暗号資産は「マイニングに膨大な電力を消費する」など、環境面の課題が指摘されています。近年はイーサリアムが環境負担の低いシステムに移行しており、また「グリーン・クリプト」と呼ばれる暗号資産プロジェクトが続々と生まれるなど、暗号資産セクターにおいても環境負荷の軽減に向けた取り組みが進んでいます。
環境負荷が懸念されているのは、主にPoW(プルーフ・オブ・ワーク)と呼ばれる承認システムを採用している暗号通貨です。現時点ではビットコインやドージコイン、ライトコインなどがPoWを採用しています。
PoWによるマイニング作業は、マイナー(ネットワークの参加者)がコンピューターの演算機能を利用して取引記録の承認に必要となる難解な計算処理を行い、その成功報酬として暗号通貨を獲得するという仕組みです。この作業は膨大な電力を必要とします。
米ホワイトハウスが2022年に公表した報告書によると、世界の暗号資産による年間電力消費量は同年8月の時点で推定1,200~2,400億キロワットと、アルゼンチンやオーストラリアといった国の総消費量を上回りました。これは、世界の年間電力消費量の0.4~0.9%に相当します。
懸念されているのは電力消費量の増加だけではありません。PoWに使用される電力の多くは化石燃料に依存しているため、大量の温室効果ガスを排出します。時価総額が最大規模の暗号資産によるCO2(二酸化炭素)の排出量は、年間で推定1億4,000万トン前後に及びます。
環境負荷の大きい暗号資産を環境配慮型システムへ移行するよう求める声が強まる中、一部の主要暗号資産は対策を講じています。
特に注目されているのは、時価総額2位のイーサリアムの大型アップグレード「マージ(Merge)」です。今回のアップグレードではこれまでのPoWに代えて、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)をベースとする新しいシステムへと移行しました。
多くのマイナーが報酬を得るために競争して計算を行なっているPoWとは異なり、PoSは暗号資産の保有量が多い参加者が取引を承認する役割を割り当てられ、報酬を受け取る確率が高くなります。
もっと簡単に説明すると、PoWは同じような計算を多く行なっているのに対して、PoSは必要最低限の計算のみを行なっています。そのため、マイニングによる消費電力を大幅に削減できると期待されています。z
イーサリアム財団の試算によると、マイニングによる電力消費量を最大99.95%削減することができます。この他にも、「環境に優しい暗号資産」を目標とするグリーン・クリプト・プロジェクトが続々と生まれています。注目されている2つのプロジェクトを見てみましょう。
2019年にリリースされたアルゴランド(Algorand)は、環境への影響を配慮して設計されたグリーン・クリプトです。アルゴランドは独自のコンセンサス・アルゴリズムであるPPoS(ピュア・プルーフ・オブ・ステーク)を採用することにより、他のブロックチェーンよりエネルギー効率が高く、安全で高速、かつ拡張性のある分散システムを開発しています。
同社の初期の試算によると、アルゴランドはCO2排出量を従来のブロックチェーンのおよそ200万分の1に抑えることに成功しています。
マイニングの代わりに、環境貢献活動に対して報酬を付与する暗号資産も増えています。
家庭ごみのリサイクルでトークン(※1)を得られる「エコテラ(Ecoterra)」もその一つです。ユーザーがリサイクル可能な製品のバーコードをアプリでスキャンし、最寄りの自動回収機に入れると、トークンが付与されるという仕組みです。
獲得したトークンは取引所での売買や、環境に優しい商品やカーボンクレジット(※2)の購入、環境活動の支援など、多様な目的に利用できます。
(※1)独自のブロックチェーンを持たない通貨のこと。
(※2)企業が温室効果ガスの削減効果を排出権として発行し、取引できる仕組みのこと。
今やサステナビリティへの取り組みは、あらゆる産業が持続可能な成長を目指す上での必須条件となっています。加速するグリーン・クリプトへの取り組みは、暗号資産セクターにも大きな変化の波が押し寄せていることを象徴する動きといえるのではないでしょうか。
このような変化が、暗号資産市場のさらなる成長を後押しすることが予想されます。Wealth Roadでは、今後もブロックチェーン・暗号資産市場の動向をレポートします。
※本記事はブロックチェーン技術や暗号資産に関わる基礎知識を解説することを目的としており、ブロックチェーン関連資産等への投資を推奨するものではありません。