「人間とアバターロボットが共存する社会」は実現するのか?

リモートワークやオンライン授業など、特定の場所に縛られない働き方や学び方が「新しい常識」となる中、瞬間移動を可能にする分身ロボット「アバターロボット」の開発・実用化が加速すると予想されています。

ロボットの概念が産業や家庭といった枠組みを超え、「自分の分身」という別の次元へと進化しつつある今、未来社会の姿を予測すると同時に、ロボットと共存する社会の在り方について考える必要がありそうです。

「アバター・ロボット」と人間型・自律走行型ロボットとの違い

ホンダの「ASIMO(アシモ)」やゼネラル・モーターズとNASAが共同開発した「Robonaut2(ロボノート2)」など、ヒューマノイドとも呼ばれる人間型ロボットが世界中で開発され、現在すでにさまざまな用途で活用されています。

これら既存の人間型ロボットが産業・商業向けに製品化されているのに対し、アバターロボットはユーザーの個性に合わせてパーソナライズすることが可能で、自分の分身のような存在としての活用を意図して開発されています。

AI(人工知能)を搭載した自律走行型ロボットのように、自律的な判断や作業はできないため、遠隔からの操作を必要としますが、安全面の懸念や導入コストが低いというメリットもあります。

「ソーシャル・テレプレゼンス技術」で空間共有や疑似体験が可能に

アバターロボットは、カメラを通してディスプレイ上にユーザーの姿が表示されるという点はビデオ通話と共通していますが、離れた場所にいる者同士でも実際に対面しているかのような感覚を生みだす「ソーシャル・テレプレゼンス(社会的存在感)技術」が特徴で、これはビデオ通話では体験できないことです。

ソーシャル・テレプレゼンス技術には、搭載されたディスプレイやカメラを通して共有空間を創りだすタイプや、デバイスを利用して握手や肩をたたくなど、実際の体の動きをロボットで再現して疑似体験を創りだすタイプ、テーブルや椅子といったオブジェクトを操作し、実際に自分の体を使って動かしているかのような疑似感覚が得られるタイプなどがあります。

また、遠隔操作が可能なため、人間が実際に作業することが難しい危険な場所で活用できると期待されています。

瞬間移動で宇宙探索も夢ではない?

しかし物理的に自分のアバターロボットを移動させるのは、非常に困難を極めます。そこで世界中にあらかじめ設置されたアバターロボットに、「アバター・インする(自分のアバターを送り込む)」というコンセプトが生まれています。

例えば、自宅にいながら美術館に設置されたアバターロボットで名画を鑑賞する、ランチブレイクにアパレルショップに設置されたアバターロボットでショッピングを楽しむ、カフェで休憩しながら病院に設置されたアバターロボットで診察を受ける、日本にいながら海外のスタジアムに設置されたアバターロボットでスポーツ観戦をする、といったことが可能になります。

遠隔会議や家族・友人とのビデオコールも、よりリアルで距離を感じさせないものとなるでしょう。またアバターロボットを宇宙に設置することができれば、火星探索も夢ではありません。

SONY×ANAのコラボレーションが創り出す「次世代遠隔操作ロボット」

アバターロボットの開発をリードするプロジェクトの一つが、SONYグループのSonyAIと、ANAホールディングスを母体とするスタートアップ、avatarin(アバターイン)による次世代遠隔操作ロボットの共同開発です。

avatarinは2020年4月の設立以来、アバターで人と人をつなげるプラットフォームや、コミュニケーション型アバターロボット「newme(ニューミー)」の開発を通し、次元を超えた瞬間移動の実現を目指しています。

またコンペティションの主催を通して、人類が直面している大きな課題の解決に貢献するイノベーションや技術を募る、非営利組織Xプライズ財団と提携し、アバターロボット・コンペティション「ANA Avatar XPRIZE」も開催中です。

実用化に必要な技術やノウハウを提供

一方SonyAIは、AI分野の研究とSonyグループのセンシング技術やロボティック技術、アクチュエータ・デバイス技術やノウハウを駆使し、「人々の想像力とクリエイティビティをAIによって解放する」ことをミッションに掲げ、2019年11月に設立されました。

アクチュエータは電気や空気圧などを機械的動作に変換する駆動装置のことで、古くは電気モーターやシリンダー、近年は触覚フィードバック技術や電気運転車にも採用されています。

ソニーAI の北野宏明代表取締役兼 CEOによると、アバターロボットを日常的に実用可能なレベルに引き上げるためには、ロボティクス技術だけではなく、センサーやAI、高速通信を含む広範囲な技術やノウハウが必要となるそうです。

両社はコラボレーションを通し、個人からビジネス、医療・教育機関まで、多様な分野であらゆる層の人々が幅広い目的で利用できる、次世代遠隔ロボットの開発および社会実装という大きな課題に取り組んでいます。

実現に向けた重要課題

一方、故障やハッキングなどによるロボットの暴走・個人情報の漏洩への対策など、重要な課題に取り組み、安全性を確立する必要もあります。

また、近年議論されることの多い「人間とロボットの共存」というテーマをさらに掘り下げ、生活の利便性や質を向上させると同時に、人としての存在価値を高める使い方について熟考する必要があるでしょう。

例えばアバターロボットに過度に依存する人がでてくるなど、利用の仕方によっては「アイデンティティー(自分の存在や個性)」が曖昧になる、あるいは実生活における物理的なコミュニケーションの機会が減る可能性も考えられます。こうした課題と向き合うことが、実用段階に向けての重要なステップとなりそうです。

現在すでに、ロボットと共存する社会に向けてさまざまな企業が必要な技術やノウハウを開発・提供しています。ロボティクス、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、センサー、ハプティクス(触覚)、通信など、さまざまな先端技術を結集させて実用化となります。屋外や整備されていない場所での利用はもちろん、観光旅行やエンターテイメント、感染症患者と接する医療、警備やレスキュー、宇宙開発などさまざまな分野での活用が期待されます。
アバターロボットの開発事業に携わる企業の価値向上、投資家たちの注目が集まることも十分考えられるでしょう。関連分野産業の動向を注視し続けていくのがよいかもしれません。

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