※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。
目次
✔︎中国経済の回復、米国企業の決算、FRBの政策金利に関する質問の答え
●質問:中国での新型コロナウイルス感染の第二波が発生する可能性はあるのか?
●質問:中国の景気は、どの程度のスピードで回復するのか?
●質問:経済封鎖による、S&P500種指数の業績への影響はどの程度か?
●質問:景気後退と回復時の企業収益の動向について、過去の歴史は何を教えてくれるのか?同期間の株価収益率(P/E)の動きは?
●質問:直近の3回の景気後退期において、S&P500種指数の業績とP/Eの動きはどうだったか?
●質問:米国以外での企業収益は?
●質問:原油価格は歴史的安値に一晩で下落した。何が起こっているのか?
●質問:米国でマイナス金利政策が行われる確率はどのくらいか?
●質問:FRBはどれぐらいの期間、金利をゼロに保つのか?どのようにしてバランスシートを縮小していくのか?
●質問:現在の新型コロナウイルス危機により、EUは崩壊の危機にあるのか?
●質問:前週、賃金保護プログラム(PPP)の財源が不足していることが明らかになった。米国では次の財政刺激策が予定されているのか?それにはPPPの財源が含まれるのか?
●今後の展望
前週も、経済と市場にとって重要な1週間であり、特に中国経済の回復、米国企業の決算、およびFRBの政策金利に対する見方に注目が集まりました。以下、当社のグローバル・マーケット・ストラテジストがお客様からいただいた質問についてお答えします。
David Chao(アジア担当(日本を除く)グローバル・マーケット・ストラテジスト): 4月第二週の週末時点で、中国では100人以上の新規感染者が確認されました。ただし、新規感染者の大部分はロシアからの帰国者によるものでした 1。感染の第二波の到来は明確な脅威ではありますが、それが中国の経済回復を大きく妨げるとは考えていません。現時点では、最も懸念される中国内部における感染は、大きく増えていない状況です。中国政府はまた、空港やその他の出入港での厳格な検疫手続きを、引き続き実施しています。最近、目立った感染が確認された地域はロシアとの国境付近であり、こちらは経済的にあまり重要性でない地域でもあります。
中国では、感染第二波への懸念から、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を維持させる政策が継続されています。他国で感染者数のカーブが明確に平坦化するまで、感染第二派への懸念が完全に消えることはないでしょう。
予想された通り、2020年1月〜2月の経済指標は惨たんたるものでした。しかし、感染拡大のピークは3月第2週で、その後、中国政府は通常の経済活動の再開に向けて精力的に動きました。3月末時点で、大企業勤務者の約99%、中小企業では約77%が仕事を再開しています 2。上述したように、感染の第二波への懸念のため、社会的距離を取る措置が実施されており、当面の急速な経済回復は難しいと思われます。
以下、最近公表された経済指標に関する考察です:
・3月の中国の製造業購買担当者指数(PMI)は、過去最低の2月(35.7)から52.0と大きく持ち直しており、労働者が迅速に仕事を再開したことを示しています 3。これは、世界金融危機時よりもはるかに早い製造業の回復であり、当時は、PMIが2008年11月の38.8から活動拡大・縮小の節目となる50を上回るまでには4カ月かかっています 3 。
・貿易面では、中国の3月の輸出は前年比6.6%減少したものの、市場予想の13%減少を大幅に上回りました 4。これは、1-2月の同17.2%の減少からの顕著に改善しています4 。地域別では、米国および欧州連合(EU)向けは新型コロナウイルスの影響から引き続き低水準でしたが、アジア向けは(特に東南アジア、韓国、および日本)大幅に増加しました。輸出が回復基調にあるとみるには時期尚早ですが、順調な改善は明るい兆しです。また、2019年からの貿易戦争と新型コロナウイルスの感染拡大により、中国を中心としたサプライチェーンが大幅に国外移転されるとの懸念は、一部、和らいでいるようです。一方、中国の最大の貿易相手国である米国とEUの感染拡大が収束まで時間がかかる可能性があり、これは中国製品の需要を低下させ、世界貿易を抑えることになるため、輸出と貿易の低迷は年内にかけて続くと予想しています。
