2020年4月から、高等学校等就学支援金制度の対象に私立高校も加わりました。年間で最大39万6,000円までの授業料が支援されますが、共働きの子供3人世帯でも支援対象に含まれるのでしょうか。
本記事では、私立高校無償化の判定方法に加えて、世帯別のシミュレーション結果をまとめました。支援対象外の世帯に向けて、私立高校無償化がされない場合の対策も紹介します。
目次
私立高校無償化の年収ラインは、適用される所得控除によって変わります。本記事でシミュレーションを行った結果、世帯年収を630万円とした場合の支給額は以下のようになりました。
<シミュレーションの結果>
共働きの子供3人世帯:最大で11万8,000円の支給
共働きの子供2人世帯:最大で11万8,000円の支給
さまざまな控除を活用した共働き世帯:最大で39万6,000円の支給
(※上記は1年間の支給額)
同じ世帯年収でシミュレーション結果が変わるのは、家族構成や働き方、加入している保険などに違いがあるためです。私立高校無償化の適用を受けられなかった子供3人世帯でも、共働きの仕方やライフスタイルなどを工夫すれば、支援を受けられる可能性があります。
私立高校無償化の所得要件と在学要件を満たしている世帯は、両親の働き方や子供の数に関わらず、授業料の全額または一部が支援されます。参考として、以下では文部科学省のリーフレットを参考に、子供2人世帯(共働き)の年収目安をまとめました。
扶養対象者 | 年11万8,000円の支給 | 年39万6,000円の支給 |
---|---|---|
2人(高校生・中学生以下) | 約1,030万円まで | 約660万円まで |
2人(高校生・高校生) | 約1,070万円まで | 約720万円まで |
2人(大学生・高校生) | 約1,090万円まで | 約740万円まで |
(参考:文部科学省「2020年4月からの「私立高等学校授業料の実質無償化」リーフレット」)
扶養対象者の子供が3人の世帯は、扶養控除によって両親の課税標準額が減るため、上記の年収目安よりも下がることが予想されます。ここからは、私立高校無償化の対象世帯や判定方法について詳しく解説します。
私立高校無償化の適用を受けるには、次の条件を満たす必要があります。
・対象の高校生が2014年度以降に入学している
・日本国内に在住しており、国指定の対象校に通っている
・通常の在学年数を超えていない(全日制は3年、定時制や通信制は4年)
・世帯全体の所得要件を超えていない
<私立高校無償化の対象校>
・全日制や定時制、通信制の私立高校
・中等教育学校の後期課程
・特別支援学校の高等部
・高等専門学校(3学年まで)
・専修学校の高等課程
・国家資格者養成課程に指定されている専修学校
・一定の要件を満たす外国人学校
私立高校無償化の判定は毎年行われており、支援を受けるには所定の手続きが必要です。自動的に適用されることはないため、毎年の手続きを忘れないように注意してください。
私立高校無償化の所得要件は、住民税の課税標準額をもとに計算されます。
<基準額の計算方法>
住民税の課税標準額×6%-調整控除の額=基準額
(※政令指定都市の場合は、調整控除の額に4分の3を乗じる)
基準額 | 年間の支給額 |
---|---|
15万4,500円未満 | 最大39万6,000円 |
15万4,500円~30万4,200円未満 | 最大11万8,000円 |
30万4,200円以上 | なし |
<住民税の課税標準額とは>
所得合計額から所得控除を差し引き、1,000円未満を切り捨てた金額です。通常は、課税証明書の「課税標準額」の欄に記載されています(※自治体によって様式は異なる)。
共働き世帯の場合は、両親2人の課税標準額を合算して判定を行います。
<調整控除の額とは>
調整控除とは、住民税と所得税の人的控除の差額を調整するために、住民税の所得割額から一定額を差し引く制度です。合計所得金額が2,500万円未満の場合は、以下の式で算出した額が所得割から差し引かれます。
【1】住民税の課税標準額が200万円以下の場合
下記のうち、金額の小さいほうが調整控除の額になります。
・人的控除の差の合計額×5%
・住民税の課税標準額×5%
【2】住民税の課税標準額が200万円超の場合
{人的控除の差の合計額-(住民税の課税標準額-200万円)}×5%=調整控除の額
(※2,500円が下限)
参考として、子供3人世帯に適用される一部の控除について、人的控除の差を紹介します。
控除の種類 | 合計所得 | 住民税の控除額 | 所得税の控除額 | 人的控除の差 |
---|---|---|---|---|
基礎控除 | 2,400万円以下 | 43万円 | 48万円 | 5万円 |
2,450万円以下 | 29万円 | 32万円 | ||
2,500万円以下 | 15万円 | 16万円 | ||
配偶者控除 (一般) | 900万円以下 | 33万円 | 38万円 | 5万円 |
950万円以下 | 22万円 | 26万円 | 4万円 | |
1,000万円以下 | 11万円 | 13万円 | 2万円 | |
