環境意識が高まる中、リサイクル率の向上に向けた取り組みの一環として、リサイクル施設への投資が活発化しています。施設投資の事例とともに、実物資産としてのリサイクル施設の価値について考察します。
目次
温暖化対策の一環として世界規模で推進されているリサイクルは、循環型社会(※)を実現するための重要な取り組みの一つです。
(※)環境負荷の低減を目指し、再利用・再生することで資源を循環させる社会のこと。
世界的に環境意識が高まっているにも関わらず、世界のリサイクル率 は16%と依然として低く、「2030年までに廃棄物の発生を大幅に削減する」というSDGs(持続可能な開発目標)の目標には程遠い状況です。
世界経済フォーラムは(WEF)は、リサイクル活動 を広範囲にわたって促進する上で、「リサイクル技術の向上」「リサイクル施設へのアクセスの改善」が不可欠だと述べています。
このような背景から、リサイクル施設の重要性がより一層高まっています。リサイクル施設は、ごみの種類や処理方法、目的などに合わせて、さまざまな種類が存在します。
収集された不燃ごみや粗大ごみを解体・選別・保管することを目的とする「リサイクルセンター」、廃棄物を製品の原料として再生利用する「リサイクルプラント(再生処理施設)」、複数の異なるタイプの施設を組み合わせた「多目的施設」などに大きく分けられます。
高度な技術を活用する次世代リサイクル施設を含め、いくつかの事例を見てみましょう。
スコットランドの地方自治体で家庭ごみの量が最も多いグラスゴー の市議会は2023年1月、グラスゴーのリサイクル施設の近代化に2,100万ポンド(約34億8,600万円)以上を投じるプロジェクトを発表しました。
このプロジェクトには「ツインストリームサービス」と呼ばれる、繊維(紙・段ボールなどの厚紙)と容器(プラスチック、金属など)を別々に収集できるリサイクルシステムの導入や、それを処理するための新たな施設の開発などが含まれています。
同市はプロジェクトを通し、年間6,000トン以上のCO2削減を見込んでいます。プロジェクトの資金は、スコットランド政府の「リサイクル改善基金」から調達したものです。
民間企業によるリサイクル施設への大型投資も活発化しています。
2022年1月、米化学メーカーのEastman(イーストマン) は最大10億ドル(約1,340億円)を投じ、フランスに世界最大規模のプラスチックリサイクル施設を建設する計画を発表しました。この施設では同社のポリエステル再生技術を使用し、現在焼却されているリサイクルが困難なプラスチック廃棄物を年間最大16万トンリサイクルする予定です。
一方で、総合エネルギー企業のExxonMobil(エクソンモービル) は、オランダの大手化学品メーカーのLyondellBasell(ライオンデルバセル)、プラスチックリサイクルのソリューションを提供するCyclyx International(サイクリックス・インターナショナル)と共同で、米テキサス州のグレーター・ニューストン地域で初のプラスチック処理施設の開発を進めています。
2024年の稼働開始が予定されているこの施設はCyclyx Internationalの革新的技術を活用し、ニーズに合わせてカスタマイズ可能なプラスチック原料を生産するよう設計されています。投資総額は推定1億ドル(約134億円)、年間15万トンの生産を予定しています。
このように投資が活発化する中、一部の不動産投資家の間ではリサイクル施設が実物資産として注目されています。廃棄物やリサイクル施設の建設・運営には複雑な条件を満たす必要があるため、近年急成長を遂げているデータセンターや物流施設などと比べると、投資の主な対象とはなっていないでしょう。
一方で、リサイクル施設の需要は世界中で高まると予想されていることから、今後リサイクル施設に特化したREIT(不動産投資信託) といった金融商品が生まれるかもしれません。
リサイクル分野の投資に興味のある方は、廃棄物・リサイクルサービスやリサイクル関連テクノロジーについて、定期的に情報収集しておくと良いでしょう。統計サイト「Statista (スタティスタ)」によると、世界の廃棄物・リサイクルサービスの市場規模は2030年までに900億ドル(約12兆600億円)に成長する見込みです。
温暖化対策や循環型社会への取り組みが今後さらに加速することが予想されるため、リサイクル関連の市場は大きな成長が期待できます。Wealth Roadでは、引き続きリサイクル関連市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=134円、1ポンド=166円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式やREITの売買及び投資を推奨するものではありません。