定年を待たずして会社を辞めた場合、退職金や失業保険はどうなるのかをご存知でしょうか。
転職先が決まっており、十分な貯蓄があるのなら問題ないかもしれませんが、無職の期間がある方にとっては死活問題と言えるでしょう。今から早期退職を検討している人のために、メリットやデメリット、注意点をまとめました。
目次
早期退職制度は、会社が従業員に向けて退職を促すものです。一般的には、「早期優遇退職制度」と「希望退職制度」の2種類があります。それぞれの特徴は、以下で解説しています。
早期退職優遇制度は、従業員の自主的な退職をサポートする制度です。「選択定年制」とも呼ばれ、恒常的に運用されていることから、従業員自身が希望すれば自由なタイミングで退職できます。
退職金の割増や再就職支援などの優遇措置が用意されている点も、早期退職優遇制度の特徴です。多くの企業では福利厚生として運用されており、利用した従業員は「自己都合退職」となります。
会社員にとっては魅力的な制度ですが、失業保険の受給が遅れます。手続きから約2ヵ月間は失業保険を受給できないため、当面の生活費は確保しておく必要があります。
希望退職制度は、会社を辞める従業員を募るための制度です。一般的には、人員整理やリストラの前段階として活用されています。
従業員側のメリットとしては、退職金の割増や失業保険をすぐに受給できる点が挙げられます。「会社都合退職」の扱いとなるため、早期退職優遇制度に比べると公的な保障が手厚くなります。
ただし、希望退職制度は会社との合意が前提であり、応募しても退職できない可能性があります。また、利用できる時期も限られているため、会社を辞める準備が整っていない場合は諦めざるおえない恐れがあります。
早期退職制度を利用すると、いずれの制度でも退職金が割増されます。では、実際にはどのような形で退職金が支払われるのでしょうか。ここからは、一般的な退職金である「退職一時金」について解説します。
退職一時金は、会社から一度にまとめて支払われる退職金です。受け取った金額は退職所得として扱われ、以下の退職所得控除が適用されます。
勤続年数 | 退職所得控除の計算式 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(※) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
なお、iDeCo(個人型確定拠出年金)で受け取れる一時金についても、退職所得控除が適用されます。退職金との兼ね合いによっては税負担が増えるため、60歳前後で退職をする方は注意しましょう。
ここからは、早期退職制度を利用するメリットを紹介します。
早期退職制度を利用すると、基本的には退職金が割増されます。実際にはどれくらい割増されるのか、労働政策研究・研修機構(独立行政法人)によるデータを見ていきましょう。
項目 | 概要 |
---|---|
退職金の割増をしている企業 | 対象者全てに適用:85.6% メニューの中から選択できる:1.3% ある基準に達したものが利用できる:7.4% |
割増額の平均額 | 賃金の15.7ヵ月分 |
割増額の中央値 | 賃金の12ヵ月分 |
(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「事業再構築と雇用に関する調査」)
やや古いデータとなりますが、2002年の時点では90%以上の企業が退職金の割増制度を導入しています。割増額については賃金の約1年分が相場であり、毎月の給与を30万円と仮定すると、もともとの退職金に加えて360万円程度を受け取れる計算です。
ただし、割増額の計算方法は企業によって異なるため、退職前には規定や募集要項を確認しておきましょう。
企業によっては、以下のような優遇措置を受けられます。
・特別な有給休暇の取得
・勤め先や斡旋会社による再就職支援
・セカンドキャリアに向けた教育訓練プログラム
・開業資金の提供や斡旋
上記の中でも再就職支援は実施例が多く、2002年時点では3割程度の企業が導入しています(※前述の資料を参考)。ただし、こちらも企業によって内容が異なるので、退職の前に確認しておきましょう。
早期退職制度は、セカンドキャリアを築くきっかけになる可能性があります。再就職支援や教育訓練プログラムが用意されている場合は、スキルやノウハウを身につけた状態でキャリアアップを狙えるかもしれません。
また、退職金と合わせて十分な貯蓄がある方は、早期リタイアも選択肢になります。仕事に費やしていた時間を趣味に充てれば、これまでとは違った第二の人生を送れるでしょう。近年ではアメリカでも早期リタイアが注目されており、経済的自立と早期退職を意味する「FIRE」という言葉も広がりました。
セミリタイアとは、早期退職をした方が不労所得や短アルバイトなどで生活を送ることです。フルタイムで働くことを辞めることで、自由に使える時間を増やし、プライベートを充実させることが目的になります。
早期退職制度の利用によって、フルタイムで働かなくても生活に困らないだけの資金を退職金で確保できるのであれば、セミリタイアが視野に入ってくるでしょう。
ここからは、早期退職制度を利用するデメリットを紹介します。
早期退職をすると、収入源がなくなります。生活に困窮するリスクがあるため、新たな収入源を早急に確保する必要が出てくるかもしれません。
特に注意したいのは、転職や起業、投資などに失敗したときです。転職活動や起業などが思い通りに進まなかった結果、貯蓄を切り崩して生活しなければならない状況に陥る可能性があります。
このような事態を防ぐには、収入源に関するプランが必要です。どうしても不安を感じる方は、新たな収入源を確保してから退職することを考えましょう。
会社員が加入している厚生年金は、加入期間によって受給額が変動します。そのため、早期退職によって勤続年数がストップすると、将来受け取れる老齢厚生年金が減ってしまいます。
実際にどれくらい受給額が減るのか、以下では年収500万円と仮定した場合のシミュレーションを見てみましょう。
