厳しい環境下で見られる明るい兆し

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〔要旨〕

7-9月期は多くの資産クラスが大きく下落:7-9月期は、どの資産クラスもプラスのリターンを得ることが難しく、価格が急落

悲観的な投資家心理:悲観的な投資家心理が広がるのは無理もないが、わずかな明るい兆しが見えなくなることも

6つの明るい兆し:厳しい市場環境下でも、多少の明るさを保(たも)てる理由がいくつか存在

市場における6つの明るい兆し

10-12月期に市場を動かすその他の要因

2022年7-9月期がようやく終わりましたが、あえて言うならば、この期間を名残惜しく思う人はほとんどいないでしょう。この四半期は、6月中旬から株式市場の反発が始まり、好調なスタートを切ったかに見えました。しかしその上昇も8月中旬までしか続かず、その後株式は厳しい売りを浴びせられました。これは株式に限ったことではなく、中央銀行が積極的に引き締めを行い、投資家が政策金利の引き上げ、割引率の上昇、短期的な成長率の低下を織り込んだため、同四半期は債券・株式ともに、世界的に下落しました。コモディティ(特にエネルギー)も、米ドル高と世界的な需要の減退により下落に転じました。

7-9月期にプラスのリターンを記録した資産は世界中見渡してもそうはありませんが、主な例外は米ドルです。このような投資環境は、市場心理を極端に悪化させています。私が話を聞いた多くの市場関係者からは非常に悲観的な声が出ており、世界金融危機との類似性を指摘する声や、今回はそれよりもひどくなるかもしれないとの声まで聞かれます。先日も古い友人から電話があり、市場環境への不満を述べつつ、歴史は繰り返すと嘆いていたので、どの時代を繰り返すという意味かと思ったら、「1920年代だよ!まずパンデミック(世界的な大流行)、そして恐慌があったじゃないか。」とのことでした。

周囲で起きているパニックに反応してしまうのは、人の性であり仕方のないことだと思います。しかし私は、この友人は悲観的な考えにとらわれるあまり、1920年代がまた「狂騒の20年代」とも呼ばれたことをすっかり見落としていると感じました。このように悪名高い1920年代でさえ、良い年もあったのです。そこで、たとえ厳しい環境下でもポジティブな要素を見いだすとの精神で、この困難な市場環境の中でのポジティブな見方を、いくつか皆さんにお伝えできたらと思います。

