金融政策の狂騒:中央銀行の戦略は成功するか?

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〔要旨〕

  • カナダ銀行:労働市場が緩和しつつあるものの、インフレへの懸念を残しており、利下げの先陣を切ることに消極的
  • ECB:ラガルド総裁は、ECBはインフレ目標に向けて順調に前進しており、自信を深めているものの、6月により多くのことが分かるだろうと述べた
  • FRB:今月金利を据え置くことは間違いないが、最近パウエル議長が利下げが近いことを示唆しており、変化の気配が感じられる

対戦:中央銀行対インフレ

カナダ銀行:利下げにはまだ早い

ECB:自信は深まりつつある

FRB:変化の気配は感じられる

狂騒は今月では終わらない

市場は期待に胸を膨らませている

3月の思い出

注目の日程

3月になりましたが、今月は多くの在米の人々(及びその他地域の一部の人々)にとって、大学バスケットボールのチャンピオンシップ・シーズンに最も注目が集まる時期です。間もなく、学生アスリートたちが何年もかけて積み上げてきた努力と犠牲、戦略的ビジョンの集大成が見られるでしょう。私はこの状況を、中央銀行の状況と、「目標達成に十分成功し、間もなく政策変更を行う準備が整いそうだ」と中央銀行が考えるようになる兆候を今月投資家が綿密に注視している状況に、重ね合わさずにはいられません。

対戦:中央銀行対インフレ

「今シーズン」の金融政策は、欧米先進国の中央銀行がインフレ対策として利上げを開始した2022年に始まりました。今日の状況に至るまでに何年もかかっています。中央銀行の努力が実ったかどうかは、「プレーオフ」の数週間といった短期ではなく、今後数カ月、あるいはそれより後に判明するでしょう。

朗報は、最近の多くのユーススポーツのプログラムと同様に、誰もが勝者になれるということです。中央銀行同士が互いに競い合うわけではありません。自身の目標-ほとんどの中央銀行にとっては、端的に高すぎるインフレの克服-さえ達成さえすれば良いのです。それぞれの国の特色や影響要因に応じて成功するための戦略は異なるものの、どの中央銀行も目標達成に向けた軌道に乗っているように見えます。

現在の状況は、以下のとおりです:

カナダ銀行:利下げにはまだ早い

カナダ銀行(中央銀行)は先週会合を開き、まだ利下げには踏み切れないとの見解を示しました。マックレム総裁は、「政策金利の引き下げを検討するのは時期尚早だ」と強調しました1。カナダ銀行は依然としてインフレを懸念しており、利下げの先陣を切ることに消極的だと見られますが、金曜日に発表された2月の雇用統計が好調であったことから、これは一見して適切な判断のように思われます。カナダでは先月、予想の約2倍となる4万1000人の雇用創出が見られました2。ただしカナダでは人口が大幅に増加しており、労働市場は緩和しつつあります。賃金の伸びは依然として高いものの、前年同月比4.9%増に低下しました2

ECB:自信は深まりつつある

欧州中央銀行(ECB)は先週会合を開き、主要政策金利の据え置きを決定しましたが、利下げ開始は近いようです。ECBは、サービス経済に改善の兆しが見られるとしました:2月のS&Pグローバル/HCOBサービス業購買担当者景気指数(PMI)は50.2で、7カ月ぶりに拡大領域(50超)に入りました3

しかし、このような前向きな進展にもかかわらず、製造業は依然として期待外れとなっています。更に欧州委員会は2月、2024年の経済成長率とインフレ率の見通しを下方修正しました4。ユーロ圏経済は、明らかに冷え込みつつあります。

ECBのラガルド総裁が先週、「我々はインフレ目標に向けて順調に前進しており、その結果自信は深まっているが、十分自信を持っているとまでは言えない。6月にはより多くのことが分かるだろう」と説明したとおりです5

FRB:変化の気配は感じられる?

米連邦準備制度理事会(FRB)が、今月の会合でも政策金利を据え置くことは間違いないでしょうが、変化の気配は漂っています。先週2日間に渡って行われたパウエル議長の議会証言(ハンフリー・ホーキンス証言)では、多くのことが語られました。半期に一度のこのイベントでは、多くの重要なポイントが語られましたが、私にとっての主なハイライトは以下の通りです:

  • パウエル議長は、金利は今回のサイクルでのピークに達していると述べました(短期的に利下げではなく利上げの可能性があるとの噂があったため、これを聞けて安心しました)。
  • また、景気後退のリスクが高まっているとは思わない、と発言しました。
  • 長期的なインフレ期待は、引き続きよくアンカーされて(安定的に維持されて)います(FRBの意思決定プロセスにとって重要な考慮事項)。
  • 最も重要なのは、パウエル議長が近いうちの利下げを示唆したことです。議長は、「自信を持って政策金利の引き下げ開始のステップに踏み出せるようになるために、もう少し多くのデータを見たいと考えている」と述べました6

パウエル議長の証言は、最初の利下げがいつ行われるかに関する市場予想の修正を後押しし、市場は6月がより妥当だと考えるようになっています。この予想は金曜日の2月の雇用統計発表後も一貫しており、これにより米国経済は依然堅調ではあるものの、やや冷え込んでいることが示されました7

