SNSなどを見ていると、iDeCoは使わずNISAだけで良いという意見が見られますが、個人的にはiDeCoの所得控除メリットは非常に強力であり、上手に活用していくべきだと考えています。
この記事では、iDeCoのデメリットである60歳までの資金拘束される点や、将来の改正リスクなども踏まえた上でiDeCoを活用し、その上でNISAの位置づけについても解説をします。
課税を繰り延べできるのがiDeCoの大きなメリット
まずiDeCoのメリットについて確認をしていきましょう。iDeCoのメリットは積み立て時に所得控除を受けることができる点です。昨今、退職所得控除のルールが改正される見込みで改悪だと騒がれていますが、しっかりと理解しておきたい点としてiDeCoは基本的には「課税の繰り延べ」をする制度だということです。
iDeCoは拠出時に所得控除を受けることができ、運用中は非課税となり、受け取り時点で元本も含めた全額が課税対象となる仕組みです。一方でNISAは体感としては認識しづらいですが、課税後の所得を元手に積み立てをし、その後非課税で運用して出口部分でも課税されない制度です。
仮に一ヶ月の積立額を2万円とした場合、NISAの積立額は2万円ですが、iDeCoの場合は2万円×(所得税率+住民税率)が還付されます。仮に20%の税率であれば、4,000円が還付されるため、その金額も投資するとするなら、NISAは2万円、iDeCoは2.4万円と積み立て時点の金額に差が生まれます。
つまり、iDeCoは拠出金を今年の所得税と住民税の課税対象から外し、それを未来の受け取り時点で課税する仕組みです。
少し難しい話ですが、NISAのような制度をTEEと呼びます。TとはTaxのTであり、Eとはexempt(免除)のEです。積み立て時点は課税後所得(T)で拠出し、非課税運用(E)、受取時も非課税(E)のため、TEEとなります。
一方で、iDeCoは最初に所得控除(E)を受け、非課税で運用(E)し、受取時の課税(T)のためEETとなります。
日本では退職所得控除のメリットが非常に大きいためEEEが可能となっていますが、世界的には珍しく、アメリカにおいて(IRAや401k)もシンガポールにおいて(SRS)もiDeCoと似たような制度はあるものの、全て出口部分で課税されるEETとなっています。
税制大綱には、所得控除を受けた後、出口部分で課税されない点については問題意識を持っているとの記載がなされていることから、ある程度までは所得控除があって良いものの、基本的には受取時点で課税することが望ましいと考えられていると捉えるのが良いと思います。
その点から踏まえれば、今後退職所得控除が縮小される可能性はある程度予測できますが、理解しておきたいことは出口部分で課税されることがiDeCoのメリットを否定することではないということです。
当たり前ですが、仮に所得控除の累計額が100万円、出口部分の課税額が20万円であれば差し引き所得控除の金額の方が大きいことは明らかですから、出口で課税されようともトータルで見て有利になるのであれば利用する方が合理的です。
また所得控除で増えた手取りを運用すれば、さらに所得控除のメリットも大きくなることを忘れてはいけません。
当然、iDeCoは原則60歳まで資金拘束され、受け取りまでにさらなる税制改正リスクも考えられるため、政府の動向に懸念を感じられる方は利用しないという選択も一つです。
受取時の控除を最大化するために月1万円のiDeCo積み立てがおすすめ
では、ここまで解説したように基本的にiDeCoという制度は、課税の繰り延べをする制度であるという事を理解した前提で、受け取り時の税額を極力少なくし、所得控除メリットを最大化するという欲張りな戦略を考えていきたいと思います。
仮にあなたが現在30歳であればiDeCoの拠出期間は30年以上あります。もしiDeCoの拠出期間が30年ある場合、退職所得控除は1,500万円(800万円+70万円×10年)となります。
そして、iDeCoの元利合計が退職所得控除の金額以内になるのであれば受け取り時の税金は0円となります。では、どれくらいの積立額なら控除内に収まるかを考えてみましょう。
仮にあなたが毎月1万円をiDeCoに拠出し、所得税、住民税合算した税率が20%だったとします。
この場合、1年間の積立額は12万円となり、12万円の20%である2万4,000円が手元に残ることになります。これが30年間続く場合、合計で72万円が所得控除のメリットとなります。
また所得控除によって手元に残った2万4,000円を毎年積立投資したと想定しましょう。6%で30年間運用できれば約200万円となります。
次に毎月1万円の積み立てを30年間続けた場合、6%で運用できれば元利合計は約1,000万円となります。つまり毎月1万円の積立額、6%の運用リターンであれば、現状の退職所得控除の制度が維持される場合、出口部分で課税されず、所得控除のメリットが丸々残ることがわかります。
では、将来退職所得控除が少なくなると想定するとどうでしょうか?現在20年超の期間に関しては、積立期間1年あたり70万円の控除額が設定されています。しかし、この制度設計が働き方の多様化に対応していないという指摘がされています。
そのため、現時点では改正については何も決まっていないのにもかかわらず、様々な憶測が飛び交っています。憶測の一つには、20年超の控除額が70万円ではなく40万円に減少するのではないかというものがあります。
では、そうなった場合、どれだけの影響があるのでしょうか?この場合30年間で拠出した場合、40万円×30年の1,200万円が退職所得控除となります。
しかし先ほど計算した通り毎月1万円の積み立てを6%で運用できたことを考えても、おおよそ1,000万円ですから、多少の改定がされたとしても、出口部分に課税される事はないと考えられます。
また考えにくい想定ですが、仮に退職所得控除が0円になったとしても、メリットがなくなるわけではありません。
長くなるため計算式は省略しますが、元利合計が約1,000万円に対し、退職所得控除が0円になっても、所得税の課税額は約57万円、住民税の課税額は50万円、合計約107万円となります。
所得控除のメリットは約200万円(運用益含む)でしたから、所得控除メリットは十分残ります。
合理的に考えると、iDeCoを使わないのはもったいない
さきほどの例のように出口で大きく課税されてもメリットが残ることを考えれば、十分にiDeCoを活用する理由はあるため、改正されるリスクばかり考えずに、個人的には小額でもiDeCoの拠出をして所得控除メリットを享受しておくことをおすすめします。
とはいえ、拠出額が多くなりすぎると出口部分の課税額も大きくなる事は事実ですので、不安な方はiDeCoを月1万円ほどの積立額にしておき、残りの積み立てはNISAを併用していく方が良いでしょう。またiDeCoを少額利用にしておけば、60歳まで引き出せないという制約の影響も抑えられるのではないでしょうか。
井上ヨウスケ
役者から転身した異色のファイナンシャルプランナー。演劇で培った「伝える力」を活かし、「誰よりもわかりやすく」をモットーにお金の知識を発信。27歳でFP資格を取得し、独立系FPとして講演や相談業務を展開。動画講座やYouTubeでも活動し、「どこでも働ける」を実現。投資や保険の知識に加え、価値観を軸にした柔軟なお金の使い方も提案する。現在は高知県在住。