「生成AI」が世界を席巻する中、ブロックチェーン技術が既存の生成AIの課題解決に役立つ可能性が議論されています。本記事では生成AIの長所・短所とともに、ブロックチェーンの活用法について考察します。
目次
生成AIは音声やテキスト、動画、データなどのコンテンツを自動的に生成できる人工知能の一種です。従来のAIアルゴリズムがトレーニングデータセット(※1)内のパターンを認識し、予想を行う目的で使用されているのに対し、生成AIは機械学習アルゴリズムを使用し、既存のトレーニングデータセットに基づいてコンテンツを生み出します。
生成AIは従来の機会学習より複雑なパターンを処理できるニュートラルネットワーク(※2)を使用しており、多様なモデルでデータを処理することができます。近年は多数のアプリが開発され、コンテンツ(文章・画像・動画など)制作からチャットボット、マーケティングまで広範囲な分野で活用されています。
代表的な生成AIとして、Open AIが提供する対話型生成AI「ChatGPT」、高度で多様な文章を生成する「Jasper」、画像の生成に特化した「DALL-E」「Midjourney」などが挙げられます。日本においてもNECやNTTなどの大手企業が続々と独自の生成AI開発に乗り出しています。
(※1)機械学習モデルを構築するための学習用データ。
(※2)人間の脳の神経回路の構造を模した数理モデル。
生成AIは誰でも気軽にコンテンツを制作でき、作業の効率化やアイデアの創出など、さまざまな領域で役立つという特長がある反面、コンテンツやデータの品質管理、セキュリティといった課題が横たわります。
このような課題解決の糸口になると期待が高まっているのが、ブロックチェーン技術です。生成AIにブロックチェーン技術を組み合わせることで、以下のような効果が得られると期待されています。
生成AIは既存のデータに基づいてコンテンツを生成するため、学習に使用するデータの信頼性が重要なカギを握っています。しかし、現時点ではすべてのデータが効果的に管理されているとはいえません。
例えばデータの偏りや誤り、悪意のあるデータから生成されたコンテンツの拡散、特定の人物・作品そっくりに生成した画像による「なりすまし(偽装)」「偽作」などの行為が、すでに社会的混乱を引き起こしています。
改ざん耐性や透明性が高く、トレーサビリティ(追跡可能性)に優れているブロックチェーン技術を学習データの品質管理に活用することにより、このような問題が解決され、生成されるコンテンツの品質の向上が期待できます。
ビジネス分野においても生成AIの活用が進んでいる現在、社内の機密情報・顧客の個人情報の漏洩リスクやサイバー攻撃による脅威が懸念されています。
ブロックチェーン技術は、より高度なセキュリティ対策を生成AIにもたらすことが期待できます。ブロックチェーンに記録されたデータは、ネットワーク上の複数のノード(参加者のコンピューター)全体に分散して保存されているため、サイバー攻撃によりシステム全体が侵害されるリスクが低いという特徴があります。
また、機密情報や個人情報をプライベートブロックチェーン(※)上に記録することにより、改ざんや不正アクセス、紛失などのリスクを軽減できます。
(※)単一の管理者が存在し、ネットワークの参加者が限定されているブロックチェーン。
生成AIの活用が広がるにつれて、デジタル著作権・知的財産問題が増加することが予想されます。最近、米ストックフォト企業ゲッティイメージズが、英AI画像生成ソフト開発企業ステーブルAIを著作権侵害で起訴するという出来事がありました。ゲッティイメージズの主張によると、ステーブルAIは自社のソフトをトレーニングする意図で、著作権で保護されていたゲッティイメージズの数百万枚の画像を不法にコピーしたといいます。
著作権や財産の所有者はスマートコントラクトやNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)などのブロックチェーンを基盤とするサービスや商品、システムを利用することにより、著作権や知的財産を保護することができるかもしれません。
生成AI市場は米ブルームバーグ・インテリジェンスによると2032年までに1.3兆ドル(約191兆円)、加プレセデンス・リサーチによるとブロックチェーン市場は2.3兆ドル(約338兆円)規模に成長することが予測されています。
その一方で、生成AIとブロックチェーンのさらなる発展に向けた課題が残されています。2つのテクノロジーの融合はこれらの課題を解決し、デジタルの世界を新たな次元へと進化させる可能性を秘めています。Wealth Roadでは今後も、さらなる発展が期待される生成AIとブロックチェーンの最新動向についてレポートしていきます。
※為替レート:1ドル=147円
※本記事はブロックチェーン技術や暗号資産に関わる基礎知識を解説することを目的としており、ブロックチェーン関連資産等への投資を推奨するものではありません。