勤続年数 | 厚生年金の受給額(毎月) |
---|---|
10年 | 8.1万円 |
20年 | 11.0万円 |
30年 | 14.9万円 |
40年 | 18.4万円 |
(参照:三井住友銀行「年金試算シミュレーション」)
早期退職によって勤続年数が10年減ると、厚生年金の受給額は毎月3万円ほど減ります。
意外と見落としがちなデメリットが、社会的な信用力の低下です。早期退職をすると勤務先や安定収入を失うため、ローンなどを結べなくなる可能性があります。
特に注意しておきたいのは、早期退職をしてから引越しをする場合です。不動産の賃貸契約でも社会的な信用力が求められるので、勤務先がない状態では契約を結んでもらえない恐れがあります。
ここからは早期退職の前に考えたいポイントをまとめました。どのように計画を立てたらよいのかを確認していきましょう。
まずは早期退職を検討するにあたって、勤務先の制度を確認しておきましょう。特に退職後の生活に関わるポイントは、最優先で確認する必要があります。最優先で確認したいポイントは、以下の通りです。
・退職金をどれくらい受け取れるか
・割増分の退職金はもらえるか
・「自己都合退職」と「会社都合退職」のどちらに該当するか
・再就職や転職のサポートはあるか
また、早期優遇退職制度については、「50歳以上」のように年齢制限が設けられている場合もあるため、条件も確認しておきましょう。
充実したセカンドキャリアを送るには、将来の収支計画も必要です。まずは普段の生活費を踏まえて、老後の必要資金を試算してみましょう。
老後に必要な資金を知るための手順は、以下の通りです。
【1】現時点で確実に用意できるお金を書き出す
【2】年金をもらい始めるまで(65歳以降)に必要なお金を書き出す
【3】年金を受給してから必要になるお金を書き出す
【4】上記【3】【4】の合計額から【1】の金額を差し引く
この時点で「現実的ではない」と判断した場合は、退職のタイミングを遅らせることも検討しましょう。早期退職には必ずリスクがあるので、老後生活までしっかりとイメージすることが大切です。
なお、早期退職後に新たなビジネスを始める場合は、あらかじめ必要資金を明確にしておきましょう。不足分を退職金で賄えれば問題ありませんが、それが難しい場合は退職を遅らせたり転職先を探したりする必要があります。
退職までに転職先が決まらなかったとしても、転職などの足がかりは探しておきましょう。
転職にあたって優遇措置を活用するケースも見られますが、再就職支援で理想の職場が見つかるとは限りません。実際に転職先が見つかったら、以下の点を確認しておきましょう。
・希望通りの雇用条件になっているか
・福利厚生は充実しているか
・競業避止義務に抵触しないか
上記の「競業避止義務」とは、ライバル企業への転職や同じビジネスでの起業を禁止するものです。退職時の契約にこの義務が含まれており、同業種の企業に転職をした場合は、前の勤め先から訴えられる可能性があります。退職前には規約や契約内容を確認し、転職先の選び方にも注意を払いましょう。
ここからは、早期退職の注意点について解説します。
厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査」によると、退職給付制度がある企業は全体の80.5%です。2割弱の企業はそもそも制度が存在しないため、退職金がない場合もあります。
従業員数 | 退職給付制度を導入している企業 |
---|---|
1,000人以上 | 92.3% |
300~999人 | 91.8% |
100~299人 | 84.9% |
30~99人 | 77.6% |
全体 | 80.5% |
(参考:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)
退職金に関するルールは就業規則に記載されているので、退職前に就業規則を確認するか、総務部に問い合わせましょう。
しばらく再就職ができず、転職を長期間繰り返す可能性があります。特に年齢が40~50代の場合は、スキルや経験がないと転職の難易度が高まります。
無職の期間が長引くことで働く意欲を失ってしまう状況も考えられます。ただ職を失っただけの結果にならないように、再就職を目指す方は転職先の目星をつけておきましょう。
転職先が見つかっても、経営悪化によってセカンドキャリアの計画が崩れてしまう状況も感がられます。どのような企業にもトラブルは起こり得るため、転職にはリスクがあります。早期退職の前には「会社を辞めるべきか」について慎重に判断する必要があるでしょう。特に以下の点は、客観的な視点で確認することが大切です。
・勤め先の業績に成長や回復の兆しがあるか
・転職にあたって必要なスキルを習得できるか
・人脈などの転職の足がかりを作れるか
・定年退職を見据えたときに、転職先の企業で問題がないか
・周囲(家族など)のサポートを受けられるか
上記の他にも、当面の生活に困らない貯蓄があるのかも確認しておきたいポイントです。転職先だけではなく、自分自身にもケガや病気といったトラブルが起こる可能性もあるので、常に最悪のケースを想定してプランを立てましょう。
起業の直後は順調であっても、数ヵ月後にライバル店が増加し、競争が激化する状況も考えられます。その他にも、世界中に蔓延した新型コロナウイルスの影響で、多くの飲食店や中小企業が苦境に立たされるといった状況もあるかもしれません。
新たにビジネスを始めるとなると、経済動向やニーズの変化にも対応する必要があります。事業に失敗すれば、受け取った退職金を全て失う可能性もあるので、起業を目指す方は十分な準備を行いましょう。
早期退職の前には、仕事がない期間が続く可能性を考慮して収入源を確保しておいたり、転職活動を行って内定をもらったりと、前もって計画を立てておく必要があります。理想的な第二の人生を送るためにも、事前準備は欠かさないよういしましょう。
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