配偶者控除 (老人) | 900万円以下 | 38万円 | 48万円 | 10万円 |
950万円以下 | 26万円 | 32万円 | 6万円 | |
1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 | 3万円 | |
配偶者特別控除 | 900万円以下 | 33万円 | 38万円 | 5万円 |
950万円以下 | 22万円 | 26万円 | 4万円 | |
1,000万円以下 | 11万円 | 13万円 | 2万円 | |
扶養控除 | ─ | 一般:33万円 特定:45万円 老人:38万円 同居老親:45万円 | 一般:38万円 特定:63万円 老人:48万円 同居老親:58万円 | 一般:5万円 特定:18万円 老人:10万円 同居老親:13万円 |
(※)配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額が48万円超~50万円未満の場合。2024年2月13日時点の金額。
上記の扶養控除については、16歳以上が対象者になります。高校生や大学生は扶養親族に含まれますが、15歳未満(児童手当の対象)の子供は扶養控除の対象外です。
他にも、調整控除に含まれる制度はいくつかあり、例としては寡婦控除や障害者控除などが挙げられます。家族構成や所得状況によって人的控除の差額は変わるため、詳しくは国税庁や自治体の公式サイトなどで確認してください。
同じ共働き世帯(共働き)でも、子供の数や適用される控除によって私立高校無償化の判定結果は変わります。ここからは次の条件で、3パターンのシミュレーションを行いました。
<シミュレーションの前提条件>
夫の年収:580万円
妻の年収:50万円
年収の内訳:給与所得のみ
居住地:政令指定都市
適用される控除:基礎控除、給与所得控除、配偶者特別控除、扶養控除
このケースでは、高校生と大学生、配偶者に扶養控除が適用されます。したがって、所得要件は以下のように計算できます。
<住民税の課税標準額>
共働き世帯の場合は、夫婦それぞれの課税標準額を計算し、最後に合算して両親の課税標準額を算出します。
<課税標準額の計算式>
夫の年収-(基礎控除+給与所得控除+扶養控除+配偶者特別控除)=課税標準額
<課税標準額の計算結果>
600万円-(43万円+164万円+78万円+33万円)=282万円
妻については、基礎控除と給与所得控除の合計額が年収を超えるため、課税標準額は0円となります。したがって、このケースにおける住民税の課税標準額は282万円です。
<調整控除の額>
配偶者の合計所得金額が50万円~55万円未満の場合は、例外として以下の金額が人的控除の差額になります。
合計所得900万円以下:3万円
合計所得950万円以下:2万円
合計所得1,000万円以下:1万円
(※上記の合計所得は、申告者本人の金額)
前述より、夫の課税標準額は200万円を超えているため、調整控除の額は以下のように計算できます。
<人的控除の差額の計算式>
基礎控除の差額+扶養控除の差額+配偶者特別控除の差額=人的控除の差額
<人的控除の差額の計算結果>
5万円+23万円+3万円=31万円
<調整控除の額の計算式>
{人的控除の差の合計額-(住民税の課税所得-200万円)}×5%=調整控除の額
<調整控除の額の計算結果>
{31万円-(282万円-200万円)}×5%=-2万5,500円
計算結果がマイナスとなったため、調整控除の額は2,500円です。妻については住民税が非課税となるため、調整控除は適用されません。
<所得要件の判定の計算式>
住民税の課税標準額×6%-(調整控除の額×3/4)=基準額
<所得要件の判定の計算結果>
282万円×6%-(2,500円×3/4)=16万7,325円
基準額が15万4,500円~30万4,200円未満となるため、この世帯は最大で年間11万8,000円の支給金を受け取れます。
次のケースでは、高校生の子供のみに扶養控除が適用されます。上記と同じ流れで、所得要件の判定をしてみましょう。
<住民税の課税標準額の計算結果>
600万円-(43万円+164万円+33万円+33万円)=327万円(世帯の課税標準額)
<調整控除の額の計算結果>
5万円+5万円+3万円=13万円(人的控除の差額)
{13万円-(327万円-200万円)}×5%=-5万7,000円
計算結果がマイナスとなったため、調整控除の額は2,500円です。
<所得要件の判定の計算結果>
327万円×6%-(2,500円×3/4)=19万4,325円
こちらのケースでも、最大で年間11万8,000円の支給金を受け取れることが分かりました。
生命保険や確定拠出年金を利用すると、所得控除の適用によって住民税の課税標準額が減額されます。ここでは、年間8万4,000円の生命保険料控除と、年間27万6,000円の小規模企業共済等掛金控除(確定拠出年金の拠出分)が適用されるケースを想定して、私立高校無償化のシミュレーションを行います。
<住民税の課税標準額>
全ての控除額を計算すると、夫の合計所得から差し引かれる金額は354万円です。したがって、住民税の課税標準額は以下のように計算できます。
