人生100年時代、長い老後生活を存分に楽しみたいものですね。しかし、現実は不安を抱える人が多く、「老後破産」という言葉も生まれています。老後破産とはどのような状態なのか、その要因と対策を探ります。
目次
「破産」と聞くと、借金で首が回らなくなり、財産をすべて失った状態を想像するかもしれません。しかし、老後破産とは「老後生活に困窮すること」を指します。
厚生労働省の調査では、生活が「苦しい」と答えた高齢者世帯が約52%と過半数を占めています。誰もが陥る可能性のある老後破産について、詳しく見ていきましょう。
老後生活が苦しくなる主な要因を見てみましょう。
-【1】年金が足りない
老後は、主な収入源が給与から公的年金に切り替わります。年金額を知らないまま老後を迎え、「想定よりも少なかった」となれば、生活が立ち行かなくなることもあるでしょう。
<老齢年金平均受給額>
受給者 | 年金額 | ひと月あたり | |
---|---|---|---|
国民年金 | 自営業・フリーランスなど | 67万2,000円 | 5万6,000円 |
厚生年金 | 会社員・公務員など | 175万3,944円 | 14万6,162円 |
ただし、これらは平均金額です。日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」や公式Webサイト「ねんきんネット」で、自分の年金額(受給見込額)をしっかり把握しておくことが大切です。
-【2】住宅ローンが終わらない
通常、住宅ローンは長期で組むことが多いものです。35年ローンの開始年齢が31歳以上だった場合は、当然65歳以降も返済が続くことになります。
年金収入から、現役時代と同額のローンを返済するの困難です。繰り上げ返済などを利用して、なるべく早めに終わらせておくと安心です。
-【3】教育費負担が残っている
「人生の三大出費」は老後資金、住宅資金、子どもの教育費です。一般的に学齢が上がるほど教育費も高くなり、1人当たり500万~2,000万円以上かかるといわれています。
晩婚や高齢出産などで、年金生活に入ってからも子どもの教育費を負担することがわかっている場合は、貯蓄や学資保険などを準備しておくべきです。年金から学費を捻出するのは、容易ではありません。
-【4】病気や介護の出費が増える
加齢とともに、ケガや病気のリスクが高まります。また、個人差はありますが65歳以上の入院は長引く傾向があり、その費用は徐々に家計を圧迫するでしょう。
「定年退職後も働くつもりだったが、病気や介護状態で働けなくなった」というケースもあります。その場合は、「医療費や介護費として出ていく」だけでなく「予定していた収入が得られない」ことになります。
-【5】生活水準を変えられない
会社員として働く場合、一般的に年齢とともに給与額は増えて、50代でピークを迎えます。しかし老後の年金収入は、年齢とともに増えることはありません。現役時代の金銭感覚のまま出費を重ねれば、早々に生活に困ることになるでしょう。
問題点がわかれば、対策や準備ができます。老後生活が始まる前に、老後破産を予防しておきましょう
まずは、現時点の貯蓄額や収支といった「我が家の資産力」を知ることが大切です。現在の生活で赤字があるようなら、今すぐ見直しが必要でしょう。
-大きな出費のタイミングを把握する
大きな出費が老後まで続くと、破産する可能性が高まります。住宅ローンや教育費負担がいつまで続くのか、またその時の自分や家族の年齢も確認しておきましょう。
子どもが複数いる場合は、大学受験と高校受験が重なったり、大学に通う期間が重なったりするかもしれません。このように、時期によっては出費が倍増する可能性を把握しておくことが重要です。
-退職金の有無を確認する
退職金制度は法による規定がなく、支給基準や計算方法などは各企業に任されています。中には、退職金制度自体がない企業もあります。
「退職金でローンを完済する予定」「退職金を老後資金にする予定」だったのに、「退職金がなかった」「思っていたよりもずっと少なかった」とならないように、在職中に担当部署や就業規則で退職金の有無や金額の目安を確認しておきましょう。
受給開始後の年金額は、増やすことができません。しかし、現役時代や受給前のひと工夫で年金を増額することは可能です。
-年金受給開始を遅らせるだけ「繰り下げ受給」
最も簡単な方法は、通常65歳で受給開始する年金を66歳以降に遅らせる方法です。これを「繰り下げ受給」といいます。
繰り下げ受給の増額率は「繰り下げた月数×0.7%」で、受給開始から一生涯適用されます。この制度は2022年に改正され、繰り下げ期間が延長されます。最長75歳(120ヵ月)まで繰り下げると、84%も増額されるのです。
