『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』より一部抜粋
(本記事は、セダール・ニーリー氏の著書(山本 泉氏翻訳)『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』=アルク、2021年6月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
チーム目標を軸にしてメンバーの方向性を一致させる
誤解されやすいのですが、チームの方向性の一致イコール「見解の一致」ではありません。アイデアを磨き上げ、ミスを突き止め、チームとして成長するためにはむしろ、チームワークの敵とみなされがちな「見解の不一致」こそが必須です。
したがって、チームの方向性一致の成否は、「メンバーの見解が一致しているか否か」によって決まるわけではありません。「何をめぐって見解が一致しないのか」によって決まるのです。
スティーブ・ジョブズのこういう名言があります。「全員がサンフランシスコに行きたがっているときに、どのルートをとるかを長時間かけて議論するのはかまわない。しかし、サンフランシスコへ行きたがっている者がいる一方で、内心ひそかにサンディエゴへ行きたいと思っている者がいるとしたら、ルートをめぐる議論は時間のムダだ」(1997年)。
言い換えれば、「どういう方法で」目的地に到達するかに関して見解が対立するのはかまいません。それもダイナミックなチームワークプロセスのうちだからです。しかしそのプロセスに入る前にまず、目的地つまり「どこを目指すか」についての認識を統一しておく必要があります。
ジョブズの例えを借りれば、まずはサンフランシスコへ行くという目標について、メンバー全員の見解が一致していなくてはなりません。あるいは特定の商品の売り出しについて、あるいは顧客基盤の構築について、見解の一致が必要です。実際の仕事にかかる前にまず、チーム目標を明確化し具体化する。そのための場がローンチ・ミーティングです。
チーム目標――そもそも達成すべき目標があるからチームを結成したわけですが――について認識を共有するためには、ローンチ・ミーティングが「対話」であることが大切です。
リーダーとメンバーが意見を述べ、質問し、懸念を口にし、お互いの発言に反応するにつれて、各人がめいめい自分の視点からチーム目標を理解し、受け入れていきます。
話の内容がチーム目標から逸れていかないようにするのはリーダーの役目です。具体的に「どういう方法で」目標を達成するかを細かく議論することも必要ではあるのですが、それをやるのはもっと後でいいのです。
チーム目標が仮に、「業界内の関係者にバリューを提供する」というシンプルなものだったとします。この場合、目指すはただ一つ、チームメンバー全員が目標への邁進に合意し、本気でコミットすることだけです。
個々のメンバーが果たす役割や抱える制約を理解する
意外かもしれませんが、チームメンバーは必ずしも、自分がチーム内でどういうポジションにあるのか正確にはわかっていないものです。ローンチ・ミーティングは、個々のメンバーがチーム内での自分の役割や、自分がチーム目標にどういう形で貢献できるかを宣言するチャンスでもあります。
過去に似たようなプロジェクトに関わった経験があります、というメンバーもいるでしょう。この手のプロジェクトは未経験ですがぜひ勉強させていただきたいです、というメンバーもいるでしょう。私にはチーム目標達成に必要なこういうスキルがあります、と申し出るメンバーもいるかもしれません。
スポーツチームの選手が、コート上でおのおの違う役割を果たすのと同じです。リーダーも口を添えて、個々のメンバーの具体的な担当分野をはっきりさせるといいでしょう。お互いが自分の役割だけでなく、他のメンバーが果たす役割も把握すべきです。
チーム内での各メンバーの役割や担当業務を明確化することで、各人がチームワークにどのくらい時間を割き、関心をもてそうかも見えてきます。リモートチームでは、メンバーが同時に他のチームにも所属していることもよくあります。
1人が複数のチームに所属しているか、そうでなくとも複数チームが相互依存関係にあると、あるメンバーがそれぞれのチームにどのくらい時間を割いてくれるかの期待が人によってズレていたり、悪くするとまったくかみ合っていなかったりするおそれがあります。
このメンバーはうちのチームを最優先してくれているはずとリーダーが思い込んでいたら、実はそのメンバーは他チームの業務を優先していたということもありえます。メンバーの1人が、他のメンバーやチームリーダーの知らないところで別の業務に関わっている、ということも決して珍しくありません。
これがコロケートチームなら、誰かがその場にいなければすぐにわかります。しかしリモートワークだと、個々のメンバーが何をやっているのかが見えません。ローンチ・ミーティングの席でこうした制約について率直に話し合っておけば、個々のメンバーが個々の業務にどのくらい時間を割けそうか、予想を立てやすくなります。
期待にズレがあってチームのパフォーマンスが低下するとすれば、その逆もまた真なりです。個々のメンバーが、自分が抱えている制約や、仕事の進め方についての自分の意見を率直に口に出せれば、それはチームにとってむしろ強みになります。
一方、リローンチ・ミーティングでは、既存の業務に加えて新たな業務を引き受けたメンバーにそれを報告してもらうことで、メンバーが複数チームに所属することによるダイナミックな状況変化を把握できます。
新たに加わったタスクにそれぞれのメンバーがどう対処しているかがわかれば、チーム内で互いにサポートし合って納期に間に合わせたり、状況に応じて業務分担のバランスを調整したりもできるようになります。
<著者プロフィール>
セダール・ニーリー氏
『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』