新型コロナウイルスによる影響は、少しずつ不動産市場にも及んできているようです。ロックダウンによる取引量の減少は、不動産価格、投資家や消費者の心理、そして市場の復興にどのような影響を与えるのでしょうか。
専門家の見解やデータに基づき、ポストコロナで最も早く不動産市場が復活する都市を予想し、復興に必要な政策などについても考えてみましょう。
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ロックダウン以降、ニューヨーク、ロンドン、香港など主要国際都市を中心に、不動産市場は著しく低迷しています。パンデミックの収束や経済的影響の見通しがつかず、復興の目途がつくまで売り手は売却を、買い手は購入を見合わせているという状況です。
現地を訪問する代わりにバーチャルツアー(動画で物件をチェックする)を利用して内見を行うなど、内部の見学すらままならない点も市場の低迷に拍車をかけています。また英国では政府により、即決の必要性がない市場取引が全面的に凍結されているため、事実上、不動産売買の契約が結べません(2020年5月1日現在)。ニューヨーク不動産業協会は3月19日、同協会の不動産データ共有サイト「RLS」における、全ての住宅の売り出し禁止を発表しました。
米オンライン不動産プラットフォーム「UrbanDigs」の調査によると、ニューヨークでロックダウンが実施された3月16日の週には、約450件の物件が掲載取り下げ、新規掲載数は79%減。契約件数は、前年同週のほぼ半分に減りました。
また売買だけではなく、賃貸(特にホリデーホームや民泊など短期賃物件)の空き室が急増するなど、影響は広範囲に広がっています。
現時点では価格にそれほど影響は見られないものの、取引量の減少が今後価格に影響する可能性は十分に考えられます。例えばニューヨークの不動産仲介業者Elegran Real Estateのジャレド・アンティン営業部長は、「コロナの本当の影響がニューヨークの不動産価格に反映するのは、今後6〜12か月」と見ています。
しかし、近い将来に売買を検討している人の間では、コロナによる緊急金利引き下げが、住宅購入にプラスに働くとの楽観的な見方が強いようです。
米不動産仲介業者Redfinが3月に実施した調査では、今後1年以内に家の売買を検討している回答者1000人中、40.8%が「コロナが不動産市場にネガティブな影響を与える」と懸念を示す反面、50.3%が「まったく影響がない」、8.9%が「ポジティブな影響を与える」と答えました。
また、不動産投資家を除き、住宅購入者は必要性に駆られて住宅を購入するため、ビジネスが通常営業に戻るにつれ、再び市場が息を吹き返すとの見方を示す専門家も多数います。
実際、過去の景気後退時に、価格が上昇した例があります。米データ企業ATTOM Data Solutionsのデータによると、1980年と2001年の景気後退時、米国の不動産価格は最大4.8%上昇しました。
しかしコロナの影響規模を予測することが困難であることや、国や地域、金利政策など様々な要因が住宅の需要を左右する点を考慮し、「見通しを予測するには時期尚早」との慎重な意見も多数あります。
また、コロナ以前の市況も、ポストコロナの市場に影響を与える要因となるのではないでしょうか。例えば、ニューヨークやロンドン、香港では、低中所得層向けの住宅不足が慢性化している一方で、高級不動産の価格が既に急落あるいは急落すると予想されていました。
低金利政策が不動産価格高騰の要因の一つとなっていた欧州は、Brexitの移行期間が2020年末に終了予定であることも、今後の市場に大きな影響を与える可能性があります。
ポストロンドンとして脚光を浴びているミュンヘンやアムステルダム、パリは、UBSの「不動産バブル指数2019」で3年連続で指数が上昇しており、1.5を超えるレベル(標準値-0.5~+0.5)にまで価格が高騰し続けています。これらの都市は、ポストコロナで比較的素早く市場が回復することが予想される反面、バブル崩壊のリスクも秘めているということになります。
一方、UBSはチューリッヒに代表されるスイスの不動産市場について、「コロナの影響を受ける可能性は低い」との見解を示しています。
政府による大型の経済支援対策が講じられただけではなく、過去数回にわたり住宅ローンの借入れ審査の基準が引き締められているため、収入が一時的に減った場合でも、住宅所有者が経済難に陥る可能性が低いという根拠に基づくものです。
同国のオンライン不動産仲介業者ImmoMapperのデータによると、実際には1月以降価格は下落傾向にありますが、大きな変動の要素が少なく、ポストコロナで素早く回復すると期待できる都市の一つかも知れません。
オバマ政権で最高経済顧問を務めたジェイソン・ファーマン氏を筆頭に、一部の専門家は「パンデミック収束後も、経済的コロナショックは続く」と予想しています。
多くの国は現時点において、解雇や収入の減少で住宅ローン返済や賃貸料の支払いが困難になった人に対し、返済期間の延長および賃料の支払いの猶予を与えるなど、不動産市場の崩壊を回避する対策を講じています。
しかし、ポストコロナに不動産投資を活性化 させるためにはそこから一歩踏み出し、住宅購入時の補助金や減税制度の強化、中断・中止になっている建設工事への補助制度、新たな建設計画に対する承認基準の緩和など、人々が再び安心して投資出来る環境整備が必要です。
例えば、英不動産総合コンサルティング企業ナイトフランクは、不動産売買に必要な印紙税の非課税措置や、初めての住宅購入者への補助金制度実施期間の延長、開発計画への柔軟な対応などを導入することを提案しています。
不動産市場の復興は、このように各国の政府が長期的な影響を視野に入れた景気刺激政策や雇用対策で、景気後退をどこまで食い止められるか、安定した所得を確保するための雇用市場をどこまで保護できるか、株式や国債に流れた投資家の関心を再び不動産に向けることができる、魅力的なポストコロナ環境(コロナ特別減税措置など)を構築できるかどうかが、カギを握っているのではないでしょうか。