『貯金、そんなにないんですけど、 老後のお金、だいじょうぶでしょうか?:50代から考えておきたい「お金の基本」』より一部抜粋
(本記事は、田中佑輝氏の著書『貯金、そんなにないんですけど、 老後のお金、だいじょうぶでしょうか?:50代から考えておきたい「お金の基本」』=大和出版、2021年7月15日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
<登場人物>
青山:50代後半。中堅企業勤務で年収は810万円。かつては共働きで豊かな生活を楽しんできた。その一方浪費がたたって貯金は少ない。住宅ローンも結構残っている。
赤坂:50代後半。小企業勤務で年収は多くない。妻のパート収入と合わせても、682万円で青山に届かない。しかし堅実な生活を送り貯金は多め。実家住まいで住宅ローンはゼロ。
南:50代後半。ファイナンシャルプランナー。青山と赤坂の高校時代の同級生。
南 実は、ご相談者を見ても、年収1500万円、手取り1100万円以上といった恵まれた人たちの老後不安は激しいんだ。
理由は3つ。「限界効用逓減(ていげん)の法則」と「貯金」と「所得代替率」だ。
限界効用逓減の法則とは、人間はすぐ刺激に慣れて「もっと」を求めるということ。1杯目のビールは最高だけど、2杯目はそうでもなくなり、3杯目は飽きてきたりするだろ。金銭感覚も同じで、「収入が増えたので50万円の海外旅行を奮発したら、昔は感動した30万円の旅行が安っぽく感じられてきた」みたいにエスカレートしていく。
年収が高い人ほどお金を使えるので、金銭感覚はゆるみやすい。
教育費やローンを除いて、毎年900万円とか使う人も珍しくない。毎月50万円どころか75 万円の支出だよ。
青山 俺は浪費タイプだから、そういう心理だけは、少しわかる。
南 高収入の家庭は、「高額支出の価値観」が染みついちゃう。だから、ライフプランが黄信号をともしても、「おかしい。ウチはそんなに使ってないはず」と首をかしげる。お金の出入りをつかんでいないんだ。
気づかずに浪費を続けた結果、年収が高くても貯金は意外に少なかったりする。
青山 俺の貯金が500万円で、赤坂は1800万円という差がついた理由はそこか。
赤坂 所得代替率って?
南 年金が現役時代の年収の何割くらい出るかを見る数字。
「年金÷現役時代の年収=所得代替率」
正確に言うと、対象は厚生年金で、「年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示す」。詳しくは厚生労働省のサイトとかで見てね。
所得代替率が高いほど、現役時代と年金生活の落差が小さい。現役年収と同じ額の年金がもらえるラクチン生活があったとしたら、所得代替率は100%だもん。
平均だと63%くらい。「ラクじゃないけど、減った37%分はお金の運用と、ちょっとした節約でギリギリなんとかなるかも」というところかな。
ところが、大手企業に限ると、所得代替率は35%に低下するんだ。「半減でもやっていけないのに、65%減?どう生活しろっていうのか」と途方に暮れるよね。
青山 老後不安が激しいのも当然か。
南 一例をまとめたのが、この図だ。
現役年収417万円だと、年金との差額は151万円だけど、900万円だと、差額は588万円。所得代替率は34・7%に下がる。
青山 なぜそんな差がつくんだ?
南 厚生年金保険料の支払いに月額65万円という上限額があるから。
ボーナスも厚生年金保険料の積立対象にはなるけど、高年収の人は月収の割合が高いから、たとえば月収100万円、ボーナス200万円(年収1400万円だよ)なんていう人でも、若い頃には給与も安かったし、厚生年金額は約220万円程度。これより多くなることは、あまりない。
年収800万円くらいと変わらないんだ。年収が1500万円でも、3000万円でも、年金額は同じ。220万円程度だ。
だから、大手勤務で高収入だった人ほど、所得代替率は下がっていくんだよ。
高年収の人を見ると「Aさんちはいいね。老後も安泰そう」と思うものだけど、所得代替率を知ると、Aさんのほうが老後の満足度は低いことがわかる。
赤坂 小さな支出で暮らしたほうがいいこともあるんだね。
南 そうなんだよ。支出が月75万円だった人が「老後は30万円」にするのは難しいけど、30万円だった人が「老後は25万円」にするのは、節約の範囲ですむからね。
高収入の人たちが不利な条件はまだある。「仕事に追われて将来を考える機会がない」「結婚が遅くなる」「子供の独立が遅くなる」「転勤が多かったり住宅手当が充実してたりして、家を買うのが遅い」とかね。
実際、晩婚だったために、子供が大学卒業と同時に自分も会社を定年退職みたいなケースが増えている。東京だと、50代後半で住宅ローンが2000万〜3000万円残ってる人が結構いたりする。必ずしも億ションを買ったわけではなく、単純に買うのが遅かったんだ。
「退職金では払いきれない、どうすればいいか」と泣きつかれるような相談をされるよ。
所得代替率は、「これだけ生活が圧縮される。資金が必要かも」という警鐘フラグになる。所得代替率という警鐘フラグがペコンと立ったら軽視せず、課題解決に進むことが大切だ。
<著者プロフィール>
田中 佑輝
東京都生まれ。日本国内の外資系銀行で専属ファイナンシャルプランナーとして活躍後、株式会社アルファ・ファイナンシャルプランナーズ代表取締役。セミナーやコンサルティングを手がける。
『貯金、そんなにないんですけど、 老後のお金、だいじょうぶでしょうか?: 50代から考えておきたい「お金の基本」』