  • 雇用統計によると、2月の非農業部門雇用者数は前月比27万5,000人増となり、底堅いながら非常に良いとも言えませんでした。また1月の非農業部門雇用者数は、前月比35万3,000人増から同22万9,000人増へと下方修正されました。
  • 失業率は、労働参加者数の増加に伴い3.7%から3.9%に上昇しましたが、これは労働市場が緩和しつつあることを意味します。
  • そして私が考える最も重要な指標である平均時給は、依然高い水準にあるものの若干改善し、1月の前年同月比4.4%増から2月は同4.3%増に低下しました。

狂騒は今月では終わらない

現在、いわば「金融政策の狂騒」の真っただ中にあると言えますが、これが3月中に収束することはないでしょう。この狂騒は2024年にかけて展開していき、誰が勝者となるかはずっと後になるまで分からないかもしれません。

明らかなのは、多くの中央銀行当局が、インフレの再燃を恐れて「ハーディング(群れ)行動」を取ってきたということです。誰も次のアーサー・バーンズ(1970年代のインフレ大幅上昇期のFRB議長)として歴史に名を残したくはなく、それが過度にタカ派的な発言を行わせてきたと考えられます。もはやFRB関係者として金融環境を抑制する必要がなくなったブラード前セントルイス連銀総裁が、FRBは3月に利下げを開始すべきだと先月コメントしたことが思い起こされます。

私はFRBが3月に利下げを行うとは考えていませんが、FRB当局は、経済の状態がどうであれ、政策が非常に抑制的となっており、近々利下げを行うべきだということは理解しています。中央銀行の目標に向かって進展が見られているにもかかわらず、市場は、各データポイントやそれが中央銀行の意思決定にとってどのような意味を持つかについて、気をもみ続けるでしょう。

3月12日には米消費者物価指数(CPI)が発表されます。FRBが選好するインフレ指標ではないものの注視されており、これが予想を上回れば、市場参加者の恐怖心を煽る可能性があります。このデータポイントが「熱く(インフレが高く)」なり、リスク資産の下落につながる可能性が高いとの懸念が高まっています。このような事態が起きても、投資家の皆さんは動揺しないようご注意ください。いつも申し上げているように、ディスインフレのプロセスは不完全なものです。全てのデータポイントがシナリオに沿うとは限りませんが、全体的なトレンドには沿うでしょう。市場が十分下落すれば、実際、買いのチャンスとなる可能性があります。

市場は期待に胸を膨らませている

先週、S&P500種指数、ダウ工業株30種平均、ナスダック総合指数は全て下落しました7。他方で、ラッセル2000種指数とラッセル3000種指数は上昇し、MSCIエマージング・マーケット指数、MSCI欧州指数、MSCI日本指数、MSCI英国指数など、米国以外のいくつかの主要指数も上昇しました8

市場では最近、明らかにより幅広い銘柄が物色され始めています。先月、S&P500種指数は他の米国以外の主要指数や小型株の後塵を拝しました。市場は、世界経済の成長再加速と米ドル安を予感しているようです。FRBによる利下げ開始がその主な牽引力となる可能性が高く、市場は間もなく利下げが始まることを期待して動いているように見えます。

3月の思い出

3月9日は、世界金融危機後にS&P500種指数が底値をつけてから15年目にあたります。私はそれを、昨日のことのように覚えています。株式市場が数カ月にわたって暴落を続け、2008年秋のリーマン・ブラザーズの破綻とそれに続く混乱の後、市場や金融機関への信頼は信じられないほど失墜しました。2009年初めになってもネガティブな心理は加速し、3月初旬にはS&P500種指数が700を割り込みました。

その混乱期に特に印象的だった出来事があります。当時、私はある財団の役員でしたが、あの非常に困難な時期に、同じく役員だった非常に神経質なヘッジファンド・マネージャーたちが、株式のロングポジションをすべて手仕舞いしたいと言い出したのです。普段は友好的なグループですが、ある夜のカンファレンスコールでは、見解の相違をめぐって激しいやりとりがありました。最終的には、常識と―私たちの投資方針が―優先され、私たちは株式の保有を続け、金融緩和政策の大きな助けもあって、その後何年も力強い株価回復の恩恵を受けることができました。

中には、株価がこの13年間で最安値を記録し、どん底に落ちた日だったことから、この日を悲惨な苦い思い出の日と捉える向きもあるでしょう。しかし私にとっては、信じられないほど力強い市場回復の始まりであり、前向きな思い出の日です。もっと大切なのは、これによって、どんな驚きや失望が訪れようとも投資を継続し、慎重な長期配分計画を堅持することの重要性を強く思い起こすことです。何と重要な、忘れがたい記念日であることでしょう。

注目の日程:

公表日 指標等 内容
3月12日 英国失業率 労働市場の健全性を示す
3月12日 ドイツCPI インフレの動向を示す
3月12日 米国CPI インフレの動向を示す
3月13日 英国国内総生産 地域の経済活動を測定
3月14日 米国小売売上高 消費需要を測定
3月14日 米国生産者物価指数 インフレの動向を示す
3月15日 ミシガン大学消費者調査 米国消費者の経済と個人消費の
見通しを評価
  • 1.出所:バロンズ、“Canada central bank holds key lending rate at 5%”、2024年3月6日
  • 2.出所:カナダ統計局、2024年3月8日
  • 3.出所:S&Pグローバル/HCOB、2024年3月6日
  • 4.出所:欧州委員会、2024年2月15日
  • 5.出所:欧州中央銀行、2024年3月7日
  • 6.出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“Jerome Powell says Fed on track to cut rates this year”、2024年3月6日
  • 7.出所:米労働統計局、2024年3月8日
  • 8.出所:ブルームバーグL.P.、2024年3月8日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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