<住民税の課税標準額の計算結果>
600万円-354万円=246万円
<調整控除の額>
生命保険料控除や小規模企業共済等掛金控除は、調整控除の対象ではありません。そのため、調整控除の額は前述と同じになり、下限金額の2,500円となります。
<所得要件の判定の計算結果>
246万円×6%-(2,500円×3/4)=14万5,725円
基準額が15万4,500円未満となったため、こちらの世帯は最大で年間39万6,000円を受け取れます。
私立高校無償化の所得要件を超えた場合、子供3人の共働き世帯ではどのような対策が考えられるでしょうか。ここからは、住民税の課税標準額を抑える方法について紹介します。
世帯年収を減らすと、それに応じて住民税の課税標準額も下がります。また、ご家庭によっては配偶者の収入を調整することで、所得控除の適用を受けられるかもしれません。たとえば、配偶者の合計所得金額が133万円以下の世帯は、配偶者特別控除の対象に含まれます。配偶者控除と併せて、合計所得金額などの条件を確認してみましょう。
扶養家族の対象者が増えると、扶養控除の適用によって住民税の課税標準額が下がります。扶養控除の対象者は子供だけではなく、70歳以上の直系尊属(祖父母など)も含まれます。また、19歳~23歳未満の特定扶養親族は、控除額が高く設定されています。扶養家族の対象者がいる場合は、扶養控除の手続きを忘れないようにしてください。
一般的な生命保険や介護医療保険、個人年金保険で支払った保険料は、生命保険料控除の対象になります。住民税では、年間8万6,000円(※各保険で2万8,000円ずつ)までの控除が認められており、支払った保険料に応じて控除額が増える仕組みです。
ただし、保険期間が5年未満の生命保険など、控除の対象外となるケースもあります。これらの保険に加入する場合は、控除対象に含まれるかを事前に確認しましょう。
iDeCoや企業型DCで個人が拠出した掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象です。仮に毎月2万3,000円を拠出すると、その年の課税標準額からは27万6,000円が控除されます。確定拠出年金は家族ではなく個人で加入することができ、自営業者や専業主婦も対象に含まれます。掛金の設定額によっては、両親の合計所得金額を大きく抑えられるかもしれません。
ただし、確定拠出年金の掛金上限額は、勤務先が導入している年金制度や、加入者本人の職業によって変わります。
課税標準額を抑えることが難しい場合は、各自治体の支援制度が一つの選択肢になります。
お住まいの自治体によっては、国の制度と併用できる支援制度が用意されています。判定方法や条件は自治体ごとに異なるため、私立高校無償化の所得要件を超えてしまった世帯でも、授業料などの支援を受けられるかもしれません。自治体の公式サイトなどから、お住まいの地域で実施されている制度を確認してみましょう。
国の制度と併用できる自治体の支援には、どのような制度があるのでしょうか。ここからは主要都市を中心に、私立高校の授業料などが支援される制度を紹介します。
東京都の授業料軽減助成金は、国の就学支援金と併せて最大47万5,000円(年間)が支援される制度です。学校が指定する県外の寮に入った場合や、都内から県外の高校に通うケース(※通信制は除く)も支援対象になります。
国の制度と同じく、支給額は住民税の課税標準額をもとに決められていましたが、2024年度からは所得要件が撤廃されます。
神奈川県は、県内の私立高校に通う生徒を対象にした補助金制度を実施しています。両親・生徒ともに県内に住んでいることが条件となりますが、国の就学支援金と併せて最大45万6,000円(年間)の授業料が支援されます。
また、生活保護の受給世帯や住民税非課税世帯、基準額が一定未満の世帯に向けては、最大で21万円の入学金も支給されています。
大阪府は、府内の私立高校生の約7割を対象にした授業料支援を行っています。保護者・生徒の全員が府内に在住している必要はありますが、本制度では国の就学支援金と併せて、最大60万円(年間)の授業料が支援されます。
なお、2024年度からは所得制限が撤廃されるため、年間63万円までの授業料については、世帯年収・家族構成に関わらず全額が無償化されます。
愛知県の授業料軽減補助金は、県内に住所がある保護者・生徒を対象にした制度です。住民税の課税標準額が一定未満の世帯には、国の制度と併せて最大42万8,400円(年間)が支援されます。
基準額の判定は3段階に分かれており、入学金がかかる1年次には補助金が増額されます。通信制の私立高校についても、2024年2月現在では5校が対象に含まれています。
共働き世帯であっても、家族構成や年収によっては私立高校無償化の対象になります。ただし、世帯状況が変わると翌年度から対象外になるケースもあるため、不安を感じる場合は事前にシミュレーションをしておきましょう。所得要件を超えてしまった場合は、本記事を参考しながら対策を立ててみてください。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。