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「小さなリーダーシップ」が世界を変える
(画像=JacobLund/stock.adobe.com)

「小さなリーダーシップ」が世界を変える

『ビジネスの未来│エコノミーにヒューマニティを取り戻す』より一部抜粋

(本記事は、山口周氏の著書『ビジネスの未来│エコノミーにヒューマニティを取り戻す』=プレジデント社、2020年12月21日刊=の中から一部を抜粋・編集しています

歴史を変える 「小さなリーダーシップ」

もし、いま本書を読んでいるあなたが、世の中は悪い方向に動いていると感じているのであれば、その原因をつくっているのは他者でも政府でも企業でもなく、間違いなく自分自身なのだということをまず認識する必要があります。世界は小さなリーダーシップの積み重ねで大きく変化します。私たちのうち、ある一定の人たちの行動がほんの少しずつ、このような方向へとシフトすることで、一〇〇年後の世界は劇的に変化することになるでしょう。

日本では市民主導による社会革命を一度も経験せずにここまで来てしまったために、多くの人々は「そのうち政府に素晴らしいリーダーが出てきて変革を主導してくれるだろう」とぼんやり夢想しているだけで、自ら主体的に関わる、実存主義の言葉でいうところの「アンガージュマン」しようとする人は少ないように思います。社会を変革するのは行政や企業のリーダーの仕事であって、毎日の些事に煩わされている自分のような小市民が社会変革の主導者となることなど考えられないし、そもそも考える必要もない、という考え方です。

これはつまり、世界を変えるのは「大きなリーダーシップだ」という捉え方ですが、実は社会が大きく舵を切るきっかけになるのは、意外や「小さなリーダーシップ」であることが多い、ということも事実です。たとえばアメリカにおける黒人差別是正の大きな契機となった公民権運動は、1955年にアラバマ州でたった一人の黒人女性=ローザ・パークスが、バスの白人優先席を空けるように命じられた際、これを断って投獄されたという、本当に小さな事件がきっかけになっています。いわゆるバス・ボイコット事件です。ローザは当時百貨店で裁縫の仕事をしており、特に人権運動家だったというわけではありません。この事件も、別に革命を起こそうとか公民権運動を主導しようといった「大きな意図」があって起こしたわけではなく、ただ単に「理不尽な命令には従いたくなかった」と彼女は述懐しています。

ここで発揮されているのはごくごく小さなリーダーシップでしかないわけですが、その小さなリーダーシップがやがてアメリカの歴史そのものを変えていくような大きなうねりになって全米の運動につながっていくことになったわけです。

私たちが所属している社会はいうまでもなく「複雑なシステム」で成り立っています。このような「複雑なシステム」は全体を動かすプログラムによって駆動されているわけではなく、システムを構成する個々のサブシステムの挙動によって駆動されています。個々のサブシステムの挙動の変化が別のサブシステムの挙動に変化を及ぼし、それがシステム全体の挙動を変化させるのです。この時、全体の変化をつかさどるのは行政や企業のリーダーではなくシステムの中にいる名もない個人となります。

サイエンスライターのマーク・ブキャナンは、その著書『歴史は「べき乗則」で動く』のなかで第一次世界大戦勃発の原因となったオーストリア皇太子の暗殺が、皇太子を乗せた自動車の運転手の道間違いによって発生している事例を取りあげて、歴史というのは大きな意思決定よりも、どこかで毎日行われているようなちょっとした行為や発言がきっかけになって大きく流れを変えるという、カオス理論で言及されるところのバタフライ効果について論じています。

バタフライ効果とは、もとは気象学者のエドワード・ローレンツが寓意的な仮説、すなわち、蝶の羽ばたきのような小さな撹乱が、遠隔地におけるハリケーンの要因となりうる可能性がある、という提言をもとにした用語です。これをそのまま社会現象に当てはめて考えてみれば、それはまさに、小さな個人個人のちょっとした行動、それはたとえば「一介の市民が差別的扱いに抗って命令を拒否する」といったようなものですが、が大きな歴史のうねりを作りだし、やがて世界のありようを変えてしまう可能性がある、ということです。

※上記は、本書からの抜粋であり、過去の実績ないし著者が作成したもので、今後の投資成果を保証するものではなく例示を目的としたものになります。また、個別株式の売買や投資を推奨するものではありません。

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