私立高校無償化でも学費が高いのはなぜ?実際の負担はいくら?

高等学校等就学支援金制度が拡充されたことで、2020年からは私立高校の授業料も実質無償化になりました。しかし、授業料以外の学費もかかることから、「私立高校無償化でも高い」と感じている世帯も多いでしょう。

実際に私立高校の学費がどれくらい高いのか、本記事では入学から卒業までのシミュレーションをまとめました。お金がないことに悩んでいる世帯に向けて、学費を抑えられる支援制度も紹介します。

私立高校は公立に比べて授業料以外の学費も高い

学費が私立高校無償化でも高い理由は、授業料以外の学費が多くかかるためです。文部科学省の調査によると、入学から卒業までにかかる学費は私立高校で約124万円、公立高校で約74万円となっています(※授業料を除く)。

2020年4月からは私立高校も就学支援金の対象になりましたが、本制度では授業料以外の支援を受けることはできません。そのため、学校納付金や修学旅行費などが高い私立高校では、卒業までの学費負担が大きくなる可能性があります。

このような世帯に向けて、国や自治体は授業料以外を支援する制度も実施しています。私立高校に通うお金がない世帯は、目的に合った支援制度を探してみましょう。

私立高校でかかる授業料以外の学費

学費が私立高校無償化でも高い理由は、授業料以外の学費にあります。高等学校等就学支援金は授業料のみが対象なので、それ以外の費用負担が減ることはありません。実際にどのような費用があるのか、ここでは授業以外の主な学費を紹介します。

【1】学校納付金

学校納付金とは、子どもが教育を受けるための必要経費として学校に支払うお金です。一般的には、設備費や保健衛生費、入学金、受験料などをまとめて「学校納付金」と呼びます。

私立高校における学費の中で、学校納付金は授業料の次に負担が大きいものです。文部科学省が2022年12月に公表した「令和3年度子供の学習費調査」によると、学校納付金等と入学金等を合わせた平均金額は年間18万7,652円(※全日制の私立高校のみ)になります。

学校納付金は、入学金や受験料が含まれる高校1年次の負担が大きくなる傾向にあります。

【2】交通費などの通学関係費

通学にあたって自転車などの購入や、公共交通機関の利用が必要になる場合は、通学関係費が3年間かかります。文部科学省の調査を参考にすると、私立高校(全日制)における通学関係費の平均は年間12万9,155円です(※制服代やスクールバックなどの購入費を含む)。

お住まいの地域や進学先にもよりますが、私立高校の通学関係費は公立高校よりも月3~4万円ほど高い傾向があります。

【3】修学旅行費

公益財団法人日本修学旅行協会のレポート(※)によると、コロナ禍前の2018年には95%以上の高校が修学旅行を実施しています。修学旅行は恒例のイベントとも言えるため、入学前から積立の準備をすることが望ましいでしょう。

(※)日本修学旅行協会「2018年度実施の国内修学旅行の実態とまとめ(高等学校)」

前述の文部科学省の調査によると、私立高校(全日制)における修学旅行費等の平均は年間2万6,549円です。公立高校に比べると、毎月の負担が7,000円ほど高くなっています。

【4】その他の費用

ここまで紹介した以外にも、私立高校では学用品や実習材料、体育用品、図書などの購入費がかかります。文部科学省の調査を参考にすると、私立高校(全日制)における「図書・学用品・実習材料費等」の平均は年間6万4,259円、「その他」の平均は年間7,291円です。

進路や習い事によっては学校外活動費もかかる

私立に限った話ではありませんが、高校生活では「学校外活動費(教科外活動費)」と呼ばれる費用もかかります。学校外活動費は、学校での教育活動以外にかかる費用であり、例としては以下のものが挙げられます。

<学校外活動費の例>
・学習塾に通う費用
・スポーツや芸術文化に関する活動費
・家庭内学習で使用するテキスト代など
・林間学校などにかかる費用
・地域活動にかかる費用

文部科学省の調査によると、私立高校(全日制)における学校外活動費の平均は年間4万7,013円です。難関校を目指して学習塾に通ったり、本格的なクラブ活動に参加したりする場合は、この平均額を上回ることが予想されます。

私立高校と公立高校の学費シミュレーション

「私立高校無償化でも高い」と感じる場合は、進学前に公立高校の学費と比較することも重要です。1年あたりの学費は私立高校で75万362円、公立高校で30万9,261円が平均であり、3年間では120万円ほど私立高校が高くなります。

学費の内訳 私立高校(全日制) 公立高校(全日制)
授業料 28万8,443円 5万2,120円
学校納付金等 11万5,808円 3万2,805円
入学金等 7万1,844円 1万6,143円
通学関係費 12万9,155円 9万1,169円
修学旅行費等 2万6,549円 1万9,556円
教科外活動費 4万7,013円 3万9,395円
図書・学用品・実習材料費等 6万4,259円 5万3,103円
その他 7,291円 4,970円
合計金額 75万362円 30万9,261円

(参考:文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」)

以下では私立高校と公立高校に分けて、卒業までの学費をシミュレーションしてみます。

私立高校(全日制)の3年間の学費

学費の中でも入学金は、高校1年次のみにかかる費用です。そのため、まずは入学金等を除いた3年間の学費を計算します。

<3年間の学費>
(75万362円-7万1,844円)×3年間=203万5,554円

この金額に1年分の入学金等を加算すると、入学から卒業までにかかる大まかな学費を計算できます。

<学費の合計>
203万5,554円+7万1,844円=210万7,398円

なお、実際の学費は進学先や活動内容、お住まいの地域などによって変わるため、あくまで目安として参考にしてください。

公立高校(全日制)の3年間の学費

公立高校の学費についても、上記と同じ流れでシミュレーションを行います。

<3年間の学費>
(30万9,261円-1万6,143円)×3年間=87万9,363円
87万9,363円+1万6,143円=89万5,506円

私立高校と比較すると、卒業までにかかる学費は120万円ほど安くなります。ただし、2020年4月からは私立高校も高等学校等就学支援金の対象になったため、所得要件を超えない世帯は授業料の差がなくなります。

