保有している投資信託の値下がりが続いている場合は、状況を見ながら冷静に投資判断をすることが大切です。主な選択肢は「追加購入・継続保有・売却」に分けられますが、どのような基準で投資判断をすれば良いのでしょうか。
目次
投資信託の値下がりをただ見ているだけでは、さらに損失が膨らんでしまう可能性があります。保有の継続も選択肢の一つですが、相場や市場環境を踏まえて運用することが大切です。実際にはどのような選択肢があるのか、一つずつ確認していきましょう。
投資信託の値下がりが続いても、いずれ値上がりすることを想定していれば、積立投資を継続しましょう。
投資信託が下がる一方のときにも積立投資を続けると、ドル・コスト平均法の効果によって平均の購入単価が下がります。相場状況にもよりますが、大きな損失を一度に抱えるリスクを抑えられるので、安定した運用を実現しやすくなります。
<ドル・コスト平均法の効果>
投資の間隔や購入金額を一定に保つと、価格が下がったときに多くの数量を購入し、価格が上がったときには少ない数量を購入することになる。その結果として、金融商品の平均購入単価が平準化される。
投資信託が値下がりした時点で積み立てを中断すると、平均の購入単価を下げることができません。予想よりも基準価額が大幅に下落して回復の見込みがない限りは、積立投資を継続することを心掛けましょう。
投資信託の値下がりを「一時的な下落」と判断した場合は、スポット(※)での追加購入も選択肢になります。
基準価額が安いときに多くの数量を購入すると、値上がりしたときに大きなリターンを期待できます。相場状況によっては積立投資よりも有利になることもあります。
ただし、スポット購入をした後に基準価額が上がるとは限らないので、引き続き下落することも想定して余力は残しておくと、余裕をもった運用が行えるでしょう。
(※)単発で金融商品を購入すること。
保有中のファンドが長期的に低迷しており、今後も回復の見込みがない場合は、資産を減らさないために売却を検討しましょう。基準価額が下がり続けて止まらないと、積立投資やスポット購入をしても含み損は膨らんでいきます。損失を抱えている状態で売却することで、これ以上の損失を増やさないようにすることも重要な選択です。
このような売却の判断を下すためにも、事前に売却することになる状況を想定しておきましょう。
例えば、ファンドの投資先になっている米国株式市場などの相場が悪化して長期低迷を続けそうなときや、当初は20%の値下がりで終わると想定していたのに30%以上も下がったときなどの状況が考えられます。
他に魅力的なファンドを見つけたときも、売却が選択肢の一つになります。
投資信託には多くの種類があるため、情報収集を続けているうちに魅力的なファンドが見つかることもあります。しかし、投資する資金の余力がほとんど残っていない状態では、新たなファンドに投資することができません。
そのため、新たなファンドに投資する資金をつくるために、投資の優先順位が下がった保有中のファンドを売却することが選択肢になります。
将来の値上がりが期待できる場合は、追加購入や売却をしないで基準価額が回復するのを待つのも選択肢の一つです。
この判断を下すためには、事前に将来の値上がり要因を把握しておくことが必要です。例えば、中長期の基準価額の推移や、ファンドの組入銘柄の状況などが将来の値動きを予測するのに参考になります。
投資信託の下落が続いているときは、安易な投資判断を避けましょう。今後、基準価額が上昇傾向になるのか予測を立てるためにも、ファンドの組込銘柄の状況や将来性を見直すことが必要になります。
具体的に何を確認すれば良いのか、以下で一つずつ解説していきます。
基準価額が下がる理由を確認する際は、内部要因と外部要因に分けて調べてみると分かりやすくなります。主な内部要因と外部要因は、以下の通りです。
<内部要因>
・分配金が支払われた
・組み入れ資産の価格が下がった
・各種手数料(信託報酬など)が差し引かれた
<外部要因>
・主要な株価指数などが大幅に下落した
・為替レートが変動して海外資産の価値が下がった
・大手機関投資家のリバランスによって特定資産が売られる
この他にもファンドごとに特有の下落要因があるので、月次レポート(※)などを用いて確認しておくことが大切です。
(※)運用会社がパフォーマンスを公表するために、任意で定期的に発行しているもの。
分配金とは、ファンドの運用益や元本から支払われるお金です。
ファンドの下落要因が分配金の場合は、分配金を込みで考えた場合、決して損をしている状態とはいえないので、確認が必要です。
例えば、1口あたりの基準価額が1万円だったものが9,900円になったとしても、そのときに分配金を200円(税込)受け取っていたら、基準価額に戻すと、合計で1万100円となり、100円分のプラス(1口当たり、税引き前)となります。
そのため、分配金が安定して支払われる場合は、保有を継続することで基準価額の下落分をまかなえる可能性があります。
ただし、分配金を期待して保有を継続する場合は、上記のように基準価額を含めた「トータルリターンがプラスになるか」を確認することが重要です。
