『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』より一部抜粋
(本記事は、崔 真淑氏の著書『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』=大和書房、2021年10月21日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
目次
ネット証券などでは、オンラインで米国株取引ができる場合があります。また円建ての投資信託やETF を通じて、アメリカの株価指数に投資することも可能です。ここでは米国株投資の特徴と、そのためにどんな情報が必要かを確認します。
世界最大の経済国であるアメリカには、各国から投資資金が集まります。アメリカの株式に投資することには、どんなメリットがあるのでしょうか。
日本の上場企業の株は、通常、売買の最低単元(100株)が決まっています。それに対して米国株は1株から売買できるため、比較的少額での投資が可能です。
金融情報大手のQUICK・ファクトセットによると、2021年7月23日時点でのアメリカの株式時価総額は世界の43.8%。ちなみに中国は9.3%、日本は5.9%、欧州は16.8%でした。
ニュースに出てくるアメリカの代表的な株式市場は、ニューヨーク証券取引所、ナスダックの2 つです。ニューヨーク証券取引所は時価総額で世界最大の取引所であるとともに、その上場審査の厳しさでも知られています。ここにはアリババ・グループ・ホールディング、JP モルガン・チェース・アンド・カンパニー、ジョンソン&ジョンソンといった世界を代表する企業が上場しています。ナスダックのほうは、前述のようにコンピュータシステムのみで運営される電子株式市場です。アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コムといった、こちらも世界の有名IT 企業が名を連ねています。
これまで見てきたように、アメリカの重要指数の発表がアメリカ株に影響を与え、それがさらに世界経済に波及します。
米国市場には世界中から資金が集まるのに加えて、すべての銘柄を1 株から購入でき、また、「ストップ高」と「ストップ安」といった制限がないという特徴があります(株式市場や先物取引で一定以上の価格下落が起きた際に、取引所が一時的に取引を停止させる等の措置を行う、「サーキットブレーカー制度」はあります)。
アメリカでは、いわゆるGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)のような新興企業が急成長を遂げてきました。
その理由の一つが、高いリスクをとってスタートアップ企業に投資をするベンチャーキャピタルや未上場株市場などの存在です。世界中から集まった優秀な人材が起業し、有望なアイデアがベンチャーキャピタルの資金を足掛かりに、成長企業へと駆け上がっていくシステムが築かれてきたのです。
アメリカの上場企業は常に世界との激しい競争にさらされ、企業経営も、業績を上げて株価上昇をめざすというプレッシャー下にあります。そうした背景から、成長がともなわない企業が非上場化するなど、上場企業の新陳代謝が促されています。その結果、伝統的な企業であっても、上場し続ける企業は成長を続けることができるのです。
上場企業の「株価×発行済み株数」で表される「時価総額」は、文字通り、その会社の「時価」を表しますが、アメリカ株には時価総額が大きい企業が多いという特徴があります。成長し、株価が上がるからこそ、時価総額も上がるわけです。
その会社がどれだけの収益を上げられるかという将来への期待を反映したものが株価ですから、時価総額は、会社の規模を示すとともに、将来の成長力も表しています。
※2010年9月から2021年6月、フェイスブックは2012年5月から、アルファベットは議決権付き株
※グラフ著者作成
IPO 市場IPO(Initial Public Offering =新規株式公開)とは企業が新規に株式市場に参入し、市場の一般投資家に対して初めて保有株式の売出しを行うことです。アメリカでは近年、数多くのベンチャー企業が生まれ、IPO を目指して、国内の経済を牽引する存在に成長しています。
アメリカでは1960 年代からシリコンバレーを中心に起業家が生まれ、成功者が創業から間もない企業に投資を行う「エンジェル投資家」となって、移民を含む有望な起業家に出資する歴史が築かれてきました。スタートアップ企業に投資するベンチャーキャピタルの層も厚く、成長を支えるためのさまざまな経営資源を提供します。
熾烈な競争で多くの企業が脱落するなか、成功した一握りのベンチャー企業は、M&A による他社への売却を選ぶ場合もあればIPO を選ぶ場合もあり、ベンチャーキャピタルはそこでエグジット(EXIT =投資回収)します。このように、アメリカ国内に会社の成長に貢献するサイクルができており、さらに、こうした流れを妨げないように、さまざまな規制緩和も行われています。
プラスα SPACとはなんだろう
最近、アメリカのIPO 市場では、SPAC(Special PurposeAcquisition Company =特別買収目的会社)の上場も急増しました。SPACは買収を目的に設立された会社であり、それ自体では事業を行いません。そのためブランクチェック(白紙小切手)、「空箱」上場などといわれることもあります。
まずSPAC がIPO を行って株主から資金を集め、そののち買収する会社を探し、買収を行います。そしてSPACと買収された会社が合併することで、存続会社となって上場会社となります。
ちなみに、SPAC では調達資金を2年以内に未上場企業の買収に使わなければなりません。SPAC に合併された会社は、通常よりも簡単な手続きでIPOができるため、買収される側にもメリットがあります。
長期的に見て株価が上昇し続けている、それがアメリカ株の強みです。ニューヨーク証券取引所は1817 年に開設されました。1930 年代の世界大恐慌、2 度の世界大戦、9・11 アメリカ同時多発テロ、リーマン・ショック等による大暴落を経験しながらも、そのたびに株価は回復し、NY ダウをはじめとした株価指数は高値を更新し続けています。