私立高校無償化でも高い学費を抑える方法

学費が私立高校無償化でも高い場合は、国や自治体などの制度を活用すると、負担を抑えられる可能性があります。ここからは、学費を抑える3つの方法を紹介します。

【1】所得控除を活用する

高等学校等就学支援金は、住民税の所得割額を基準に計算されており、世帯ごとに支給額が変わります。満額を受け取れていない世帯は、所得控除の活用によって支給額が増えるかもしれません。

<私立高校無償化の基準>
◆所得割額が25万7,500円未満
→年間で最大39万6,000円の支給
◆所得割額が50万7,000円未満
→年間で最大11万8,800円の支給
◆所得割額が50万7,000円以上
→支給なし

住民税の所得割額は、課税所得金額をもとに計算されます。そのため、確定拠出年金や個人年金、生命保険などで所得控除を受けると、その年の所得割額を抑える効果があります。

なお、高等学校等就学支援金の判定は、年度が変わる度に行われます。転職などで世帯収入が増えたり、家庭事情によって適用される所得控除が変わったりすると、支給額が減ることもあるので注意してください。

【2】国の教育ローンや学資ローンを利用する

学費を支払うお金がない場合は、国の教育ローンや学資ローンの利用も一つの選択肢です。奨学金とは違い、教育ローンや学資ローンは借入人が保護者となるため、子どもに返済の負担をかけずに済みます。

参考として、以下では国の教育ローンの概要をまとめました。

実施者 日本政策金融公庫
主な条件 ・通学先が融資対象の学校に含まれている
・世帯年収が一定額を超えていない
・1人につき350万円まで
世帯年収の上限額 子どもの数によって以下のように変動する。
1人:790万円
2人:890万円
3人:990万円
4人:1,090万円
5人:1,190万円
金利 年2.25%の固定金利
返済期間 18年以内
資金の使い道 ・高校や専門学校、大学、短大などの授業料
・定期代などの交通費
・パソコンや教材の購入費 など
奨学金との併用 可能

(※世帯状況や通学先によって、条件や金利が変わる場合もある。)

銀行をはじめ、現在では金融機関も教育ローンや学資ローンを用意しています。さまざまなローンに目を通し、より良い条件で借入できるものを探してみましょう。

【3】国や自治体の支援制度を利用する

学費を払うお金がない世帯は、国や自治体の支援制度を探してみましょう。例えば、大阪府は国の就学支援金に上乗せする形で、私立高等学校等授業料支援補助金制度を実施しています。同じ授業料を支援する制度でも、自治体によって条件や支給額は異なるので、詳細を確認することが大切です。

授業料以外の学費を支援してもらえる制度3つ

国や自治体は、授業料以外の学費を支援する制度も実施しています。高等学校等就学支援金と併用をすれば、学費の大部分を賄えるかもしれません。私立高校に通うお金がない世帯は、以下の制度も確認しておきましょう。

【1】奨学のための給付金

奨学のための給付金は、授業料以外の学費を支援するために実施されている制度です。給付金の返還は不要であり、年間では最大15万2,000円の支援を受けられます。

<年間の給付額>

世帯の状況 私立高校 国公立高校
生活保護受給世帯
(全日制等・通信制)
5万2,600円 3万2,300円
非課税世帯(※)
(全日制等)
13万7,600円 11万7,100円
非課税世帯
(全日制等)
15万2,000円 14万3,700円
非課税世帯
(通信制・専攻科)
5万2,100円 5万500円

(※生徒本人に15歳~23歳未満の兄弟姉妹がいる場合)

本制度を利用する場合は、各都道府県の公式サイトから申請書などをダウンロードし、必要事項を記入してから学校または都道府県に提出します。提出時には生徒本人と保護者全員の証明書類が必要になるため、早めに準備をしておくことが大切です。2023年の申請期限は10月末に延長されていますが、基本的には毎年7月が期限になります。

【2】高校生等奨学給付金

高校生等奨学給付金は、2014年度から国が実施している支援制度です。後述の「奨学のための給付金」の一部を補助する形で、生活保護世帯や住民税の非課税世帯を支援しています。国の制度ではありますが、申請先は保護者が在住している都道府県になります。

【3】各自治体の修学支援制度

お住まいの地域によっては、修学支援制度が用意されていることもあります。

例えば、京都府は私立高校に通う生徒を対象に、「私立高等学校あんしん修学支援事業」を実施しています。本制度は補助金を受け取れるものではありませんが、世帯状況に合わせて
授業料を含む学費が減免されます。各自治体の公式サイトなどを確認し、同様の修学支援制度を探してみましょう。

なお、都道府県による就学支援は、基本的に国の高等学校等就学支援金に上乗せする形で実施されています。国と自治体の制度を併用する場合は、原則として両制度の合算で支給上限額が決まるので注意してください。

私立高校無償化でも高いときは支援制度を利用しよう

世帯年収によっては高等学校等就学支援金を満額を受け取れなかったり、授業料以外の学費に悩まされたりする場合もあります。お金がない状況に困っている世帯に向けて、国や自治体は他にも支援制度を用意しています。授業料以外を支援する制度もあるので、私立高校への進学を諦める前に、まずはお住まいの地域で情報収集をしてみてください。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。

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