バフェットの過ちから学ぶ、投資の心得

『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』より一部抜粋

(本記事は、桑原 晃弥氏の著書『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』=KADOKAWA、2021年12月2日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「あの人がそうしたから」は、自分の行動の理由になり得ない

投資には確固たる理由、それも自分の頭で考えた理由が必要だとバフェットはいいます。しかし、現実には多くの人が「値上がりしているから」「専門家が推奨しているから」といったとても単純な理由で買い、また逆の理由で売ったりしています。

バフェットが自分で考えることの大切さを思い知らされたのは1950年、コロンビア大学大学院に在籍していた頃のことです。入学する少し前、バフェットは父ハワードと一緒にミネソタ州ダルースにある金物卸売業者マーシャル・ウェルズ株を25株購入しました。ある日、大学の授業を欠席して同社の株主総会に出席しますが、そこで経営陣に手厳しい質問をする証券会社ストライカー&ブラウンのルイス・グリーンと出会います。

グリーンもグレアムの盟友の1人であり、株が割安で儲けが確実な会社を探しては、取締役を送り込めるだけの株数を買って、経営に影響力を及ぼそうとしていました。バフェットはそんなグリーンに感銘を受け、好印象を与えようと熱心に話しかけました。

株主総会からの帰り、バフェットをランチに誘ったグリーンは最初は他愛のない話をしてバフェットを楽しませてくれましたが、しばらくしてバフェットにこう質問しました。

「どうしてマーシャル・ウェルズを買った?」

バフェットの答えは「ベン・グレアムが買ったから」(『スノーボール(上)』)でした。

実際にはバフェットなりにマーシャル・ウェルズについて詳細に分析して、債権のように確実で、たとえ配当がなかったとしても、株価は徐々に上昇するはずだと踏んでいましたが、バフェットにとっては「グレアムが買っている」という事実が背中を押したのもたしかだったので、こう答えました。すると、その答えを聞いたグリーンはバフェットの顔を見て、「ワン・ストライク」といったのです。

それは「ウォーレン、自分の頭で考えろよ」という意味であり、この言葉を聞いて以来、バフェットは二度と同じ過ちは犯してはならないと考えるようになりました。バフェットは当時のことをこう振り返っています。

「小さなカフェテリアで話をして、この魅力的な人物といっしょにいるうちに、気がついたら私は三振していた」(『スノーボール(上)』)。バフェットにとってグリーンの「ワン・ストライク」はそれほどの衝撃だったのです。

誰かのあとをついていき、誰かの真似をするのはたやすいことです。ましてやその誰かがグレアムのような権威者であれば、そのあとをついていけば物事はうまくいくように思えますが、バフェットは学生時代に二番手として真似をする危うさを経験していました。

ローズヒル校時代、バフェットはコルネットを習っていましたが、懸命に練習した甲斐があって、学校の休戦記念日の式典で演奏することになりました。

当日の朝、バフェットは生徒全員の前で演奏できることが嬉しくてたまりませんでしたが、あろうことか第一奏者が途中の音を間違えてしまったのです。その瞬間、バフェットは不意を衝つ かれ、凍りつき、どう吹けばいいかわからなくなったといいます。

第一奏者の間違えた音を真似て吹くか、それとも正しい音を吹いて第一奏者に恥をかかせるか。最終的にどちらを選んだかをバフェットは覚えていないといいますが、そこからこんな教訓を学んだといいます。「二番手になって真似をするという人生を送るのは簡単だが、一番手が間違った音を吹いたらそれはだいなしになる」(『スノーボール(上)』)。

誰かの後をひたすらに付いていく、あるいは誰かの真似をするのは楽ですが、その誰かが間違ったなら自分も間違えることになります。

グリーンに「ワン・ストライク」といわれたバフェットは二度と同じ過ちを犯さないよう、自分で調べ、自分で考えることを徹底するようになりました。そこで出会ったのが保険会社のガイコであり、ガイコへの投資は周りの人すべてが「やめておけ」というほどのものでしたが、バフェットは人生で初めての借金をしてまで購入に踏み切っています。

後年、バフェットは学生や投資家にこうアドバイスするようになりました。

「『なぜ自分は現在の価格でこの会社を買収するのか』という題で、一本の小論文を書けないようなら、百株を買うこともやめたほうがいいでしょう」(『バフェットの株主総会』)

投資には確固たる理由が欠かせません。求められるのは「〇〇が買ったから」「○○が推奨しているから」などではない、自分で調べ、自分で考えた確固たる理由です。それがなければ株に手を出すべきではないし、反対に確固たる理由があれば、周囲の声など気にする必要もないのです。これは投資以外にもいえる成功の掟でしょう。

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<著者プロフィール>

桑原 晃弥
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。著書に『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』(文響社)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『1分間バフェット』(SBクリエイティブ)、『トヨタ式5W1H思考』(KADOKAWA)などがある。

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