2025年8月、金融庁は2026年度の税制改正要望の中で、NISAを高齢者や子どもを含めた全世代に拡大する方針を明らかにしました。特に、つみたて投資枠については18歳未満の年齢制限を撤廃する案が検討されており、世代を超えて非課税での積み立てや、NISA口座内で積み立てた資産を必要に応じて売却して、教育費などに充当できる可能性が出てきています。
また、高齢者向けには毎月分配型の投資信託(定期的に分配金を受け取れるタイプ)をNISA対象に加える案もあり、ライフステージに応じた柔軟な資産運用が視野に入ってきています。投資商品の入れ替え(スイッチング)をしやすくするために非課税投資枠をすぐに復活することなども要望に盛り込まれています。
このニュースは、家族や世代を超えた資産形成の観点から、大きな構造転換を意味しています。今回は、この制度拡張がなぜ今、議論されているのか、そして家族でどのように戦略を立てていくべきかを考えてみたいと思います。
NISAは、日本版の「ISA(Individual Savings Account)」にあたり、株式や投資信託などの運用益や配当を一定枠内で非課税にする制度です。2014年の導入以来、つみたてNISAや一般NISA(成長投資枠)、ジュニアNISAなどへと進化してきました。
これまで、若年層や現役世代を中心に資産形成の手段として活用されてきましたが、最近の議論では、18歳未満もつみたてNISAを利用できるよう年齢制限を撤廃する案や、高齢者向けに毎月分配型投信をNISA対象にする案も浮上しています。これにより、ライフステージに応じた柔軟な運用が可能になる見通しです。
金融庁がNISAの全世代対応を目指す背景には、いくつかの理由があります。まず、日本の家計金融資産は膨大ですが、依然として現預金に偏る傾向があります。これを資本市場に向けることで、個人資産の成長を促し、経済全体の好循環を生むことが期待されています。
さらに、世代間での資産形成の支援も重要です。若年層には教育資金や将来の資産形成を早期から始めてもらいたいという狙いがあり、高齢者には安定した収入源を確保するための金融手段を提供することが求められています。特に高齢者向けの毎月分配型投信は、定期的なキャッシュフローを非課税で得られる可能性があり、ライフステージに応じた運用戦略の幅を広げます。
また、年齢に関係なく利用できる制度にすることで、資産形成の機会を平等に提供するという理念も重要です。金融庁は、あらゆる世代が自身のライフプランに沿って資産形成を行えるよう、制度を整備したいと考えています。
全世代対応NISAが実現した場合、家族構成やライフステージを踏まえた戦略が欠かせません。まず、子ども世代では、つみたて枠を活用し、全世界株式や先進国株式などのインデックス投信を長期で積み立てることが考えられます。年齢制限が撤廃されれば、早期から投資を始められるため、複利の恩恵を最大化できます。
現役世代は、成長投資枠とつみたて枠を組み合わせることで、安定したコア資産を築きつつ、成長資産でリスクを取ることが可能です。さらに、NISA枠内で資産の入れ替えが可能になれば、定期的なリバランスによってポートフォリオの最適化も実現できます。
高齢者世代は、毎月分配型の投資信託を活用することで、定期的なキャッシュフローを得ながら非課税のメリットを享受できます。必要に応じて元本の一部を解約しつつ運用を続けることも可能です。家族間での協力も大きなポイントです。
親が子どものNISA口座を開設し長期にわたり積み立てることで、子どもは成人後も非課税の資産を持ち続けられる可能性があります。こうした世代を超えた資産形成の工夫は、家族全体の資産効率を高めるだけでなく、金融教育の機会にもつながります。子どもには、早い段階で「なぜ投資をするのか」「複利とは何か」「リスクとは何か」を伝え、長期投資への理解と習慣を育むことが大切です。
全世代対応NISAは魅力的ですが、慎重な視点も必要です。現時点では制度改正は要望段階にあり、最終的な内容や時期は未確定です。制度の最終案が確定するまでは、焦らず情報をアップデートしながら備えておく姿勢が大切です。非課税枠や対象商品の詳細、運用の柔軟性は今後の議論次第です。
また、高リスク資産は元本変動の可能性があるため、毎月分配型投信を選ぶ際には、分配金だけでなくファンドの構造や運用方針も確認する必要があります。
長期積立を前提に設計されているため、途中解約や資産の入れ替えにはコストや手間がかかる場合もあります。さらに、将来的な税制改正によってNISAの優遇が縮小されるリスクもあるため、制度利用戦略を立てる際には十分に考慮することが求められます。
全世代NISAが実現すれば、家計や社会にも大きな影響を与えることが期待されます。若者から高齢者まで幅広い層が非課税で投資できることで、家計の金融資産をより効率的に成長させることが可能になります。
子どもへの早期資産移転と大人世代の非課税運用が組み合わさることで、世代間の資産承継も円滑になり、家族全体の豊かさを持続させる構造が生まれます。また、個人資産が資本市場に向かえば企業への投資も進み、経済全体の活性化が期待できます。年齢や所得にかかわらず使える制度であれば、金融包摂の促進にもつながります。
もし全世代NISAが実現すれば、生まれたときから人生の終わりまで、家族みんなで非課税の資産形成を続けられる世界が現実味を帯びてきます。
子どもには将来へのスタートダッシュを、高齢の親には定期収入を、現役世代には成長と安定のバランスを。個人で積み立てるだけでなく、家族で協力し合って資産を育てる──そんな資産形成の新しいパラダイムが開けるかもしれません。
筆者としては、この制度の可能性を非常にワクワクと感じています。そして、家族単位で長期的に資産を育てる視点は、これからの時代にますます重要になると思います。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
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