市場における6つの明るい兆し

  1. 全米個人投資家協会(AAII) 1 によると、9月後半には投資家心理が弱気に一気に傾き、9月21日公表の調査結果では「弱気」と答えた割合が60%を超えました。これは70.3%となった2009年3月5日以来の高水準でした。1週間後の9月28日公表の同調査でもその割合は60%を超え、1987年の調査開始以来、2週連続で60%以上が「弱気」と答えたのは初めてでした。私がこれをポジティブな兆候と見る理由は、過去をみると、S&P500種指数は、弱気心理が大きく高まった後に平均を上回る6カ月リターンを記録してきたことにあります。
  2. 米2年債と米10年債の利回り差と同様、景気後退を正確に予測するとされる米3カ月債と米10年債の利回り差は、まだ逆イールドが発生しておらず、それどころか9月中旬からその差が緩やかに拡大しています 2 。これは米国の景気後退が必ずしも既定路線となってはおらず、たとえ広い意味で景気後退に入るとしても、比較的軽微なものになる可能性があることを示唆していると考えます。
  3. ハイイールド債の米国債との利回り差は、依然として比較的落ち着いた推移となっています。代表的な指標であるICE BofA米国ハイ・イールド・インデックスのオプション調整後スプレッドは、上昇しつつも、2022年のピークを大幅に下回っています 3 。また、厳しい逆風にさらされている欧州経済ですが、ICE BofAユーロ・ハイ・イールド・インデックスのオプション調整後スプレッドについても同様となっています。
  4. ニューヨーク連邦準備銀行が公表する、世界的な供給網のひっ迫度合いを表すグローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI) 4 などが示すように、一部のインフレ圧力は緩和されてきています。また、ミシガン大学消費者調査によると、米国消費者による5年先のインフレ期待は2.7%(2021年7月以来の低水準)、1年先のインフレ期待は4.7%に低下しました 5 。これにより、米連邦準備理事会(FRB)の引き締めへの積極度合いが弱まる可能性があり、米ドルの上昇一服やグローバルなインフレ圧力の緩和につながる可能性があります。
  5. 悪い知らせは時に良い知らせとなります。成長見通しは低下の一途をたどっており、例えば先週、経済協力開発機構(OECD)から、2023年のユーロ圏の経済成長率が0.3%にとどまり、ドイツの経済成長率が0.7%減少するとの見通しが公表されました 6 。10月3日には、米ISMの製造業購買担当者景気指数が発表され、大幅に悪化したことが明らかになりました。特に主要な先行指標として「炭鉱のカナリア」とも呼ばれる新規受注は、8月の51.3から9月は47.1まで低下し、好不況の境目とされる50を下回りました 7 。中央銀行は、インフレ圧力に対し唯一コントロール可能な要素である需要が冷え込んだことを確認したいと考えているため、例えば10月7日に発表される米雇用統計が市場予想を下回った場合には、FRBがそれとなく金融政策の転換することを促すようなデータを期待している市場からは、ポジティブに受け止められると考えています。
  6. 政府は、自身が認めようとそうでなかろうと、真に必要なときには手を打つことを示しました。重大な危機的状況で介入の意思を示し、実行し、時には危機回避のため先手を打つ姿勢を見せ続けています。パンデミックに対し、多くの政府が行った対応を思い起こしてみてください。そして、直近では、日本の財務省は円買い介入を行い、イングランド銀行は英国債の購入および急上昇した英国債利回りを低下させるべく、量的引き締めを一時的に中断しました。近年わかってきたことは、深刻な危機に際しては、金融環境の安定の回復が、インフレ抑制など中央銀行の掲げる他の目標に優先する可能性が高いということです。イングランド銀行が「必要ならどんな規模でも」英国債を購入すると表明したことは、10年ほど前にドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁が、ユーロを支えるために「必要ならどんなことでもする」と表明したことを思い起こさせます。

10-12月期に市場を動かすその他の要因

「急激な」利上げの影響から株価が何度も下落した状況から考えると、2022年は、中央銀行の動きこそが市場を動かす主要因だったと言えると思います。10-12月期に入るに当たり、株式市場のパフォーマンスを左右するもう一つの要因として、私は「企業業績」を挙げたいと思います。ただし、私は、業績そのものが素晴らしいものになると思っているわけではなく、重要なのは、業績予想がどの程度、既に株価に織り込まれているかです。

アナリストは6月以降、10-12月期の業績予想を既に大幅に引き下げています。7-9月期の業績予想では利益成長率は2.9%にとどまり(6月30日時点の9.8%から低下)、実際そうなれば2020年7-9月期以来の低成長となる見込みです 8 。過去2四半期に比べてより多くのS&P500種構成企業が、7-9月期にプラスの収益見通しを発表しているものの 8 、私は、現時点の予想よりも失望的な結果になると考えています。とはいえ、それも含めてほぼ株価には織り込まれているように思います。私自身は、業績予想と10-12月期の動向を、より懸念しています。言い換えれば、高インフレと利上げによる悪影響を見定め、10-12月期の見通しを持つ上で、企業の決算報告は、中央銀行の金融政策決定会合や関係者発言と同じくらい、「見逃せないテレビ番組」のように注視すべきものとなるでしょう。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  1. 出所:全米個人投資家協会(AAII)、2022年9月28日
  2. 出所:ブルームバーグ、2022年9月30日
  3. 出所:ブルームバーグ、2022年9月30日
  4. 出所:ニューヨーク連邦銀行、グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)、2022年8月31日
  5. 出所:ミシガン大学消費者調査、2022年9月30日
  6. 出所:経済協力開発機構(OECD)、“Interim Report September 2022: Paying the Price of War”
  7. 出所:米サプライマネジメント協会(ISM)、2022年10月3日
  8. 出所:ファクトセット・リサーチ・システムズ、2022年9月30日

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MC2022-143

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