自力で退職金制度を設けることが難しい中小企業は、中退共(中小企業退職金共済)に加入していることがあります。加入者となる従業員は、会社をやめるときに退職金を受け取れますが、申請からどれくらいで支給されるのでしょうか。
目次
中退共の退職金が早く欲しい人は、「一時金」を選ぶと申請から約4週間後に受け取れます。退職金の支給前には審査が行われるため、状況によっては2ヵ月以上かかる場合もあります。
一方で、分割払いは20回または40回に分けて受け取る方法なので、全額を早く受け取ることはできません。支給自体は申請から約4週間後に始まりますが、全額を受け取るまでには5年または10年かかります。
通常、中退共の退職金は請求から約4週間で支払われます。ただし、金額を計算するために全ての掛金を確認する必要があるため、勤め先の納付方法によっては2ヵ月以上かかるケースもあります。
以下では、実際の請求から退職金を受け取るまでの流れをまとめました。
<中退共の退職金を受け取る流れ>
【1】事業主から「退職金共済手帳」を受け取る
【2】退職金(解約手当金)請求書に必要な情報を記入する
【3】マイナンバーの番号確認書類と本人確認書類を添付する
【4】中退共本部給付業務部に書類を郵送する
【5】約4週間の審査が実施される
【6】審査完了後、請求人口座に退職金が振り込まれる
記入した情報や添付書類に不備があると、書類をやり取りする日数が余分にかかります。中退共の退職金が早く欲しい人は、提出書類を十分に確認してから郵送しましょう。
中退共の退職金には3つの受け取り方があり、それぞれ支給時期が変わります。将来のライフプランにも影響するため、ここからは受け取り方による違いを確認していきましょう。
一時金は、基本退職金と付加退職金(※)をまとめて受け取る方法です。勤め先の会社が納付した掛金に応じて、支給される退職金の総額が計算されます。通常、一時金は請求から約4週間で受け取れますが、掛金の納付方法や手続きのタイミングによっては2ヵ月以上かかる場合もあります。
(※)掛金納付月数が42ヵ月以下の場合は、基本退職金のみ給付される。
分割払いは、退職金を5年または10年にわたって年金形式で受け取る方法です。基本的には請求から約4週間後に支給が始まり、年4回(2月・5月・8月・11月)に分けて退職金が支払われます。分割払いは支給回数(期間)によって、以下のように利用条件や受け取れる金額が変わります。
支給回数 | 分割払いの対象 | 分割支給率(※) |
---|---|---|
20回(5年) | 80万円以上の退職金 | 51/1,000+厚生労働大臣が定める率 |
40回(10年) | 150万円以上の退職金 | 26/1,000+厚生労働大臣が定める率 |
(※)1回あたりに受け取れる退職金の割合。
分割払いを選ぶ場合は、年1%と厚生労働大臣が定める率の利息を受け取れます。厚生労働大臣が定める率は、中退共の運用収入などによって年度ごとに決められます。一時金と比べて退職金はやや増えますが、分割払いは退職日時点で60歳以上の人しか選べません。
退職日時点で60歳以上の人は、一時金と分割払いの併用(一部分割払い)も選べます。前述の分割払いと同じく、一部分割払いも支給回数によって利用条件などが異なります。
支給回数 | 対象となる退職金 | 分割支給率 |
---|---|---|
20回 (5年) | 一時金:20万円以上 分割払い:80万円以上 総額:100万円以上 | 51/1,000+厚生労働大臣が定める率 |
40回 (10年) | 一時金:20万円以上 分割払い:150万円以上 総額:170万円以上 | 26/1,000+厚生労働大臣が定める率 |
退職金の支給開始時期や分割払いのスケジュールについては、前述の一時金または分割払いと同様です。
会社からの退職金は、原則として就業規則に記載されている時期に支給されます。例えば、就業規則に「退職日から1ヵ月後に支給する」と記載されている場合は、請求から1ヵ月以内に受け取ることは難しいとされています。
その一方で、労働基準法の第23条には以下の条文が記載されています。
<労働基準法 第23条>
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
(引用:厚生労働省「労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)」)
上記の「賃金」には退職金も含まれますが、就業規則に支給時期が明記されている場合は、その時期までに支払えば問題ないという判例があります。実際の支給時期は会社ごとに異なるため、勤務先の就業規則は早めに確認をしておきましょう。
中退共の退職金が早く欲しい場合は、手続きや受け取り方を工夫することで、支給時期を早められる可能性があります。ここからは、退職金の支給時期を早める3つの対策を紹介します。
中退共本部給付業務部の審査が完了しない限り、中退共の退職金が支給されることはありません。そのため、審査に使われる退職金(解約手当金)請求書は、早めに提出することを意識しましょう。
また、請求書を提出する際には、以下の確認書類を添付する必要があります。
種類 | 具体的な書類 |
---|---|
番号確認書類 | 以下のうち、いずれか1通を添付する。 【1】マイナンバー入りの住民票(発行日から3ヵ月以内) 【2】住民票等と個人番号カードの両面コピー 【3】印鑑証明書と個人番号カードの両面コピー (※上記2は給付金額300万円未満、上記3は給付金額300万円以上の退職者が対象。) |
本人確認書類 | 以下のうち、いずれか1通を添付する。 【1】運転免許証のコピー 【2】パスポートのコピー 【3】健康保険証のコピー 【4】年金手帳のコピー |
取得に時間がかかる確認書類もあるため、中退共の退職金が早く欲しい人は事前に準備をしておきましょう。
