高校就学支援金は、高校生の子どもがいる家庭の経済的負担を軽くする制度です。2020年度からは私立高校の授業料も実質無償化されましたが、実は就学支援金を受け取れないパターンがいくつかあります。
本記事では、高校就学支援金をもらえない理由を分かりやすくまとめました。
目次
高校就学支援金には、両親の課税標準額(※)を基準にした「所得制限」があります。夫婦の収入がこの所得制限を超える世帯は、高校就学支援金を受け取ることができません。
(※)税金を計算するために用いられる金額のこと。特別徴収税額決定通知書や課税証明書に記載されており、収入等から各種控除を差し引いて計算する。
特に以下のケースに該当する場合は、気づかないうちに所得制限を超えることがあるので注意しましょう。
<所得制限を超える主なケース>
・昇進などで収入が増えた
・世帯収入が増えて配偶者控除が適用されなくなった
・共働きをやめて所得制限が変わった
両親のうち一方が働いており、高校生と中学生の子どもが1人ずついる世帯では、年収約910万円が所得制限の目安です。 実際の年収の目安は家族構成や適用される控除などで変わるため、所得制限の仕組みから理解することが大切です。
高校就学支援金は、高校生の子どもがいる家庭を支援する国の制度です。以下の要件を満たすと、最大で年間39万6,000円(月額3万3,000円)が支給されるため、高校の授業料が実質的に無償となります。
<高校就学支援金の要件>
在学要件:日本国内に住んでおり、高等学校やそれに準ずる学校に在学していること。
所得要件:課税標準額で計算される所得制限を満たしていること。
2020年4月には制度が拡充され、私立高校の授業料も実質無償化となりました。 全日制の高校はもちろん、通信制や高等専門学校なども対象に含まれるので、 教育費を気にせずに進学先を選びやすい状況になっています。
高校就学支援金には所得制限があり、世帯収入によっては支給額が減ったり、支援金をもらえなかったりすることがあります。どのように金額が計算されるのか、以下では所得制限の仕組みを解説します。
高校就学支援金の支給額は、課税標準額と住民税の調整控除額をもとに決められます。その基準となるのが基準額で、以下のように計算します。
<支給額の算定方法>
基準額=課税標準額×6%-住民税の調整控除額
政令指定都市に納税している場合は、調整控除額に4分の3を乗じます。
<基準額30万4,200円未満の場合>
年間11万8,800円が支給される
※年収目安910万円未満
<基準額15万4,500円未満の場合>
年間39万6,000円が支給される
※年収目安590万円未満
公立高校の場合は一律年間11万8,800円が支給され 、授業料負担が実質無償化となります。年収目安910万円以上の家庭は対象にはなりません。
基準額については、保護者全員分の金額を合計する必要があります。実際に以下の前提条件を使って、高校就学支援金を計算してみましょう。
<前提条件>
保護者:夫婦2人のみ
居住地:大阪府大阪市(政令指定都市)
課税標準額:夫が500万円、妻が300万円(共働きの世帯)
調整控除額:夫が30万円、妻が10万円
<計算方法>
課税標準額×6%-住民税の調整控除額=基準額
<実際の計算>
(500万円+300万円)×6%-{(30万円+10万円)×3/4}=18万円
基準額が15万4,000円~30万4,200円未満の範囲なので、上記のケースでは年間11万8,800円の就学支援金を受け取れます。
以下の表は、高校就学支援金の所得制限に関して、目安となる年収を家族構成別にまとめたものです。
子どもの数 | 扶養控除対象者の数 | 11万8,000円を受給できる目安年収 | 39万6,000円を受給できる目安年収 |
---|---|---|---|
1人 (高校生) | 通常の扶養:1人 特別扶養:0人 | 約1,030万円まで | 約660万円まで |
2人 (高校生・中学生以下) | 通常の扶養:1人 特別扶養:0人 | 約1,030万円まで | 約660万円まで |
2人 (高校生のみ) | 通常の扶養:2人 特別扶養:0人 | 約1,070万円まで | 約720万円まで |
2人 (大学生・高校生) | 通常の扶養:1人 特別扶養:1人 | 約1,090万円まで | 約740万円まで |
3人 (大学生・高校生・中学生以下) | 通常の扶養:1人 特別扶養:1人 | 約1,090万円まで | 約740万円まで |
子どもの数 | 扶養控除対象者の数 | 11万8,000円を受給できる目安年収 | 39万6,000円を受給できる目安年収 |
---|---|---|---|
1人 (高校生) | 通常の扶養:1人 特別扶養:0人 | 約910万円まで | 約590万円まで |
2人 (高校生・中学生以下) | 通常の扶養:1人 特別扶養:0人 | 約910万円まで | 約590万円まで |
2人 (高校生のみ) | 通常の扶養:2人 特別扶養:0人 | 約950万円まで | 約640万円まで |
2人 (大学生・高校生) | 通常の扶養:1人 特別扶養:1人 | 約960万円まで | 約650万円まで |
3人 (大学生・高校生・中学生以下) | 通常の扶養:1人 特別扶養:1人 | 約960万円まで | 約650万円まで |
「目安年収」と記載している理由は、家庭ごとに適用される控除が異なるためです。 同じ年収であっても、控除額によっては支給額が変わることもあるので、上記はあくまで目安として確認してください。
ここからは、高校就学支援金がもらえないとき、どのような理由が考えられるのかまとめました。以前は支給されていても、家計の状況が変わるともらえなくなる場合もあるので、家族の働き方などを意識しながら確認していきましょう。
