コロナ禍の供給不足から一転、半導体市場は供給過多を背景とする需要低迷が続いています。その一方で、世界的に設備・技術投資が活発化しており、「2024年には市場が回復する」との期待感も高まっています。
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コロナ禍の行動制限によるサプライチェーンの混乱や家電製品の需要急増、米中間の経済摩擦、ロシア・ウクライナ問題の影響などで、2020~2022年半ばにわたり、半導体の価格が上昇しました。
サプライチェーン問題や需要増加が緩和され、メーカーの生産能力が向上したことにより市場が一転しました。現在は一部の半導体は現在供給過多となっており、メーカーは在庫調整や減産に注力しています。
その一方で、家電から電気自動車(EV)、産業機器、太陽光発電、5G基地局まで、幅広く用いられているパワー半導体(※)の需要は旺盛で、今後も持続的な成長が期待されています。
(※)高電圧・高電流に対応可能な半導体
半導体国際業界団体や市場調査企業によると、世界の半導体産業が在庫の正常化期間を経て、2024年には回復基調に転じるとの見通しです。
市場の回復を見込み、世界各国で半導体分野への投資が相次いでいます。特に、製造面でアジア諸国に依存していた欧米では、供給安定と技術的リーダーシップを確保する目的で、工場新設・増設への大型投資が活発化しています。以下、欧米の最新動向を見てみましょう。
米国政府は2022年、国内の半導体製造強化に向けて、390億ドル(約5兆9,280億円)の補助金を盛り込んだ法案を可決しました。ポジティブな政策を追い風に、インテルを筆頭とする米半導体企業に加え、サムスンやTSMC(台湾積体電路製造)といった半導体企業も、米国内の工場新設に相次いで参加しています。
EU(欧州連合)は2023年に入り、半導体の競争力を確立するために「欧州半導体法」と、公的・民間資金を含む総額220億ユーロ(約3兆5,640億円)規模の半導体プロジェクトを承認しました。
現時点までに、インテルやTSMC、ボッシュ、NXPセミコンダクターズなどの国際半導体メーカーが、ドイツに半導体工場を新設する計画を進めています。STマイクロエレクトリクスとグローバル・ファンダリーズは、フランスにウェハ(半導体素子製造の材料)製造工場を新設する予定です。
一方、インドネシアやベトナムのように、半導体開発・製造資金確保の手段として、海外からの投資誘致戦略を展開する国もあります。
半導体・EVバッテリーの製造分野で世界的なサプライチェーン構築を目指すインドネシアは、半導体大手企業を擁するオランダやドイツ、米国への働きかけを積極的に行っています。こうした中、独半導体メーカー、インフィニオン・テクノロジーズは、インドネシアのバタム島に有する製造工場の生産能力を向上させるため、3,537万ユーロ(約57億円)の追加投資を行う計画を明らかにしました。
ベトナムは自国のデジタル経済促進に向け、2023年9月に半導体人材育成イニシアチブの設立を発表しました。設立にあたり、包括的パートナーシップ国である米国から、200万ドル(約3億400万円)の初期資金を獲得しています。メディアの報道によると、現在は国内初の半導体製造工場の設立に向け、複数の米半導体企業と協議を進めています。
投資が活発化する一方で、AI(人工知能)やスーパーコンピューターなどの先端技術にも対応可能な次世代半導体の開発や、より高性能な半導体を開発するための材料に関する研究も加速しています。
従来の半導体素材はシリコンが主流ですが、ダイアモンドやGaN(窒化ガリウム)、SiC(炭化ケイ素)などが、新たな材料として注目されています。これらの材料を活用することにより、電力変換効率と密度が大幅に向上すると期待されています。
最近では、インド科学大学の研究チームが、湾曲・曲面ディスプレイや折りたたみ式スマホ、ウェアラブルデバイスなどに採用できる、柔軟性の高い複合半導体材料を開発しました。
このような次世代半導体技術への取り組みも、市場回復を後押しするポジティブな要因となるでしょう。
半導体は日常生活のみならず、気候変動の対策を支える重要な技術であり、今後も需要の拡大が期待でき、テクノロジーの進化とともに、持続的な成長が見込まれる分野でもあります。Wealth Roadでは、今後も半導体市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=152円、1ユーロ=162円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄及び投資を推奨するものではありません。