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リモートワークの監視ツールは売上3倍に? 不評な導入事例を紹介

『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』より一部抜粋

(本記事は、セダール・ニーリー氏の著書(山本 泉氏翻訳)『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』=アルク、2021年6月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

生産性監視ツール

あるEコマース企業に勤める25歳の社員のところへ、上司からメールが届きました。開封したときの彼女のショックを想像してみてください。メールには、あるソフトウェアをパソコンにインストールせよとありました。

パソコンのキーボード操作や、どんなウェブサイトを閲覧したかを追跡できるソフトです。メールを読み進むにつれて、ショックはますます大きくなりました。

パソコンにソフトをインストールするだけではなく、私物のスマートフォンにもGPSトラッカーをダウンロードせよというのです。狙いは、社員の仕事ぶりを1日中追尾して社の生産性を確保することにあります。

別の会社のある社員は、勤め先があるデジタルデバイスを導入したときのいたたまれなさと不安を語ってくれました。10分ごとに、パソコンに向かう社員の写真を撮影するデバイスです。

リモートワーク社員がサボるのを防ぐのが目的です。このデバイスは社員の休憩時間まで監視しており、勤務再開時刻の1分前になるとポップアップメッセージが出ます。

仕事に戻らないと勤務時間記録が中断しますよ、という警告です。その社員は時給制勤務なので、中断すれば収入が減ってしまいます。ポップアップの恐怖は絶えず彼女にのしかかりました。トイレに行くためパソコンの前を離れたり、仕事と直接関係ない電話に出たりするたびにです。

オーストラリアのある翻訳会社では、マネジャーは請負業者のデスクトップパソコンの画面にいま、どんなウィンドウが開いているかを1日中のぞくことができます。

カーソルの動きも逐一チェックできます。請負業者のメールボックスにはマネジャーからの進捗確認メールがあふれんばかりに届き、即座に返信を求められます。

皮肉なことに、全員が同じ物理的空間にいた頃はこんな過酷な措置は存在しませんでした。見張っていなければ従業員は何をするかわからないという会社側の不安の原因は、組織目標を達成しなくてはならないのに、達成に向けた従業員の日々の仕事ぶりをじかに目にできないことにあります。

この手の監視ツールは、ツール製造業界では「意識テクノロジー(awareness technology)」と呼ばれます。コネティカット州に本社を置くあるメーカーは、コロナによって膨大な働き手がリモート化した結果、売上が3倍に跳ね上がりました。

同社に言わせると、監視ツールはただそこにあるだけでも、誰も見ていなければ仕事をサボりたいという人間の性を抑え込む効果があるといいます。身も蓋もない言い方をするなら、ビッグ・ブラザー[ジョージ・オーウェルの近未来小説『1984年』に登場する、架空の全体主義国家の最高指導者。24時間、全国民を監視下に置いている]の監視の目がなければ従業員はきっと怠けるはず、という発想です。

あるソーシャルメディア・マーケティング企業の社長も、どうやらこの説の支持者のようです。リモート化がスタートして社員の姿が(文字通り)視界から消えると、その社長はすぐさまデジタル監視ツールを導入しました。業務の進行ぶりが見えなくなったとたんに湧き起こってきた不安を解消するとともに、リモート化で生産性が低下するのではという懸念を和らげたい一念からです。

しかしプライバシー擁護派は、デジタル監視ツールが働き手の生活に急速に浸透しつつあり、あわよくば定着すらしそうな勢いを見せていることに反発しています。いくら監視ツールのメーカーがサボり防止効果をうたっても、管理職が部下の生産性データを収集できて心安らかになってもです。

リモートワーカー用の追跡ツールは全部が全部、監視目的で導入されるわけではありません。管理職の中には、リモート勤務中はずっとビデオカメラとマイクをオンにしておくよう部下に指示することで、コロケート職場と同じ、常に同僚が周りにいる環境を再現しようとする人もいます。

チームメートの声や映像の存在――たとえコンピュータ画面のウィンドウの枠内だけだとしても――によって、リモートワークにつきものの孤独感を打破すること、気分が乗れば同僚同士自然発生的なやりとりを楽しんでもらうことが狙いです。

あからさまな生産性監視ツールとして導入されようが、同僚と常時つながっていることを可能にする害のない手段として採用されようが、監視ツールは従業員には不評です。

監視ツールがあると、社員が自意識過剰になったあげく不安感が高じるだけではありません。士気が低下し、しまいには勤め先への忠誠心さえ薄れてしまいます。

たいていの社員は、監視を拒否すれば職を失うのではないかという恐怖から干渉を受け入れているにすぎません。いまのような不況下ではなおさらです。辞めても困らない場合は、辞める人も少なくありません。

コンサルティング会社アクセンチュア社の分析によれば、監視ツールの視線にさらされた従業員は激しいストレスと無力感を感じるようになるといいます。同じくコンサルティング会社デロイト社が行ったアンケートによれば、ミレニアル世代[1980年代~2000年代前半生まれ。デジタルネイティブとも呼ばれる]は、勤務先が社員の幸せよりも利益を優先すると感じたら会社を辞めると回答しています。

同じアンケートの結果、監視ツールは、それによっていわば恩恵を受けるはずの人々にとっても不穏な存在であることがわかりました。調査対象の経営幹部のなんと70%もが、監視データの利用に懸念を感じていると回答したのです。

リーダーは、デジタル監視ツールの利用にともなうリスクを認識すべきです。たとえ良かれと思って導入したとしても、デジタル監視ツールの存在自体が、会社と社員の間に信頼関係がないことの表れです。

ある日突然リモートワーク体制になって、なんとか社員を掌握しようとして利用する場合はなおさらです。おまえを信頼していないというメッセージを部下に送れば、チームワーク成功の土台が崩れてしまいます。

生産的なチームに必要な根本条件が欠けているとしたら、いくら「意識テクノロジー」その他の生産性強化装置を導入しても何の意味もないでしょう。

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<著者プロフィール>

セダール・ニーリー氏

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