保有しているファンドの下落要因を調べたら、次は「基準価額がどこまで下がるか」を分析する必要があります。例えば、価格の振れ幅を数値化できる標準偏差を用いると、以下のように分析できます。
<前提条件>
標準偏差:10%
期待収益率:1%(※)
<価格の振れ幅>
68%の確率で▲9%から+11%
95%の確率で▲19%から+21%
上記の標準偏差が全ての状況で当てはまるわけではありませんが、基準価額がどこまで下がるかを考える際に役立つ指標です。この標準偏差は、投資信託の情報がまとまっている情報メディアなどで確認できます。
(※)ある資産に投資した際に平均でどのくらいの収益が見込めるかを示したもの。期待リターンとも呼ばれる。
将来的に値上がりする可能性があっても、基準価額の回復までに時間がかかると信託報酬などがかさんでしまいます。そのため、いつまでに回復するかを分析・予測しておくことで、どこまで損失を許容できるのかを把握しておくことが大切です。
値動きの分析をする際は、運用会社が発行している月次レポートが参考になります。値動きの要因も載っているものもあるので、今後の運用方針を決めるのに役立てることができます。
投資信託が下がる一方のときは、新たな投資先を探すことにも力を入れることも大切です。
保有中のファンドよりも魅力的なものが見つかった場合、ポートフォリオ内で基準価額の上昇が期待できないものと入れ替えることで、全体のパフォーマンスを高められるかもしれません。
ポートフォリオとは、「何にどれくらい投資しているか」を表す資産構成比のことです。例えば、国内株式と米国株式に半分ずつ投資をするファンドは、「国内株式50%・米国株式50%」のようなポートフォリオになります。
ポートフォリオが特定の資産に偏ると、その資産が下落したときに相対的にダメージが大きくなる可能性があります。分散投資によってリスクを抑えたい場合は、ポートフォリオの資産比率が偏っていないかの確認が欠かせません。
トータルリターンとは、投資信託の運用で生じた損益から、購入や運用にかかった費用を差し引いた金額です。基準価額がマイナスであっても、分配金の金額とタイミングによっては利益が出ているかもしれません。
以下では、分配金によってトータルリターンがプラスになった具体例を紹介します。
<前提条件>
購入口数:100口
購入時の基準価額:1万円
現在の基準価額:9,000円
受け取った分配金:15万円
各種手数料:3万円
<トータルリターンの計算式>
現在の評価額+受け取った分配金-{購入資金+各種手数料}=トータルリターン
<トータルリターンの計算>
(9,000円×100口)+15万円-{(1万円×100口)+3万円}=2万円
投資信託の損益は基準価額だけでは決まらないため、トータルリターンまで確認しておきましょう。
投資信託が下がる一方のときは、このまま下げ止まらないことを想像してしまい、相場の分析・調査をしないで、慌てて保有中のファンドを売ってしまうケースも考えられます。
そのため、事前に「追加購入・継続保有・売却」の基準を決めておくことで、どのような相場になっても適切な運用が行えるようになります。
以下に、それぞれの基準を決めるのに役立つ3つの考え方をまとめました。
すでに積立投資をしている場合は、想定外のことが起きない限り継続することが大切です。積立投資は続けるほど平均の購入単価が下がり、元本が増えることでリターンが大きくなる可能性もあるためです。
想定外の状況として考えられるのは、以下の通りです。
・どんどん下落を続け、下落率70%以上になった
・子どもの留学などで余剰資金を上回る急な出費が発生した
・ファンドの運営方針ががらりと変わってしまった
上記のような想定外の事態が発生しない限り、売却しない心構えを整えておきましょう。
基準価額が下がり続け、マイナス何%まで下がったら売却するのかを決めておくことで、売却の判断に迷い続けることがなくなります。もちろん定期的に売却の基準を見直して、適切な売却のタイミングを把握しておくことが必要です。
この売却の基準は、ファンドの組入銘柄によって大きく異なります。株式と債券、不動産など、それぞれのアセットは値動きの特徴が異なるので、その分だけ基準の値段を上下させて設定する必要があります。
ファンドを適当に選ばない限りは、投資の決め手になった要因があるはずです。例えば、「いま盛り上がっている生成AI関連のテーマに属する株式が組み込まれている」や、「インフレに強い銘柄が組み込まれている」などが投資の決め手として考えられます。
金融商品を取り巻く環境は日々変化するので、ある日突然、上昇要因がなくなることもあります。想定とは違う状況になり、値動きの要因が分からなくなった場合は、早めに売却するかどうかを判断することが大切です。
投資信託が下がる一方のときは、冷静に投資判断をすることが大切です。事前に運用方針や売却の基準を決めておけば、売買の判断を下しやすくなります。保有中のファンドの中で下落傾向のものがあったら、本記事を参考にしながら今後の運用方法を考えてみましょう。
※本記事は投資信託に関わる基礎知識を解説することを目的としており、特定ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。