『ビジネスの未来│エコノミーにヒューマニティを取り戻す』より一部抜粋
(本記事は、山口周氏の著書『ビジネスの未来│エコノミーにヒューマニティを取り戻す』=プレジデント社、2020年12月21日刊=の中から一部を抜粋・編集しています
「経済性から人間性」への転換
さてここまで「経済性から人間性」 への転換、さまざまな指標を用いながら、私たちの社会が「高原への軟着陸」というフェーズに差しかかっていることを指摘しました。では、ここから先、私たちはどちらの方向へ向かうべきなのでしょうか?最初に答えを示せば、それは、
「便利で快適な世界」 を 「生きるに値する世界」 へと変えていく
ということ、これに尽きると思います。これを別の言葉で表現すれば「経済性に根ざして動く社会」から「人間性に根ざして動く社会」へと転換させる、ということになります。私たちがこれから迎える高原社会を、柔和で、友愛と労りに満ちた、瑞々しい、感性豊かなものにしていくためには、この「経済性から人間性」への転換がどうしても必要になります。これを実現するために必要なのは、ここ一〇〇年のあいだ、私たちの社会を苛み続けてきた三つの強迫、すなわち
「文明のために自然を犠牲にしても仕方がない」という文明主義
「未来のためにいまを犠牲にしても仕方がない」という未来主義
「成長のために人間性を犠牲にしても仕方がない」という成長主義
からの脱却が必要になります。
目指すべき 「高原社会」 のイメージとは
もう少し具体的なイメージに分解してこの「高原社会」のイメージを考えてみましょう。往々にして、その人が何を伝えようとしているかは、その人が「何を肯定しているか」を伝えるよりも、むしろ「何を否定しているか」を伝えることによって、より明確になるものです。ここでも筆者の主張をより明確に伝えるために「目指す方向」と同時に「目指さない方向」を示した上で各論に入りたいと思います。
目指す方向
大きな北欧型社会民主主義社会
イノベーションによる社会課題の解決
企業活動による文化的価値の創造
目指さない方向
小さなアメリカ型市場原理主義社会
イノベーションによる経済成長の追求
企業活動による大量消費の促進
このように示せば、筆者が主張している「高原社会」のイメージが、いま、社会全体が必死の形相をしながら目指している方向とは、大きく異なることがわかると思います。しかし私は、率直に言って現在の方向で社会を引っ張っていけば、その先には高原から奈落へと落ちていく崖しかないと思っています。落ちた崖の下では、ごく一部の人だけが経済的勝者となって享楽的な生活を送る一方で、ほとんどの人は生きがいもやりがいも感じられない「人工知能の奴隷」のような仕事に従事し、オスカー・ワイルドの言葉を借りれば「真に生きているのではなく、ただ生存しているだけ」という人生を送ることになるでしょう。
※上記は、本書からの抜粋であり、過去の実績ないし著者が作成したもので、今後の投資成果を保証するものではなく例示を目的としたものになります。また、個別株式の売買や投資を推奨するものではありません。
『ビジネスの未来│エコノミーにヒューマニティを取り戻す』