『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』より一部抜粋
(本記事は、セダール・ニーリー氏の著書(山本 泉氏翻訳)『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』=アルク、2021年6月30日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
情報が信頼を強化する
リモートチームの信頼構築に必要な条件は、コロケートチームの信頼構築条件とかなり共通しています。いずれの環境でも、リーダーは明確な全体目標・目的を掲げるべきだし、メンバーはそれらを理解し従うべきです。
透明性、つまり情報のオープンな共有も必要だし、円滑なコミュニケーション、タスクの明確化、チームメートをあてにできること、チーム内プロセスの標準化なども必要です。
ただしリモートチームではこうした従来型条件のいずれについても、地理的な隔たりや個々のメンバーの置かれた状況の違いゆえに、信頼構築が一筋縄ではいかないことを認識しておくべきです。
例えば、各地に分散した、結成したばかりのチームにおいて、メンバー同士がお互いのことをほとんど知らず、チームへの帰属意識がまだまだ固まっていない段階では、メンバーがステレオタイプに基づくサブグループに分かれて対立することがよくあります(サブグループについては第7章で詳しく述べます)。
こうした傾向を防ぐためには、特にリモートチームの場合、信頼関係を後押しする「直接情報」と「反映情報」という二つのメカニズムが大切になってきます。
チームメートについての直接情報を収集する
「直接情報(direct knowledge)」、つまり遠く離れたバーチャルな同僚の個性や行動規範についての情報があれば、リモート環境でもお互いを信頼しやすく、いい関係を築きやすくなります。
リモートチームは、定期的に対面ミーティングを開くとよいでしょう。ミーティングではいきなり仕事の打ち合わせに入るのではなく、まずは積極的に他のメンバーの生活ぶりを探ります。
遠く離れたチームメートのオフィスへ出張してしばらく滞在し、仕事のプレッシャーを抱えているメンバーはいないか、仕事の話を兼ねたランチを共にすることが多いのは誰と誰かといったことを観察するのも一案です。
どちらも直接情報です。出張や物理的接触が不可能なら、チームメートの生活や仕事について質問し合う時間をとるだけでも直接情報を収集できます。「自宅オフィスの整備ははかどっている?」とか、「昼休みはいつも何してる?」とか。お互いの仕事環境に詳しくなればなるほど、相手の仕事を信頼しやすくなります。
ベンの例を紹介しましょう。ベンは2週間にわたり、同僚のイーとチー・ミンと机を並べて仕事をしながら職場での2人を観察する機会に恵まれました。
イーはプレッシャーがあっても動じないタイプで、ブレーンストーミングのときは頼れる同僚にアドバイスを求めます。ランチは毎日同じ顔触れと、オフィスビルの2階のカフェテリアでとります。よくランチミーティングに使われる場所です。
イーとチー・ミンの役割分担や、ベンにヘルプを求めてくるのはどんなときかも見えてきました。イーとチー・ミンについて直接情報を得た結果、ベンは2人の態度や行動や意欲への理解を深めました。
今後は2人の発言や行動を信頼して仕事をすることが多くなりそうです。リモート体制メインのチームでも、こうすれば信頼関係を築いていくことができます。
反映情報を通してチームメートに共感する
直接情報と比べるとわかりにくいのですが、リモートチームにおける信頼構築にとって直接情報に劣らず大切なのが「反映情報(reflected knowledge)」です。
反映情報とは、離れたところにいる同僚の視点に立って自分自身の規範や行動を観察した結果得られる情報です。言い換えれば、「相手の目に映る自分の姿」への認識です。この認識があると、自分と接する相手への共感が生まれます。同僚が自分を理解してくれていると思えれば思えるほど、相手を信頼しやすくなります。
あるインド人技術者を例にとりましょう。彼は、ドイツ支社の同僚たちがぐうたら揃いだと思っていて不満たらたらでした。メールの返信が遅すぎるし、勤務時間もどうやらインド人グループより短いようだからです。
一方、ドイツ人技術者たちの方も、インド人グループはしょっちゅうお茶休憩をとっていると文句を言っていました。サボってばかりいる怠け者ども、というわけです。
実はドイツ人グループは、仕事が中断されないようメールのやりとりは間遠に、タイミングをはかって行うことにしており、インド側も同じだろうと思い込んでいたのです。
一方、インド人グループは確かに喫茶室へ、それも2人組で足を運ぶことが多かったのですが、そこには後輩の指導や、知識の共有や、問題解決というれっきとした目的がありました。
この例では、両グループがお互いの仕事の進め方を理解してさえいれば不満は減り、チームメートの能力とやる気をもっと信頼できていたはずです。
反映情報を入手すれば、それぞれのサブグループが自分の認識の誤りに気づけます。いま挙げた例でいえば、どちらのグループも、お互いへの不満や不信感の原因は決して相手の怠慢さにあるのではなく、仕事習慣の違いにあることが理解できるはずです。
反映情報があれば、各グループが自分自身の認識を改めて見直し、かつ修正することが可能になります。ドイツ人グループがインド人グループの目を通して自身の仕事習慣を観察できれば、自分たちのやり方はどちらかといえば個人主義的、計画的なんだなと気づき、インド支社のコラボレーション志向の良さを理解できるでしょう。
一方、インド人グループがドイツ人グループの目を通して自身を観察できれば、自分たちはどちらかといえば計画性に乏しくて集団主義的なんだなと気づき、ドイツ支社の体系的、計画的な仕事習慣の良さを評価できるでしょう。
自分の職場のローカル規範を客観視することで、異なる規範をもつ同僚への共感や親しみや信頼感が育ちます。
たとえリモート環境でも、チームメートの仕事ぶりを注意して観察すれば反映情報は収集できるものです。相手がメールやビデオを通じてどんな風にコミュニケーションを取るか、共有のバーチャルスペースに何時頃ログインし、何時頃ログオフするか、正規の勤務時間外にもメッセージに返信してくるか否か、など。
夜の9時でも元気よくメールに返信してくるメンバーもいるでしょうし、翌日になってから、ゆうべ遅くに着信音を鳴らされたことへの苛立ちをにおわせつつ返信してくるメンバーもいるでしょう。
規範は人によって違うことに気づければ、気づきをもとに自分の行動を修正できます。一方、反映情報を通してお互いの規範が同じだとわかれば、この相手なら自分をよく理解してくれるだろうと思えて安心できます。
リモートチームのメンバー間での直接情報や反映情報の交換を促すためには、仕事だけに限らないバーチャルなやりとりを重視するチームカルチャーを、リーダーが積極的につくり出すことが大切です。
日常的にソーシャルメディア上で、雑談やバーチャル・コーヒー(ティー)タイムを励行するとよいでしょう。参加メンバーをローテーション制にしたり、バーチャルな電話会議の前後に仕事以外のチャットタイムを設けたりするのも効果的です。チームにとっていちばんやりやすい方法を見つけましょう。
肝心なのは、こうした交流の目的は業務を進めることではなく、メンバーが人と人として親しくなることであると全員に理解させることです。お互いの仕事外の関心事や、毎日のスケジュール、好きなこと、ワークスペースなどについて質問を出し合いましょう。
雑談を通じてチームメートを知るにつれて、チームメートの置かれた状況や物の見方についての「直接情報」を獲得できます。同時に、チームメートの視点という新鮮な角度から自分自身を観察するにつれて「反映情報」も獲得できるというわけです。
<著者プロフィール>
セダール・ニーリー氏
『リモートワーク・マネジメント〜距離と孤独を乗り越える強いチームづくり』