ただし一度年金の受給を開始したら、途中で繰り下げることはできません。
-iDeCoや企業年金を利用する
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、投資商品を運用した成果を公的年金にプラスして受け取れる私的年金制度です。積立金の所得控除、受取時の税制優遇、運用利益が非課税になるなど、税制優遇措置が設けられています。
企業型確定拠出年金(DC)も、iDeCo同様に税制優遇措置のある私的年金制度です。運用は従業員個人が行いますが、積立金は企業が負担します。転職時や退職時は、運用資産を転職先のDCやiDeCoに移すことができます。
日常生活は賄えても非常時の蓄えがないと、何かあったときに破綻する可能性があります。すぐに現金化できる預貯金や支払いが早い民間保険などで、緊急資金の準備をしておくと安心です。
-公的保険と民間保険の違いを把握する
民間の保険会社では、あらかじめ設定した保険金や給付金が支払われる生命保険、あるいは修理費用などの損失補填実費額が支払われる損害保険などを扱っています。
一方で国が扱う保険は、健康保険や介護保険など「自己負担額を減らす」ものです。健康保険では、医療費の自己負担額が実費の3割(年齢や収入によって2割、1割)になります。同様に、介護保険は介護サービス利用額が実費の1割(収入によって2割、3割)負担になるものです。
「公的介護保険に加入しているから、介護になったらお金がもらえる」と勘違いしている人は、少なくありません。「お金が支払われる保険」と「自己負担額が安くなる保険」の違いを、しっかり把握しておきましょう。
老後資金や緊急資金を「いつでも貯められる」と思っている人は、結局いつまでも貯められません。そのような人は、貯蓄に対する意識改革から始めましょう。
-残高と貯蓄は違う
毎月の収入から生活費を使って残った分は貯蓄ではなく、「残高」です。毎月コツコツと節約して残高が10万円になったとしても、予算オーバーの月が続けばあっという間になくなってしまいます。
-金融機関のシステムを利用する
貯蓄をする場合は、生活口座とは別の場所に移すことが大切です。銀行やネット銀行などで扱っている「自動積み立て」や「自動入金」などの資金移動サービスを利用すると、毎月自動的に定額を貯蓄することができます。
「残ったら貯蓄」ではなく、先に貯蓄分を移動させて、残りで生活をやりくりすることで、確実に貯められる「先取り貯蓄」ができます。
老後生活のシミュレーションは、自分の資産状況や貯蓄手段などを確認した上で行うことが大切です。
-①老後収入と出費のバランスを考える
・老後の収入月額=自分の年金額(年金見込額)÷12ヵ月
・老後の生活費=現在の生活費-老後はなくなる大きな出費(住宅ローンや教育費など)
年金の繰り下げ受給は、老後になったときの健康状態によってはできない可能性があるため、シミュレーションでは「65歳で受給した場合」で計算しておきましょう。
「老後の収入月額」から「老後の生活費」を引いた結果がマイナスになった場合は、公的年金だけでは生活できないということです。
-②公的年金以外の収入源を確保する
預貯金や退職金、貯蓄保険など、老後資金として準備している金額を書き出しましょう。
制度の有無や計算方法を確認していない退職金や、教育費などを兼ねている預貯金などは除外します。これから貯めようと思っている分ではなく、すでに準備できているものだけを合計します。
-③老後期間全体の赤字を考える
老後の始まりは「公的年金受給開始年齢(65歳)」、老後期間は「女性の平均寿命(88歳)-夫65歳時の妻の年齢」と考えるとわかりやすいでしょう。
・老後生活費過不足金=②準備できている金額-(①の計算結果×老後期間)
プラスの場合は趣味や楽しみに回せる「ゆとり資金」があるため、生活に困る可能性は低いでしょう。
しかしマイナスの場合は、「老後生活費が赤字になる」ことを意味します。不足金額が大きいほど破産する可能性が高くなるため、準備や対策が必要です。
「老後はまだまだ先」と思っていても、一度シミュレーションをすることをおすすめします。例えば、老後資金として1,000万円を準備する場合、現在30代ならば毎月3万円程度の積み立てで達成します。しかし現在が55歳だと、毎月8万円以上積み立てなければなりません。早くから始めると、結果的に負担を減らすことができます。
早い段階でシミュレーションを行い、具体的な対策を始めることが老後破産の防止に役立つのです。