・中国の2020年1-3月期国内総生産(GDP)は前年同期比6.8%減少し、市場予想を下回りました 5。消費動向を示す小売売上高は、1-2月に前年比20.5%減少した後、3月は同15.8%の減少となりました 5。3月の固定資産投資は、前月比16.1%減少しましたが、1-2月は24.5%の減少でした 5。一方、鉱工業生産は1-2月の13.5%減から、3月は前年比1.1%減少となり、市場予想を上回りました 5。これは、国家の経済支援と国内外の比較的強い需要を背景とした、国有企業と大手民間製造業における迅速な職場への復帰が要因であると考えています。政府は、工場の稼働再開率目標を速やかに達成するよう指示を出しています。大企業の職場復帰率は、3月上旬に90%に達しました 5。
・また、石炭の使用量、交通渋滞、不動産販売などの日次データにも注目しています。これらのデータは、3月と4月上旬にかけて著しい改善を示しています 6。
現在の私たちの疑問は、中国政府が世界需要の減退の影響を和らげるのに十分な財政刺激策を提供していくのかどうかです。私たちは、特にインフラ整備への大規模な刺激策が発表されると予想しています。
Talley Leger(シニア・インベストメント・ストラテジスト): S&P500種指数の1株あたり利益(EPS)のベースラインが154米ドルであると仮定した場合、仮に全ての企業の活動がストップしたとすると、経済封鎖の潜在的なコストは週当たりでEPS3米ドルと推定できます(これは154米ドルを52週間で割った単純な計算です) 7。したがって、S&P500企業の半分が8週間の活動停止をしたと考えた場合、12米ドルのEPS押し下げになると推定できます。2020年1-3月期の業績は前年比で7%減少と大幅な減益となりましたが、上記の計算に基づくと、その後の四半期にはさらなる減益が続く可能性があります。
現在の株価は、前年比マイナス15%のEPS134米ドル程度までの減益を織り込んでいると考えています。ただし、2008年から2009年や2001年の景気後退の経験から考えると、この減益幅はさらに拡大する可能性があります。
1990年代初頭から中期の景気後退の期間、企業収益は2年半で24%減少しました 8。2000年代初頭の景気後退では、1年3カ月で32%減少しました 8。2000年代後半の深刻な景気後退期には、2年3カ月で57%減少しました 8。株価収益率は、ピークから1年半は比較的安定していましたが、その後の推移はさまざまでした。
直近の3回の景気後退期は、平均して約12カ月続き 9 、その結果、企業収益とP/Eの動きはさまざまな結果となりました。これらの景気後退期において先12カ月EPSは6%〜52%減少し、P/Eは12%〜30%上昇しました 10。これらを現在のS&P500種指数に適用すると、株価は2021年に1,600から4,200のレンジにあることが予想されます。このレンジの中央値の3,200を想定すれば、株価はどこかで底打ちし、足元までの損失の大部分を取り戻しているということになるでしょう。
欧州とカナダでは、前年比で大幅な減益が見られています。一方、中国と日本はその限りではありません。
Paul Jackson(アセット・アロケーション・リサーチ・グローバル・ヘッド): 直近で発表された石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成するOPECプラスによる供給削減は、多くの国での経済封鎖による原油需要の減少よりも、少ないものです。現在、米国では原油在庫の保管場所という固有の問題があり、それがウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)のスポット価格を押し下げています。他の地域でも同様の問題が発生する可能性があるものの、これは米国固有の問題とも考えられます。一方で、長期契約の価格は、私が妥当と思う水準にあります(過去長期のスポット価格の平均値である35-40米ドル水準です) 11。
今後、経済封鎖が長く続くほど、原油の供給余剰が膨らむのは明らかです。また、一部の国では安値を利用して戦略的な原油貯蔵量を積み増す動きが見られるでしょう(これは需要を押し上げる要因となります)。また、WTIの一日の大きな値動きは注目を集めていますが、世界の石油市場の観点からはブレント価格がより重要であり、そちらはあまり下落していません。
Kristina Hooper(チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト):マイナス金利政策が採られる可能性は非常に低いと思います。FRBはユーロ圏で見られたのマイナス金利の意図せざる経済への悪影響を認識しており、FRB議長のパウエル氏は、フォワードガイダンスや大規模な資産購入など、他の金融政策ツールを選好することを繰り返し述べています。FRBは、マイナス金利のような副作用が大きいと考える政策に頼る前に、他の考えうるすべての金融政策を利用するでしょう。
