勤務先に独自の退職金制度がなくても、会社が中退共や特退共などに加入している場合は、退職時に退職金を受けとれます。これらの退職金共済では、どのくらいの金額をいつもらえるのでしょうか。本記事では公的な退職金共済について、支給額の決まり方や目安、受け取るまでの流れをご紹介します。
目次
退職金共済でいくらもらえるかは、事業主が支払う掛金や納付月数、退職金の受け取り方によって変わります。中小企業退職金共済(中退共)の一時金を例に挙げると、掛金月額5,000円・納付月数60ヵ月では30万6,656円、掛金月額1万円・納付月数120ヵ月では128万8,308円が支給されます。
分割払いを選ぶ場合は、退職金に分割支給率を乗じた金額が上乗せされるため、一時金よりも多くの金額を受け取れます。基本的には掛金・納付月数・分割回数が多いほど退職金も増えますが、実際の受け取り方はライフプランや資産状況に合わせて選ぶことが重要です。
通常、中退共の退職金は申請から約4週間後にもらえます。ただし、事業所からの納付方法によっては掛金の確認に時間がかかるため、申請から2ヵ月以上かかる可能性もあります。
支給額は、固定的に計算される基本退職金と上積み分の付加退職金を合計した金額です。基本的には納付月数(加入月数)が長いほど有利ですが、23ヵ月以下の場合は支給額が掛金納付総額を下回り、11ヵ月以下の場合は退職金自体が支給されません。
ここからは基本退職金と付加退職金に分けて、具体的な計算方法や仕組みをご紹介します。
退職金共済でいくらもらえるかは、掛金と納付月数で計算される基本退職金に大きく左右されます。原則として、基本退職金は利回りが1.0%(※)となるように設計されており、掛金と納付月数に比例して増えていきます。
仮に、22歳で入社した人が60歳で退職するケースを想定すると、掛金月額5,000円では278万2,350円、掛金月額1万円では556万4,700円の基本退職金を受け取れます。
(※)法令によって予定運用利回りが変わる可能性もある。
付加退職金は、運用収入の状況などに応じて支払われる退職金です。年度ごとに支給率が変わり、「各年度の支給率×支給率の年度に退職した場合の基本退職金」を退職時まで合計して計算されます。
各年度の支給率については、厚生労働大臣が運用収入の見込額などから決めています。参考として、以下では1992年度からの支給率を紹介します。
※下記は2023年度までのデータ。記載がない年度の支給率は0。
年度 | 付加退職金の支給率 |
---|---|
1992年度 | 0.01309 |
1993年度 | 0.0015 |
2004年度 | 0.00233 |
2005年度 | 0.00602 |
2006年度 | 0.0214 |
2014年度 | 0.0182 |
2015年度 | 0.0216 |
2018年度 | 0.0044 |
2021年度 | 0.0142 |
(参考:中小企業退職金共済事業本部「退職金|制度について|加入をご検討中の方(制度について知りたい)」)
たとえば、2018年度に入社した人が2021年度に退職した場合の付加退職金は次の式によって計算されます。
<付加退職金の計算式>
(2018年度の基本退職金×0.0044)+(2021年度の基本退職金×0.0142)=付加退職金
支給率が0の年度については、付加退職金が加算されることはありません。
中退共の退職金は、「一時金払い」「分割払い」から受け取り方を選べます。
一時金払いは、退職時点での基本退職金と付加退職金をまとめて受け取る方法です。支給された金額は退職手当等とみなされるため、以下の退職所得控除が適用されます。
<退職所得の計算式>
(源泉徴収前の退職金-退職所得控除額)×1/2=その年の退職所得
加入年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×加入年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(加入年数-20年) |
(参考:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁」)
分割払いは、5年間または10年間に分けて退職金を受け取る方法です。全額分割払いと一部分割払い(一時金との併用)があり、いずれの受け取り方でも「退職金×分割支給率」の式で支給額が計算されます。
分割払いの対象額と分割支給率については、以下の通りです。
支払い期間(回数) | 5年間(20回) | 10年間(40回) |
---|---|---|
全額分割払いの対象 | 80万円 | 150万円 |
