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世界の経済成長:中国とユーロ圏では製造業の好調な数値が発表され、米雇用統計は予想を大幅に上回った
中央銀行:米連邦準備理事会(FRB)やその他中央銀行がこうした前向きな経済データをどう解釈するかにより、今後の展開が左右される
想定されるベースケース:FRBによる引き締めは終わりに近づいており、あと1~2回ほどの0.25%の利上げを残すのみと想定
中国
ユーロ圏
米国
英国
中央銀行はどう対応するか?
今後の見通し
昔からよく耳にする、「ケーキを残しておき、なおかつ食べることはできない」という古いことわざがあります。これが最初に使われたのははるか昔、1538年にノーフォーク公トマスがトマス・クロムウェルに宛てた手紙にまでさかのぼるようです1 。詩人のジョン・キーツも、ある詩の中で「名声について(ii):『ケーキを食べてしまったら、もうそれを残しておくことはできない』―ことわざ」とそれに言及しています2 。
メリアム・ウェブスター辞書によれば、「ケーキを残しておき、なおかつ食べることはできない」というのは、「物事の悪い部分をこうむったり対処したりすることなく、良い部分だけを享受すること」と定義されています。一般的に、人はこのような考え方―特定の出来事やハプニングについてマイナスなしに、プラスのみを享受することはできない―を重視し、ルールであるかのように取り扱っています。
しかし最近発表されたデータをみると、このルールには例外があり、私たちが「ケーキを残しておき、なおかつ食べている」状態にあるのかもしれないと思えてきます。
まず、中国をみてみましょう。先週、1月の購買担当者景気指数(PMI)が発表され、製造業PMIは50.1となり、12月の47.0から上昇しました。サービス業PMIは54.4と12月の41.6を上回り、さらに力強く上昇しました3 。他方、新型コロナウイルスの感染者数は12月下旬、同入院数は1月上旬にピークを迎えたようです。経済活動の再開により、新型コロナウイルス関連の大きな問題(すなわち感染者数、入院数、死者数の大幅な増加)が伴うのは不可避との見方もありましたが、それは杞憂に終わったようです。この点では、中国のワクチン接種率の高さが功を奏しているのかもしれません。中国は、「ケーキを残しておき、なおかつ食べている」状態のようにみえます。
次に、ユーロ圏はどうでしょうか。ユーロスタットが発表した2022年10-12月期のユーロ圏GDP成長率速報値は予想を上回り、7-9月期比で0.1%増となりました。また2022年通年のユーロ圏GDP成長率見通しは、3.5%と驚くべき数字となりました4 。ユーロ圏の1月の総合PMIは、予想を上回って2022年6月以来初めて拡大領域に戻り、サービスPMIは6カ月ぶりの高水準となりました5 。製造業PMIは依然として縮小領域にあるものの、12月の値から改善し、投入コスト上昇率は実に26カ月ぶりの低水準となりました6 。ユーロ圏経済は多くの人が予想した以上に好調で、景気後退を回避できる可能性が高まっており、またインフレも低下基調が続いています。エネルギー価格は、暖冬や節約施策、またロシア産石油・ガスが米国、ノルウェー、中東・北アフリカ地域(MENA)によって代替されたことにより、大幅に低下しました。ユーロ圏もまた、「ケーキを残しておき、なおかつ食べている」状態にあるのかもしれません。
そして、米国です。米雇用統計は、1月の非農業部門雇用者数が51万7000人となり、予想の18万9000人を大きく上回って雇用市場の盛況を示しました7 。また失業率も3.4%と極めて低い水準に低下しました。それでもなお労働参加率は改善し、賃金の伸びは比較的控えめで、市場予想どおり、前月比0.3%、前年同期比4.4%となりました7 。これは、2022年10-12月期の労働者の報酬コストが1.0%の増加にとどまった、米雇用コスト指数に続く控えめな伸びでした8 。
米国もまた、「ケーキを残しておき、なおかつ食べている」可能性があります。米国では、労働市場やより広範な経済に対してのダメージを比較的小さく抑えつつ、インフレが低下基調を続ける、(ソフトランディングまたはソフトランディングに近い)比較的痛みを伴わない「ディスインフレ」シナリオが目下進行している可能性があります。
英国にはそもそも食べられるケーキがそれほどないように見えることに、まず留意すべきでしょう。スナク首相率いる新政権は、増税対応、膨らむ公共支出の抑制、医療、交通、公共サービスなどの重要セクターの労働者による一連の大規模ストライキへの対応などに迫られています。インフレは執拗に高止まりし、生活水準に悪影響を与えています。イングランド銀行による利上げサイクルが終わりに近づいているにもかかわらず、英国が景気後退に陥る可能性は非常に高いようにみえます。実際、国際通貨基金(IMF)の最新の経済見通しでは、世界の成長見通しが上方修正された一方で、英国の成長見通しは下方修正されました。IMFが今年景気の後退を予想している先進国は、英国だけとなっています。
実際いくつかの主要国では、並行して生じると予想されたマイナス面―中国の場合は新型コロナウイルスの大幅な感染拡大、ユーロ圏や米国の場合はインフレ率の上昇―を伴わずに、予想以上の経済成長を達成することができているようです。
しかし、欧米先進国の景気回復シナリオを台無しにしてしまう可能性があるのが、中央銀行です。重要なのは、「私たちが」データをどう解釈するかではなく、「中央銀行が」データをどう解釈するかであることを忘れてはいけません。
例えば、米連邦準備理事会(FRB)の懸念はサービスインフレにあります。金曜日に米供給管理協会が発表した最新のPMIでは、サービス業の回復が顕著となり、予想の50.5に対して55.2となりました。これは前回の49.2からの大幅な上昇です。最も注目すべきは新規受注指数で、12月の45.2から一気に15.2ポイントも上昇し、60.4の高い値を示しました9 。
財・住宅価格の改善が見られる(11 月の S&Pコアロジック・ケース・シラー全米住宅価格指数は前月比 0.56% 低下となり、前月比ベースで5カ月連続の低下10 )一方で、FRB はサービス価格、特にタイトな労働市場に注目しているようです。
私たちは、米雇用統計の結果により、FRBの引き締めサイクルが大きく変わることはないと見ていますが、また同時に米国経済が十分好調なため、FRBが利下げの正当性を感じず、今年中の利下げを見送る可能性も高くなったと考えています。
私たちは、FRBによる引き締めは終わりに近づいており、政策金利引き上げの「一時停止ボタン」が押されるまで、あと1~2回ほどの0.25%の利上げを残すのみと見ています。先週申し上げたように、カナダ銀行の対応にならい、経済データが満足のいくものでなければ利上げを再開する、という厳しい文言を含む「条件付き一時停止」を行うことも考えられます。そうすれば、引き締め停止が早すぎたためにインフレの火種を消せず、再点火の隙を与えかねない、というFRBタカ派の懸念も十分和らげられるかもしれません。
インフレ緩和の兆候が続いているにもかかわらず労働市場がタイトとなっていることを、FRBが快く思っていない可能性もあります。この場合、予想以上にタイトな労働市場に対してFRBがより長期に引き締めを行い、米国経済の弱体化や景気後退のリスク増大につながることもあり得ますが、それは私たちの考える基本シナリオではありません。
市場については、金融政策や債務上限問題などのリスクについて大きな不確実性が残るため、当面はボラティリティの高い状態が続くと見ています。しかし私たちは、市場が景気後退リスクについて前向きに再評価し、今年後半に始まる可能性のある景気回復に期待しつつ織り込むことで、世界的なリスク選好が高まっていくと予想しています。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2023-015