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バフェットはなぜ日本の5大商社に投資したのか?

『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』より一部抜粋

(本記事は、桑原 晃弥氏の著書『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』=KADOKAWA、2021年12月2日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

東日本大震災の年、バフェットはなぜ日本を訪問し、今なぜ日本の五大商社に投資したのか?

バフェットは日本食が大の苦手で、ソニー創業者の盛田昭夫さんとの食事では出された日本食にまったく手をつけることができなかったほどです。もっとも、当時からソニーには興味があったようで、2000年に行われた『日経ビジネス』のインタビューでは「ソニー株に興味はあるが、割高」と購入を見送る姿勢を示しています。

日本株よりも韓国株や中国株への関心が高かったというのも事実ですが、そんなバフェットが福島県いわき市の工具メーカーの新工場完成式典に出席するために初来日したのは2011年11月だったというのは驚きです。

同年3月、日本では東日本大震災が起きており、原発事故の影響もあって、多くの外国人が日本を離れたり、来日をためらったりするなか、バフェットはあえて日本に来ています。その少し前にはテスラモーターズとスペースXを率いるイーロン・マスクも来日、福島を訪れて太陽光発電の設備を寄贈していますが、こうした勇気ある行動は日本人を励ますものとなりました。

当時の日本企業を取り巻く環境はとても厳しいものでした。

輸出産業にとって急速に進む円高ドル安に加え、ユーロ安も加わったことで、かつて頼みとした欧米市場は利益の出にくい市場と化していました。韓国企業や中国企業、台湾企業の躍進も著しく、かつて日本が得意とした半導体や電気製品などの分野でも苦しい戦いを強いられていた時期です。

少子高齢化によって進む国内市場の縮小と、厳しい輸出環境に、さらなるダメージを与えたのが東日本大震災でした。これだけ悪条件が重なれば、日本企業の将来に悲観的にならざるを得ないところですが、初来日したバフェットは投資先の企業の設備の見事さや、社員の優秀さを称賛したうえで、「日本人や日本の産業に対する私の見方は変わっていません」として、こう言い切っています。

自分たちが本当にやりたいのは日本の大企業の買収であり、「もし日本の大企業から明日電話をもらって、バークシャーに買収してほしいという申し入れがあれば、飛行機に乗ってすぐ駆けつけますよ」(『日経ヴェリタス』No.194、日本経済新聞社)

日本の株式市場が長い低迷から抜け出せないなか、なぜバフェットはこれだけ自信を持って日本企業への投資を言い切れたのでしょうか。会見でこう話しています。「私だけではないと思いますが、世界中の人たちが今回の震災および原子力発電所事故後の日本を見て、やはり日本は前に進むことをやめない国だなという気持ちを新たにしたと思っています」

震災を経てもなお、バフェットの日本に対する見方は変わっていませんでした。社会や消費者にとってなくてはならないものをつくる会社で、長期にわたって競争力を持つことのできる企業であれば喜んで投資したいというのがバフェットの考えでした。

それから9年近く経った2020年8月、バフェット率いるバークシャー・ハザウェイが伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の五大総合商社の株式取得を発表したことが大きなニュースになりました。

金額にして約60億ドルの投資です。バフェットにとっては、日本への投資としては過去最大級のものでした。しかし、その後、5社すべての株価が値下がりしたことで、「なぜバフェットは今さら日本の商社に投資するのか?」という疑問の声が聞かれるようになりました。バフェットは自らの口ではっきりとその理由を説明していません。

世界的なコロナ禍によって商品需要が損なわれ、有り余ったお金がバリュー(割安)株よりもグロース(成長)株へと向かうなか、日本の商社株は利益を上げていても、株式市場では取り残された存在となりました。しかし、ワクチン開発などで少しずつ落ち着きを取り戻していた世界で、忘れられていた分野の割安株が再評価されるようになるのではという期待から、バフェットは投資に踏み切ったのではないかと考えられています。

実際、バフェットは5%の持ち株比率を10%近くに高める可能性もあると認めたうえで、「将来、お互いに利点があることをしたい」(『日経ESG』、日経BP)とも話していただけに、その可能性を感じていたのでしょう。

翌2021年2月、バフェットはバークシャー・ハザウェイ恒例の「株主への手紙」を公開しましたが、それによると同社の上場株の保有額上位15銘柄には、日本企業として初めて伊藤忠商事が入ることになりました。保有額は23億ドルで、保有比率は約5%でしたが、バフェットは同社に関しては約5億ドルの含み益があると明かしています。

後述するように、バフェットはアメリカの経済が弱体化すると見ているわけではありませんが、上位15銘柄には他にも中国の電気自動車メーカーのBYDが入るなど、それまでのアメリカ株偏重から少しずつ脱しつつあるようにも思えます。日本の五大商社への投資も、割安株だったことに加え、資産構成のバランスを変えていく一環とも考えられます。

福島を訪問した際、バフェットは被災地の人々を励まし、地元メディアの要請に応えて、「頑張っぺ、福島」(『日経ESG』)と日本語でも応援したといわれていますが、主要先進国中、日本だけ経済の回復が遅れるなか、バフェットが日本株に投資しているという事実は励みであり、「日本もまだまだ捨てたものじゃない」と思わせてくれる、そんな存在がバフェットなのです。

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<著者プロフィール>

桑原 晃弥
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。著書に『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』(文響社)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『1分間バフェット』(SBクリエイティブ)、『トヨタ式5W1H思考』(KADOKAWA)などがある。

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