昇進などで収入が増えると、前述の所得制限に引っかかることがあります。昇進や昇給の他にも、課税標準額には副業などによる収入も含まれます 。子どもが高校在学中に収入増を目指す場合は、所得制限に引っかからないことを確認してください。
世帯収入が増えると、住民税の調整控除額にも影響が出ます。特に注意したいのは、納税者本人や配偶者の所得で金額が変わる「配偶者控除」「配偶者特別控除」が挙げられます。
両控除制度の違いは、配偶者の所得金額です。「配偶者控除」の対象は、配偶者の所得が48万円以下までです。一方で、「配偶者特別控除」の場合は、配偶者の年間の合計所得金額が48万円から133万円以下まで適用されます。
いずれの控除制度も、世帯年収が増えるほど控除額が下がる傾向にあります。配偶者控除が減額されたり適用されなくなったりすると、住民税の調整控除額が減ってしまうので注意しましょう。
前述の目安年収表を見ると分かるように、共働きをやめると所得制限の目安年収が下がります。夫婦の働き方で目安年収がどれくらい変わるのか、一例を紹介しましょう。
<11万8,000円を受給できる目安年収>
子どもの数 | 共働き | 夫婦一方のみ |
---|---|---|
1人(※1) | 約1,030万円まで | 約910万円まで |
2人(※2) | 約1,070万円まで | 約950万円まで |
3人(※3) | 約1,090万円まで | 約960万円まで |
<39万6,000円を受給できる目安年収>
子どもの数 | 共働き | 夫婦一方のみ |
---|---|---|
1人(※1) | 約660万円まで | 約590万円まで |
2人(※2) | 約720万円まで | 約640万円まで |
3人(※3) | 約740万円まで | 約650万円まで |
(※1)対象:高校生
(※2)対象:高校生のみ
(※3)対象:大学生・高校生・中学生以下
同じ家族構成で比較すると、共働きをやめた場合は目安年収が70~90万円ほど変わります。夫婦の働き方は控除額に影響するため、減額または適用されなくなる制度はしっかりと確認しておきましょう。
高校就学支援金を受け取るには、対象となる学生が日本国内に住んでおり、以下の学校に通っている必要があります。
<高校就学支援金の対象校>
・全日制や定時制、通信制の高等学校(国公私立)
・中等教育学校の後期課程
・特別支援学校の高等部
・高等専門学校
・高校課程の専修学校
・国家資格者養成課程に指定されている専修学校
・一定の要件を満たす外国人学校
一般的には高校という認識であっても、専攻科・別科の学生や、科目履修生または聴講生にあたる学生は対象になりません。3年間を超えて在学している学生も、高校就学支援金の対象外になります。 ただし、定時制と通信制は入学後4年間支給されます。
全ての条件を満たしている場合でも、高校就学支援金の受け取りには手続きが必要です。期限は自治体や学校によって異なりますが、原則として入学する4月に必要書類を提出しなければなりません。
なお、所得制限の判定には住民税の情報が使われるので、前もって地方住民税の申告を済ませておく必要があります。
高校就学支援金の所得制限は、家族の働き方や家計を見直すことで回避できる可能性があります。ここからは、多くの家庭で取り組める3つの回避方法を紹介します。
世帯収入を減らすと、所得制限の基準となる課税標準額が下がります。また、個人の所得金額を抑えることで、住民税の調整控除額(配偶者控除など)が増える可能性もあります。
正社員の収入を調整することは難しいですが、配偶者がアルバイトやパートなどで働いている場合は、シフトを減らすことも考えてみましょう。
課税標準額を抑えたい場合や、住民税の調整控除額を増やしたい場合は、「生命保険料控除」や「地震保険料控除」も活用できます。これらの制度では、支払った保険料の一部に住民税の控除が適用されます。
高校就学支援金のみを目的に加入する必要はありませんが、万が一の事態や将来に備えながら所得制限を回避したい人は、生命保険や地震保険の活用を検討してみましょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)と企業型DC(企業型確定拠出年金)は、公的年金とは別に老後資産を積み立てられる制度です。あらかじめ設定した掛金を毎月拠出し、その資産を使って金融商品(投資信託や定期預金など)を運用しながら資産形成を行えます。
確定拠出年金には以下の節税効果があり、毎月の拠出額を増やすほど課税標準額が下がります。
<確定拠出年金の節税効果>
拠出時:個人で拠出した全ての掛金に所得控除が適用される。
運用時:金融商品の運用益が全て非課税になる。
給付時:一時金には「退職所得控除」、年金には「公的年金等控除」が適用される。
企業型DCでは会社が掛金を負担しますが、マッチング拠出分(※)については全額が所得控除の対象になります。お勤め先でマッチング拠出が導入されていない場合は、iDeCoと企業型DCの併用を検討してみてください。
(※)会社の掛金に上乗せする形で、加入者個人が掛金を拠出できる制度のこと。
高校就学支援金の所得制限に引っかかる場合は、課税標準額を減らすか、住民税の調整控除額を増やす必要があります。収入を減らす方法は分かりやすいですが、世帯収入は生活水準に関わるため、まずは所得控除の活用を考えましょう。
所得控除には多くの制度があるので、活用できるものがないか確認してみてください。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。