その一方、日経平均は1989年12月29日、大納会で付けた3万8957円44銭が最高で、その後は下落し、2009年3月10日にはバブル崩壊後の最安値7054円98銭を付けました。2021年2月15日、1990年8月のバブル経済期以来、約30年6か月ぶりの高値となる3万84円15銭を付けましたが、90年代からの日経平均株価の推移は横ばいです。
アメリカは常にイノベーションの中心にあり、新しい分野で他国に先んじています。もちろん、そのぶん競争は熾烈ですが、ビジネスを最初から世界展開できる環境にあることから、ソフト産業において、そのビジネスモデルが世界標準になるための素地ができているというメリットがあります。
たとえば、スマートフォンのように革新的な製品を送り出すだけでなく、そうした製品で使われるサービスの要となる技術を自社のもので固めて、他社はそこに乗らざるを得ないような状況をつくる。その普及を推し進め、やがて世界標準となる流れができれば、得られる利益は絶大です。GAFAM のような再先端を行く企業は、このように自社技術を標準化させていくことで拡大してきました。
こうした企業が育つ背景には、投資家の存在があります。企業が大規模な赤字であっても、投資家がそれを前向きな設備投資や研究開発費と認識すれば、その企業の株を手放すことはありません。これを如実に示すのが、直近では電気自動車などの電動輸送機器やクリーンエネルギー関連のビジネスを手がける米国企業、テスラでしょう。
アメリカの情報は日本のニュースサイトなどからも収集することができますが、少し手間暇をかけて、アメリカのウェブサイトを利用することをおすすめします。翻訳ソフトなどを臨機応変に利用しながら、情報を集めてみてください。Yahoo! Finance、Investing.com、CNBC: Stock Market & Businessが特におすすめです。Yahoo! Financeならば、その企業のチャートや、関連ニュースをまとめて見るのに適しています。また、掲示板に書かれているコメントで、自分が注目するアメリカ企業に投資をしている個人投資家の考えなどを知ることもできます。ちなみに最近では、アメリカの「Reddit(レディット)」の掲示板「WallStreetBets」内で話題となって上昇した株も存在し、社会問題になっています。
Investing.com ならば、マクロな為替や株価指数を見るのに便利です。CNBC は機関投資家にも影響のあるメディアなので、ここでどんなアメリカ上場企業が注目されているか、また株高が期待されるのか、あるいはその逆かなど、どのような論調で批評されているのかを確認しましょう。
※本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
プラスα Non-GAAP指標による情報開示
業績発表時に財務諸表に含まれる情報など、公開される「一般に公正妥当と認められる会計原則」(GAAP(ギャープ)、Generally AcceptedAccounting Principles)に加えて、欧米の会社の多くは、そこに含まれない情報、「Non-GAAP 指標」も自主的に開示しています。
アメリカ企業ではS&P500 構成銘柄企業の97%がNon-GAAP指標を開示しているという調査結果もあり、日本でも米国会計基準を採用している会社の多くはこの指標を公表するなど、企業独自の情報開示の流れが広がっています。これは簡単にいえば、原則的なGAAPの数字から、たとえば一時的な損益などの要素を取り除くといったことを行って、その会社自身が、自社の実力をわかりやすく投資家に示す参考となる数字といえます。
Non-GAAP 指標に対しては、財務業績の実態把握に有用な利益指標が開示されることは投資判断の助けになり、投資家にとって有益だ、というポジティブな見方と、経営者に都合のいい利益指標を開示して投資判断をミスリードするものだ、という慎重な見方があります。あくまでも会社側からの参考意見ではあるものの、どのようなNon-GAAP 指標を開示するかにその会社の独自性が示されるので、投資家にとっては参考になります。
<著者プロフィール>
崔 真淑
エコノミスト。Good News and Companies代表取締役。 東京証券取引所特任講師、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員、日本経済新聞社COMEMOキーオピニオンリーダー、カオナビ社外取締役。
1983年生まれ。神戸大学経済学部卒業後、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社。株式アナリストとして資本市場分析に携わり、当時最年少女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。
2012年に独立。2016年、一橋大学大学院(MBA in Finance)修了。2018年から一橋大学大学院博士後期課程に在籍し、コーポレート・ファイナンス分野の研究を行う。株主議決権行使の決定要因、デジタル時代のイノベーション策、それに伴う地域活性化策といったテーマに積極的に取り組んでいる。
学術論文では、山田和郎博士と“Does Passive Ownership Affect Corporate Governance? Evidence from the Bank of Japan’s ETF Purchasing Program”を執筆し、投稿中。
経済学・ファイナンス理論を軸に経済ニュース解説、資本市場分析を得意とするエコノミスト、社外取締役や企業アドバイザーとしても活動。主な出演番組は、テレビ朝日『サンデーステーション』、フジテレビ『Live News α』、テレビ東京『昼サテ』、関西テレビ『報道ランナー』、日経CNBCなど。
著書に『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)、『ど素人でもわかる経済学の本』(翔泳社)がある。
『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』