今回は、「節税になる!」という宣伝文句でよく使われる税金の控除について解説したいと思います。控除には「所得控除」と「税額控除」の2つがあり、どちらなのかで全く効果が異なることを多くの人が知りません。
正しく理解することで節税効果を自分事で考えることができるようになるので、そのポイントを解説します。
目次
控除の違いを理解するためには税金の計算の流れを知ることが重要です。税金の計算は大きく4ステップあると理解しましょう。
この計算の流れを見ていただくとわかるとおり、税額控除は税額からダイレクトに引かれています。つまり、税額控除が10万円だと10万円税金が少なくなります(10万円以上の所得税がある場合)。
しかし、所得控除は税率を掛ける前に引かれています。これが所得控除の効果のわかりにくさであり、効果を知るためには所得税率を把握する必要があります。
そして、所得税率は源泉徴収票で簡単に知ることができるので、最後に解説します。
では、この流れを確認しながら、控除の違いをより深く理解していきましょう。
まず、所得を計算するところから始めましょう。所得と収入の違いを簡単に言えば、所得とは所得税を計算するための概念です。
収入とはその年1年間で稼いだお金です。しかし、お金を稼ぐためには経費が必要ですから、所得税を計算するためには「収入から経費を引いた後の金額」を把握する必要があります。それが所得です。
しかし、会社員の方は、自分で領収書を集めたりして、経費を払っている感覚はないと思います。そのため、会社員の方の場合、みなし経費として給与所得控除を利用することができます。
| 給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 | |
|---|---|---|
| 1,900,000円まで | 650,000円 | |
| 1,900,001円から | 3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
| 3,600,001円から | 6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
| 6,600,001円から | 8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
| 8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
例えば、給与が400万円の方の場合は、給与所得控除は400万円×20%+44万円となり、124万円となります。よって給与から給与所得控除を引いた後の金額は276万円となります。この金額が所得金額です。
では、次に所得から所得控除を差し引くステップに移りましょう。配偶者控除や扶養控除、医療費控除、社会保険料控除など、その人の状況に合わせて差し引くことができる控除が多く用意されています。
わかりやすく言ってしまえば、同じ所得であっても、子供が3人いる方と独身の方では税を担う力(担税力)が異なるため、それらを調整するために所得控除があると思っておけばシンプルです。
それぞれの控除の説明は省略しますが、仮に所得控除の合計が130万円だとすると、課税所得は276万円から130万円引いた146万円となります。
ようやく自分の所得税率を把握して、自分の場合所得控除の効果はいくらなのか? という問題を理解できる箇所にたどり着きました。
実は、所得税率は課税所得さえわかってしまえば、一瞬で調べることができます。以下の表を見てください。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
| 1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
表の左側に「課税される所得金額」と書いていますが、これが課税所得です。そして、その右側には税率と書かれている通り、課税所得金額が把握できれば税率もすぐにわかります。
では、まずは課税所得146万円の人の所得税の金額を計算してみましょう。表を見れば、税率は5%ですので、所得税額は7.3万円(146万円の5%)だと計算できますね。もし、税額控除がなければ、納税する所得税額は7.3万円となります。
ちなみに、税額控除の種類は所得控除と比較すると少なく、多くの方に馴染みがあるのは住宅ローン控除です。もし、住宅ローン控除があり、5万円の控除がある場合は、所得税額の7.3万円から5万円を差し引いた2.3万円を納税することになります。
では、所得税率5%の人の場合、所得控除が1万円増えることでどれだけ所得税が少なくなるでしょうか? 計算は簡単で「所得控除×所得税率」で知ることができます。つまり、所得税率5%なら1万円の所得控除の効果は500円です。
所得控除を受けた場合、住民税も効果があります。そして、住民税の所得割の税率は一律10%です。そのため、住民税の控除効果は「所得控除×10%」となります。
厳密には、所得税と住民税では控除される金額に差があるため完全に10%減るわけではありませんが、目安として所得税と住民税を合わせた控除メリットは「所得税率+10%」とシンプルに覚えておきましょう。
つまり、所得控除のメリットは所得税率が高い人ほど効果も高いと言えます。
例えば、所得控除が10万円だったとします。所得税率5%の人は住民税と合わせて15%の効果なので、1.5万円の税金が少なくなりますが、所得税率が20%の人は住民税と合わせて30%の効果なので、3万円の税金が少なくなります。
だからこそ、節税になる! と言われても人によってその節税効果が違うので、鵜呑みにせず自分事で考える必要があるわけですね。
とはいえ、コラムに書かれているとおりに自分で計算するのは大変です。そこで源泉徴収票を使って簡単に調べる方法をお伝えします。
以下の画像のように源泉徴収票に書かれている数字を2つチェックするだけで簡単に課税所得を調べることができます。
源泉徴収票に書かれている「給与所得控除後の金額」はコラムで解説した所得と呼ばれるものです。そして、そこから所得控除の金額を引けば課税所得が計算できるとお話ししてきました。
そして、②「給与所得控除後の金額」の右側にある③「所得控除の額の合計額」こそが、所得控除の合計額ですから、②「給与所得控除後の金額」から差し引けば課税所得を知ることができます。
厳密には、源泉徴収票では確認できない医療費控除などの所得控除もありますが、そういった所得控除がなければ、この計算方法で課税所得から所得税率を知ることができます。
節税になるというキャッチコピーでいろんな広告がありますが、控除と一言で言っても所得控除と税額控除では全く効果が違うこと、さらには所得控除も所得にとって全く効果が違います。
だからこそ、自分事として調べる必要があります。まずは源泉徴収票で一度自分の所得税率を調べてみてはいかがでしょうか。
※本記事では、説明の簡略化のため復興税率を除いています。
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※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
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