いている集団のこと。
一緒にプランニングして一緒に問題解決して、定期的に自分たちの仕事を振り返って反省していくような集団のことです。まさに、家族というより、スポーツチームですね。
「チームの生産性」はどういうふうに評価されるのかという点についても、簡単にまとめておきましょう。
Googleでは生産性ではなく、エフェクティブネス(有効性)という言葉をよく使いますが、要は、どちらもアウトプット(成果)のことです。
「成果」というとき、その前提は、あくまでも「経営のトップレベルから見た評価」ということです。チームのマネジャーとして働いていると、この視点をつい忘れてしまいがちになります。
経営者から自分たちはどう評価されているのかという意識がなく、常に気にかけているのは自分の次のレベル、つまり、直属の上司の評価しか考えていない人が案外多いのではないでしょうか。
「うちの上司はこのチームのことをどう考えているんだろう?」と忖度しながら、個人レベルで頑張るというのではなく、本当は、その上司と一緒に「うちのチームはどういうふうにトップに評価されているんだろう?」と考えなければいけません。
要は、経営のトップレベルが求めている成果をこのチームが出しているかどうかによって、チームの生産性は評価されるわけです。
ごくわかりやすい指標としては、たとえば、セールスパフォーマンスなら四半期ごとの売上目標金額・数量の達成などをあげることができるでしょう。
さて、「生産性の高いチームの特性」を紹介しましょう。それは次の5つです。
①「心理的安全性」:チームの心理的安全性(Psychological Safety)が高いこと
②「相互信頼」:チームメンバーの信頼性(Dependability)が高いこと
③「構造と明確さ」:チームの構造(Structure)が明瞭(Clarity)であること
④「仕事の意味」:チームの仕事に意味(Meaning)を見出していること
⑤「インパクト」:チームの仕事が社会に対して影響(Impact)をもたらすと考えていること
この5つが「チームづくり」にとって根本的に大事なことだというのがプロジェクト・アリストテレスの結論でした。
②の「信頼性」と③の「構造の明瞭さ」というのが少しわかりにくいかもしれません。ここで言う信頼性は、たとえば「このチームは決めた時間内に高い成果を上げられる」と信じていること。構造の明瞭さは、役割分担がちゃんと決まっていて、向かうべき目標やそれを達成するための計画が明確であることを意味しています。
この5つの中で一番大事なのは、①の「心理的安全性」です。
心理的安全性とは、端的に言えば「メンバー一人ひとりが安心して、自分が自分らしくそのチームで働ける」ということ。自分らしく働くとは、「自己認識・自己開示・自己表現ができる」ということです。要は、「安心してなんでも言い合えるチーム」が心理的安全性の高いチームなのです。これが②〜⑤の土台になっています。
裏返せば、メンバーがチームに対して心理的安全性を感じていなければ、チームを信頼することはできないし、どんなに目標や計画、役割が明確であっても、仕事に意味を見出すことができず、社会的なインパクト(影響)を考えることもできません。
チームの中で自分が自分らしく働いていなければ、他のメンバーから頼られることはないし、自分も他のメンバーに頼ることができないということが起こります。つまり、信頼関係を築けないということです。
たとえば、「じゃあ、あなたはこれ、私はこれ」と役割分担をして、「わかった、私はこれやります」と言われても、信頼できないから「あいつ、もしかしたらかげで仕切っているんじゃないのか?」とか「裏切ろうとしているんじゃないのか?」といった妄想、プラスアルファの変な心理がどうしても働いてしまいがちです。そんなメンバーが集まったチームの生産性は、当然ながら高くなることはありません。
一方、チームに心理的安全性があれば、メンバーを信頼できるようになって、尊重するようになります。その中で、だれがいつまでに何をやるかという計画や役割が明確になっていく。
そして、仕事の意味が見えてきて、「みんなでもっといいことをやろう」「大きいことをやろう」「意義のあることをやろう」とお互いに頑張って仕事をしたら、世の中によい影響も与えられる。結果として「生産性の高いチーム」ができあがるというわけです。
先に、プロジェクト・オキシジェンでわかった「チームのパフォーマンスを高めるマネジャー」の8つの特性を紹介しました。そうした特性を持つよいマネジャーというのは、要するに、プロジェクト・アリストテレスで示されたようなチームの心理的安全性を高められる人なのです。
つまり、この2つのプロジェクトで明らかになったのは、メンバー一人ひとりが安心して、自分らしく働ける場、自己認識・自己開示・自己表現できる場をつくることが、マネジャーの大切な役割であるということです。
<著者プロフィール>
ピョートル・フェリクス・グジバチ
プロノイア・グループ株式会社代表取締役社長、株式会社TimeLeap 取締役
『世界最高のチーム Google流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法』
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