一部分割払いの対象 | 総額で100万円以上 | 総額で170万円以上 |
分割支給率 | 51/1,000+厚生労働大臣が定める率 | 26/1,000+厚生労働大臣が定める率 |
(※上記の総額は一時金を含めた金額)
退職金を分割払いで受け取れるのは、支給総額が上記の条件を満たしており、かつ退職日時点で60歳以上の人のみです。なお、分割支給率は運用収入の状況や法令などの影響を受けるため、年度によって変わる可能性があります。
退職金共済でいくらもらえるかは、掛金と納付月数によって変動します。以下では、中退共から支払われる基本退職金の目安表を紹介します。
納付月数 掛金月額 | 60ヵ月 (5年) | 120ヵ月 (10年) | 240ヵ月 (20年) | 360ヵ月 (30年) | 480ヵ月 (40年) |
---|---|---|---|---|---|
4,000円 | 243,280円 | 506,240円 | 1,066,640円 | 1,685,240円 | 2,367,160円 |
8,000円 | 486,560円 | 1,012,480円 | 2,133,280円 | 3,370,480円 | 4,734,320円 |
12,000円 | 729,840円 | 1,518,720円 | 3,199,920円 | 5,055,720円 | 7,101,480円 |
16,000円 | 973,120円 | 2,024,960円 | 4,266,560円 | 6,740,960円 | 9,468,640円 |
20,000円 | 1,216,400円 | 2,531,200円 | 5,333,200円 | 8,426,200円 | 11,835,800円 |
24,000円 | 1,459,680円 | 3,037,440円 | 6,399,840円 | 10,111,440円 | 14,202,960円 |
28,000円 | 1,702,960円 | 3,543,680円 | 7,466,480円 | 11,796,680円 | 16,570,120円 |
(参考:中小企業退職金共済事業本部「(退職金試算)基本退職金額表」)
同じ納付月数で考えると、掛金月額が2倍になると基本退職金も2倍になります。ただし、上の表には付加退職金が加算されていないため、受け取る時期によって実際の支給額は変動します。
ここからは2つのケースに分けて、中退共の支給額をシミュレーションしました。退職金共済でいくらもらえるのかを把握するために、計算の仕組みや流れを確認してみてください。いずれのシミュレーションも2023年度に退職、一時金での受け取りを想定しています。
付加退職金を計算するには、各年度における基本退職金の額が必要です。そのため、まずは基本退職金から計算し、その後に付加退職金を加算する流れでシミュレーションを行います。
<基本退職金>
中小企業退職金共済事業本部の基本退職金額表(※)によると、掛金月額5,000円、納付月数60ヵ月の基本退職金は30万4,100円です。掛金総額は30万円(5,000円×120回)ですが、各年度で1.0%の予定運用利回りが加算されるため、基本退職金のほうが多くなります。
(※)参考:中小企業退職金共済事業本部「(退職金試算)基本退職金額表」)
<付加退職金>
前述の支給率の表を参考にすると、在職中に付加退職金がある年度は2021年度のみです。したがって、付加退職金は以下のように計算できます。
<付加退職金の計算>
18万円×0.0142=2,556円
<基本退職金と付加退職金の合計>
基本退職金+付加退職金=中退共の支給額
30万4,100円+2,556円=30万6,656円
次に、掛金月額と納付月数が2倍になったケースについて考えます。
<基本退職金>
基本退職金額表によると、掛金月額1万円、納付月数120ヵ月の基本退職金は126万5,600円です。
<付加退職金>
納付月数が120ヵ月のケースでは、複数の年度で付加退職金が加算されます。ひとつの式にまとめると複雑になるため、今回は各年度に分けて付加退職金を計算します。
<付加退職金の計算>
2014年度:3万6,000円×0.0182=655円
2015年度:24万円×0.0216=5,184円
2018年度:60万8,200円×0.0044=2,676円
2021年度:99万9,500円×0.0142=1万4,193円
(※記載がない年度は付加退職金の支給率が0。小数点は第一位を四捨五入。)
上記を合計すると、受け取れる付加退職金は2万2,708円となります。
<基本退職金と付加退職金の合計>
126万5,600円+2万2,708円=128万8,308円