退職金(解約手当金)請求書は、事業主から受け取る退職金共済手帳に同封されています。そのため、手元に請求書が見つからない場合は、経営者や担当者に問い合わせてみましょう。
いつまで経っても退職金共済手帳が届かない場合や、ご自身で紛失してしまった場合は、中退共本部のコールセンターに問い合わせると対応してもらえます。
中退共の退職金の全額が早く欲しい場合は、一時金を選ぶと期間を短縮できます。一時金は、請求から約4週間後にまとめて支給されるため、分割払いのように年単位で待つ必要がありません。中退共の運用収入に応じて支払われる付加退職金についても、普通退職金と同じタイミングで支給されます。
中退共の退職金を早く欲しいと考えている人は、受け取ったときの税金にも注意が必要です。受け取り方によって退職金の所得区分が異なるため、同じ金額でも税金の負担が変わってきます。ここからは「一時金」「分割払い」「一時金と分割払いの併用」に分けて、税金の仕組みを解説します。
一時金は税法上で退職手当等(退職所得)とみなされるため、退職所得控除が適用されます。退職所得控除の計算方法と、控除適用後の退職所得は以下の通りです。
掛金の納付期間 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×納付期間 (※80万円が下限金額) |
20年超 | 800万円+70万円×(納付期間-20年) |
(※納付期間の端数は1年に切り上げる)
<退職所得の計算式>
(源泉徴収前の退職金-退職所得控除額)×1/2=控除適用後の退職所得
大学卒業後の22歳に入社し、50歳の時点で1,000万円の退職金を受け取ると仮定して、実際の退職所得を計算してみます。
<退職所得の計算方法>
800万円+70万円×(28年-20年)=1,360万円
(1,000万円-1,360万円)×1/2=-180万円
計算結果がマイナスとなったため、一時金を受け取った年の退職所得は0円(非課税)になります。
分割払いで受け取った退職金は、税法上で雑所得とみなされます。そのため、国民年金などと同じように公的年金等控除が適用されます。
公的年金等控除は、その年に受け取った公的年金等以外の合計所得金額によって金額が変わります。以下では参考として、合計所得金額が1,000万円未満(公的年金等は除く)の速算用を紹介します。
支給時の年齢 | 退職金の合計額 | 控除適用後の雑所得 |
---|---|---|
65歳未満 | 60万円以下 | 0円 |
60万円超~130万円未満 | 退職金の合計額-60万円 | |
130万円~410万円未満 | 退職金の合計額×0.75-27万5,000円 | |
410万円~770万円未満 | 退職金の合計額×0.85-68万5,000円 | |
770万円~1,000万円未満 | 退職金の合計額×0.95-145万5,000円 | |
1,000万円以上 | 退職金の合計額-195万5,000円 | |
65歳以上 | 110万円以下 | 0円 |
110万円超~330万円未満 | 退職金の合計額-110万円 | |
330万円~410万円未満 | 退職金の合計額×0.75-27万5,000円 | |
410万円以上~770万円未満 | 退職金の合計額×0.85-68万5,000円 | |
770万円~1,000万円未満 | 退職金の合計額×0.95-145万5,000円 | |
1,000万円以上 | 退職金の合計額-195万5,000円 |
仮に総額1,000万円の退職金を、50歳から10年にわたって受け取るケースを想定して、控除適用後の雑所得を計算してみます。
<分割払いの場合の支給額>
退職金の総額÷分割の年数=1年あたりの支給額
1,000万円÷10年=100万円
<課税金額>
1年あたりの支給額-60万円=控除適用後の雑所得
100万円-60万円=40万円
上記の通り、公的年金等を除いた合計所得金額を1,000万円未満とすると、年間40万円が課税対象になります。なお、他の公的年金等(老齢基礎年金など)を同一年内に受け取る場合は、退職金と合算する必要があるので注意してください。
一部分割払いを選んだ場合は、一時金と分割払いに分けて税金を計算します。以下の条件で退職金を受け取ったと仮定して、課税対象となる金額を実際に計算してみましょう。
<シミュレーションの前提条件>
一時金:300万円
分割払い:700万円を10年に分けて支給
掛金の納付期間:20年
他の退職所得や公的年金等:なし
<一時金>
40万円×納付期間=退職所得控除額
40万円×20年=800万円
退職所得控除額が一時金を上回るため、支給された年の退職所得は0円になります。
<分割払い>
700万円÷10年=70万円(1年あたりの支給額)
70万円-60万円=10万円(控除適用後の雑所得)
したがって、このケースでは毎年10万円の雑所得に対して課税されることが分かりました。
中退共の退職金を受け取れない場合は、前述のコールセンターに問い合わせましょう。中退共本部コールセンターは、従業員のさまざまな悩み事に対応しています。
<対応してもらえる問い合わせの例>
・退職金共済手帳が届かない
・退職金共済手帳を紛失した
・掛金納付月数の計算方法を知りたい
・退職金の計算方法を知りたい
・退職金請求の流れを知りたい
なお、コールセンターの受付時間は平日9時~17時15分です。祝休日や夜間には対応していないため、問い合わせの時間には注意してください。
中退共の退職金は、申請から4週間ほどで支給されます。ただし、提出書類に不備がある場合など、2ヵ月以上の時間がかかるケースもあります。中退共の退職金が早く欲しい人は、審査がスムーズに進むように準備を整えておくことが大切です。もし手元に書類がないときや、想定していた以上に支給が遅れている際には、会社や中退共本部への問い合わせを検討しましょう。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。