※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。
目次
モーラ・レーン
シニア・リサーチ・アナリスト
フランク・ジェニングス
シニア・ポートフォリオ・マネジャー
✔︎既存のイノベーションや科学技術が、コロナウイルスの正体と特徴の把握に活躍
●解明が進んでいる新型コロナウイルス
—電子顕微鏡で「コロナウイルス」を実際に目にすることが可能に
●ウイルスはどのように増殖するのか
—ウイルスの基本構造はDNAまたはRNAのひも状の連なり
—RNAウイルスは進入したヒトの細胞からアミノ酸を入手して建設を進行
●新しい治療法:RNA干渉(RNAi)
—RNAi治療法ではウイルスのRNAに結合してウイルスの働きを阻止
—遺伝子配列解析技術により開発が進むRNAi治療法
●テクノロジーの進歩により格段に進化したウイルス解析
●まとめ
—イノベーションや新規治療法を主導するヘルスケア企業に長期投資
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)は、人々の日々の生活と金融市場に大混乱をもたらしています。期待されるコロナウイルスのワクチン開発は、まだ先になるかもしれません。ただし、既存のイノベーションや科学技術は、科学者と製薬会社がコロナウイルスの正体と特徴を把握するのに大いに役立っています。本稿では、そのことを紹介したいと思います。
ウイルスは病原体の一種ですが、かつての私たちがウイルスについて知っていたことは、細菌を通さないフィルターでさえ通過することができる小さい物質である、ということのみでした。今日では、ウイルスの塩基配列、すなわちウイルスのDNAやRNAを全解読できるだけでなく、電子顕微鏡を使用してウイルスの構造すら確認することもできます。このにより、王冠状の突起物が象徴的な「コロナウイルス」を私たちは実際に目で見ることができるのです。
ウイルスは非常に小さく、例えば、人間の髪の毛の太さは75,000ナノメートルである一方、コロナウイルスは約120ナノメートルと、625分の1の大きさです。これは従来の顕微鏡では見ることができませんが、電子顕微鏡大手の日本電子(JOEL)の顕微鏡を使用すると、科学者や研究者はこれらのウイルスをよく観察することができます。また、日本電子の先進技術である「凍結電子顕微鏡」を使えば、ウイルスの複製時に使われる、アミノ酸で組成された個々のタンパク質までをも見ることができます。
ここからは、建物の建築に例えて、ウイルスがどのように増殖していくかを説明します。ウイルスの基本構造は、DNAまたはRNAがひも状に連なっている部分です(その周りはタンパク質と脂質の膜で覆われています)。まず、DNAは、建物の設計図に相当します。設計図には建設に必要な情報が全て書いてあるように、DNAには生物に関する遺伝的情報が全て書かれています。
次に、RNAは、建物の基礎工事や骨組み作りを行う役割を担っています(これはタンパク質の合成となります)。そして、建設作業員を募集したり、工具を上手に使って、レンガの壁を作っていきます(アミノ酸から膜や突出物となるタンパク質を形成します)。この時、RNAウイルスは、進入したヒトの細胞からアミノ酸、すなわちレンガを入手して建設を進めます。
現在、過去に開発された多くの薬がCOVID-19患者の治療薬として試験されています。HIVの治療に用いられるような従来の抗ウイルス薬は、建設作業員の募集を遅らせたり、工具を隠したりするようにしてウイルスの活動を抑えますが、ウイルスはこれを回避する方法を見つけ、徐々に、薬に対しての抵抗力を持つようになります。これに対して、RNA干渉(RNAi)と呼ばれる新しい治療法は、名前の通り、RNAの活動自体を阻害します。RNAiは、ウイルスのRNAに結合してウイルスの働きを止めるものです。これは、建設作業員や道具の働きを抑えるのではなく、そもそもの基礎工事や骨組み作りを止めてしまう方法です。
現在RNAi治療法を開発している企業の1つがArrowhead Pharmaceuticalsです。Johnson & Johnsonとのパートナーシップにより、同社はB型肝炎の新しい治療法を臨床試験しています。B型肝炎はDNAウイルスの一種によって引き起こされます。そのため、RNAとは異なり、開始点となる設計図(青写真)があります。電子顕微鏡で見ると、B型肝炎を引き起こすウイルスはコロナウイルスに似ていて、膜と外側の突起物が臓器に付着して症状を引き起こします。
ウイルスは、DNAウイルスとRNAウイルスの2つのタイプに分けられます。そして、遺伝子配列解析技術により、科学者や研究者は、それぞれのDNAやRNAウイルスを構成する化学的構成要素を理解することが可能となっています。いったんウイルスの遺伝子配列が特定されれば、私たちは、ウイルスがヒトの体内で増殖する能力を潜在的に妨げるRNAi治療法の開発を進めることができます。
1980年代にエイズウイルスが発生したとき、科学者たちは現在利用可能な分析ツールを何も持っておらず、ウイルスについて解析するのに、今よりはるかに長い時間がかかりました。コロナウイルスの治療法の確立にはまだまだ時間がかかるかもしれません。ただし、今日の科学技術により、研究者は数年前には不可能だったスピードと精度で、ウイルスの働きを解析できるようになっています。
2019年12月中旬、中国で最初に新型コロナウイルスの発生が確認されましたが、2020年1月中旬にはウイルスのRNA配列が公表されました。フランスでは、1月24日に同国で初めて感染した患者からサンプルを採取し、1月30日までにはコロナウイルスの遺伝子解析を終了しました。この驚くべきスピードは、過去20年間の遺伝子解析技術の進歩によって可能となっています。
この技術進歩のカギを握る1社が、米Illuminaです。同社は、遺伝子配列を読み取ることができる次世代技術を開発しています。これは、PCR検査という名前でおなじみのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)型の次世代のものです。PCR検査は、患者の体内のウイルスの兆候を見つけるために用いられます。2003年にヒトゲノムの全塩基配列の解析が完了したとヒトゲノムプロジェクトが発表して以降、Illuminaは遺伝子配列決定に必要なコストと時間を大幅に削減してきました。Illuminaは、コロナウイルスのようなウイルスの組成を、研究者が完全に理解可能とするテクノロジーを提供しています。
私たちは、世界中の構造変化を捉える長期投資家です。新型コロナウイルスに関する現状は、人類とその健康には痛ましいものですが、この問題はずっと続くものではありません。世界中の医療専門家は、新型コロナウイルスをどう制御するか、どう治療するか、そして最終的には、このような集団感染が再発しないような方法までをも解明するでしょう。私たちは常に、人類を長年悩ませてきた病気へのイノベーションや治療法を主導するヘルスケアセクターの分野に投資してきました。現在のパンデミックは、迅速かつ正確な遺伝子検査を行うという社会ニーズの広がりを、加速させるきっかけになるでしょう。
インベスコ・アセット・マネジメント株式会社
投資戦略部
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MC2020-062