中退共の退職金を受け取る従業員は、以下の流れで手続きを行います。
<中小企業退職金共済制度を受け取る流れ>
【1】事業主から退職金共済手帳を受け取る
【2】「退職金(解約手当金)請求書」に必要事項を記入する
【3】添付書類を用意する
【4】中退共本部給付業務部に書類を送付する
【5】審査実施後に退職金が支給される
添付書類については、発行日から3ヵ月以内のマイナンバー入り住民票(コピー不可)と、いずれか1点の身元確認書類が必要です。マイナンバー入り住民票を用意できない場合は、給付金額によって添付書類が変わるので注意してください。
<マイナンバー入り住民票を用意できない場合>
給付金額300万円未満:住民票等、個人番号カードの両面コピー、身元確認書類
給付金額300万円以上:印鑑証明書、個人番号カードの両面コピー、身元確認書類
<身元確認書類として認められるもの(コピー可)>
・運転免許証
・パスポート
・健康保険証
・年金手帳(氏名と生年月日が記載されているページ)
通常、中退共本部による審査は4週間ほどかかります。掛金の納付を確認してからの支給となるため、事業所の納付方法によっては2ヵ月半ほどかかる場合もあります。支給時期を遅らせたくない場合は、提出書類に不備がないように準備を進めて、早めの手続きを行いましょう。
中退共の退職金をもらえないパターンとしては、手続きで使う退職金共済手帳がない場合や、納付月数が11ヵ月以下の場合が考えられます。退職金共済手帳については、事業主に申請をすると交付してもらえる可能性があります。事業主が応じないときは、中退共本部給付推進管理課に問い合わせましょう。
納付月数の不足(11ヵ月以下)については、退職を遅らせて12か月以上にすることが必要です。12ヵ月以上になると一時金を受け取れるため、ご自身の加入時期を確認してから退職時期を調整してみましょう。
なお、中退共では納付月数が24ヵ月以上になると、掛金相当額の退職金を受け取れます。
公的な共済制度には、自治体や商工会議所が運営する特定退職金共済制度(特退共)や、一部の業種のみを対象にした特定業種退職金共済制度もあります。これらの退職金共済に加入している場合は、いつ、どのくらいの退職金をもらえるのでしょうか。
特退共は、毎月の掛金を1,000円から3万円の範囲で設定できる制度です。基本的な仕組みは中退共と似ていますが、掛金月額ではなく加入口数(1口1,000円)によって退職金が計算されます。参考として、以下では加入期間・加入口数別の支給額を一部紹介します。
加入期間 加入口数(年間) | 5年 | 10年 | 20年 | 30年 |
---|---|---|---|---|
5口 | 29万3,775円 | 53万6,290円 | 123万9,170円 | 192万6,680円 |
10口 | 58万7,550円 | 119万5,960円 | 247万8,340円 | 385万3,360円 |
20口 | 117万5,100円 | 247万8,340円 | 495万6,680円 | 770万6,720円 |
(参考:東京商工会議所「特定退職金共済制度パンフレット」)
通常、特退共の退職金は請求から約2週間後に支払われます。ただし、全ての掛金を確認してから支給額が決まるため、事業主の納付方法によっては時期が遅れる可能性もあります。
特定業種退職金共済制度は、建設業や清酒製造業、林業を対象にした退職金共済です(※)。掛金と納付月数によって支給額が決まる点は共通していますが、業種によって掛金の仕組みが異なります。
(※)対象の業種によって、建退共(建設業)や清退共(清酒製造業)、林退共(林業)のように呼び方が変わる。
たとえば、建退共では掛金が日額で計算されており、1日あたり20円~320円の範囲で設定できます。退職金共済をいくらもらえるのか知りたい場合は、各制度のシミュレーションを活用しましょう。退職金の支給時期については、建退共で申請から約1ヵ月が目安になります。
参考:建設業退職金共済事業本部「退職金試算」
参考:清酒製造業退職金共済事業本部「清退共 退職金試算」
参考:林業退職金共済事業本部「林退共退職金計算フォーム」
中退共に限らず、退職金共済の支給額は掛金や納付月数、受け取り方によって変わります。いつ、いくらもらえるのか気になる人は、現時点での納付状況や加入年数を確認してみましょう。ご自身の支給額をシミュレーションし、将来のライフプランや退職時期などを考えてみてください。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※過去の実績は将来の運用成果等を保証するものではありません。