FRBは、今回の危機が継続する限り、金利を現在の水準に維持することを明らかにしています。私は、米国経済が再び堅実な足場を作り回復が確信できるまで、FRBは、金融緩和を解くことに慎重な姿勢を見せるであろうと考えています。ただし、バランスシートの縮小を開始するまでの期間は、世界金融危機時ほど長くはないと思われます。そして、2017年にバランスシートの縮小を始めたときと同じ計画で実施されると思われます。
最近のフィナンシャルタイムズ紙のインタビューで、フランスのマクロン大統領は、パンデミックに襲われたイタリアなどの周縁国の経済をサポートしないことは、EUに政治的な崩壊をもたらすと警告しました。私は、現在の危機がEUの終えんをもたらすとは考えていませんが、マクロン氏が述べているEUにおける財政的な圧迫やポピュリズムの台頭という懸念は、正しいと思います。私の見解では、EUの国家間で債務を負担しあうことが必要であり、そうしない場合、周縁国は悲惨な状態に陥る可能性があります。イタリア、ギリシャ、ポルトガル、スペインのスプレッドはすでに拡大していますが 12 、何も対策がなされないと状況は悪化してしまうでしょう。
はい、米国では第3.5弾の景気刺激パッケージが近々、発表される予定です。当初は政治的な論争も見られましたが、足元の議会では、より建設的な議論が行われているように見えます。今回の政策では、PPPに焦点を当てる必要があるでしょう。上院共和党は、プログラムに約2,500億米ドルを割り当てるよう要請しているほか、病院の資金調達にも財源の割り当てを求めています。この新たな景気対策は、リスク資産に短期的にポジティブな影響を与えるでしょう。ただし、これだけでは不十分であり、政府はすぐに次のフェーズの景気刺激策を用意する必要があると私は考えます。
前週から、新型コロナウイルス問題についていくつかの明るいニュースがありました。米国の複数の主要都市での感染率の低下、ウイルスに有効となる可能性のある治療法、米国の経済活動を再開する計画の発表などです。しかし、まだまだ多くの不透明な点があります。今週は、米国やドイツと英国など、主要経済国のPMIデータから、都市封鎖が経済活動にどの程度の影響を与えているか、ある程度の理解が得られるでしょう。発表される数値はひどいものになると思いますが、先んじてパンデミックに見舞われた国々で見られたように、経済活動の停止は衛生管理が徹底されている証拠であり、先々の経済の回復がより早まることを意味するでしょう。また、都市封鎖が続く中で、主要国が自国経済にどのようなサポートをしていくかについても、引き続き、追跡したいと思います。特に、米国での次なる経済対策について注視していきます。
1.出所:サウスチャイナモーニングポスト、“China tightens controls on Russia border as number of imported coronavirus cases continues to rise”、2020年4月12日。
2.出所:ブルームバーグ、TSロンバード。
3.出所:国家統計局(中国)、ブルームバーグエコノミクス。
4.出所:2020年4月14日現在、中華人民共和国税関総局。
5.出所:中国国家統計局、“Preliminary Accounting Results of GDP for the First Quarter of 2020”、2020年4月20日現在。
6.出所:ブルームバーグエコノミクス。
7.出所:Standard&Poor’s、インベスコ。
8.出所:Bloomberg LP、インベスコ。
9.出所:National Bureau of Economic Research。2007年12月から2009年6月、2001年3月から2001年11月、1990年7月から1991年3月の景気後退期間。
10.出所:Standard&Poor’s、インベスコ。
11.出所:Global Financial DataおよびRefinitiv Datastreamのデータよりインベスコ試算。
12.出所:Bloomberg LP。スプレッドは、各国の10年債とドイツの10年債の利回りの差を測定。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも特定ファンド等の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。
MC2020-057