自動運転車開発は新型コロナの逆境をどう乗り越えるのか?

新型コロナ感染拡大が世界の自動車業界に深刻なダメージを与えています。新型コロナの影響は自動車販売の落ち込みやサプライチェーンを直撃した大減産だけではなく、自動運転車(AV)の開発にも及んでいます。

パンデミック以前は「実用化まであと一歩」と期待されていた自動運転車ですが、公道テストや試験サービスを含む開発プロセスが一時停止したことや、大幅な売上減少によって財政状況が圧迫されているため、大幅に計画が遅れています。

また資金繰りからリストラを余儀なくされる大手企業やスタートアップも見られる中、Amazonのスタートアップ買収話も報じられており、自動運転車産業の構図がガラリと変化する可能性も浮上しています。

売上低迷するも、消費者の購買意欲に影響なし?

Best Selling Car.comがドイツ自動車産業協会(VDA)のデータに基づき作成した2020年5月の自動車販売統計によると、ブラジル(前年比75.8%減)を筆頭に、欧州(56.8%減)、日本(46.7%減)、米国(29.5%減)など主要地域・国で売上低迷が続いており、唯一中国(6.3%増)で増加が見られました。生産に関しても同様のデータが報告されています。

しかし各国でロックダウンが緩和傾向にあることに加え、フランスのコンサル企業Capgemini(キャップジェミニ)がドイツの800人の消費者を対象に実施した調査では、44%が「(公共交通機関に代わり)車の利用を増やしたい」、過半数が「お得なセールや融通の利く支払い方法があれば(車を)購入したい」と回答していることから、消費者の購買意欲にネガティブな影響はあまりないようです。

バーチャル走行テストからシミュレーションまで

自動運転車の実現に向け、公道での走行テスト・データ収集は不可欠ですが、一時中止を余儀なくされた自動運転車メーカーは、さまざまな手法で「公道以外で実行可能な開発」を模索しています。

NVIDIAの自動運転車用AIコンピューティング・プラットフォーム「NVIDIA DRIVE」などを利用してバーチャル走行テストを行ったり、あるいはロックダウン以前に収集した大量なデータの細かいラベル付けや3Dマッピング、システムのトレーニング作業を増やすことで、公道テストで見落していたシナリオの特定などに取り組んでいます。

貨物およびロジスティックサービスに特化した自動運転トラックトレーラーメーカー、米スタートアップEmbark Trucksは、さまざまなオンロードシナリオ(公道走行時に起こり得るイベント)の画像を自社のトラックドライバーに見せ、ドライバーが自らの経験に基づき各状況でどのように対応するのかヒアリングして、将来の公道テストや改善点の特定に役立てるためのソフトを導入しました。

これらの試みが技術開発を促進し、新たなイノベーションの糧となるでしょう。

中国百度が無料自動運転タクシーサービス開始

一方、回復基調にある中国では、4月から百度が湖南省長沙市で自動運転タクシーの無料サービスを開始したほか、104台の自動運転車を清掃や消毒、物流、輸送などの目的で提供しています。

また無人配送スタートアップNeolix(ネオリックス)との提携の元、自社の自動運転車プラットフォーム「Apollo(アポロ)」を利用して、食品や物資を北京海淀病院の医療スタッフに届けるほか、上海張江人工知能島のすべての道路を消毒するプロジェクトを実施中です。

ゼネラルモーターズも傘下Cruise(クルーズ)の自動運転車を、サンフランシスコのフードバンクへの宅配車として活用するなど、テスト走行を兼ねた実験的プロジェクトを実施しています。

商用自動運転車産業の構図が変わる?

こうした配送・清掃などを用途とする自動運転車サービスの需要が、今後飛躍的に伸びると期待されているのに対し、UberやLyftなどに代表される不特定多数の乗客を乗せるライドシェアは、「感染リスクを高める」との懸念から大きく需要が落ち込んでいます。

すでにUberの自動運転車開発部門であるUber Advanced Technologies Groupは3,500人のリストラ、ゼネラルモーターズはカーシェアリングサービス「Maven(メイヴェン)」の閉鎖を決定するなど、いずれのライドシェア企業も苦戦を強いられている感は否めません。

このまま需要縮小が続けば、ライドシェアを用途とする自動運転車サービスを戦略に掲げている企業は、方向転換を余儀なくされる可能性があります。

Amazonの参入

アフターコロナの商業自動運転車産業の焦点が、ライドシェアから配送へ移行することを予感させる新たな動きが、Amazonの市場参入です。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙の5月下旬の報道によると、同社は米自動運転車スタートアップZoox(ズークス)の買収をめぐり協議中です。

2019年には米自動運転車スタートアップAurora(オーロラ)に投資するなど、自動運転車産業への参入に関心を寄せていたほか、ドローン宅配など人を介入させない配送手段を模索していることから、自社の配送サービスへの採用を視野に入れた動きだと推測されます。

Zooxが身売りを検討している理由には資金繰りが挙げられますが、同様の理由でリストラや買収を余儀なくされるスタートアップも少なくないようです。

コロナ後の爆発的な需要拡大に期待

このようにコロナの影響で自動運転車の開発自体はペースが落ちているものの、水面下ではさまざまな動きや変化が起こっています。

ビジネスから公共交通機関、医療、教育まで、あらゆる領域で自動化が加速している点を考慮すると、社会が落ちつきを取り戻し状況が好転するにともない、自動運転車の開発も一気に加速するものと予想されます。

またアフターコロナは環境への配慮がさらに高まり、自動運転車だけではなくクリーンカーの需要が爆発的に伸びると期待されていることから、今後の動向が注目されます。

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