「早期退職」と聞いて頭に浮かぶのは、「リストラ」「事業縮小」といったネガティブなイメージですか。それとも、「FIRE」や「第2の人生」といったポジティブなイメージでしょうか。中には「希望退職」と「早期退職」を混同して、ネガティブなイメージを抱いている人もいるかもしれません。
今回は早期退職について、希望退職との違いやメリット・デメリット、その回避法について詳しく説明します。
目次
早期退職とは? 希望退職と何が違うのか?
「希望退職」と「早期退職」は似たような言葉ですが、実は大きな違いがあります。
希望退職:人件費削減目的の臨時制度
「希望退職」とは、企業が人件費の削減を目的として「退職希望者」を募ることです。組織を再編するための臨時の制度で、一般的には企業が定めた人数に達すると終了します。
-希望退職はリストラの一種
リストラの本来の意味は「Restructuring(組織再編・再構築)」で、従業員数の増減は問いません。しかし、日本では「業績悪化による事業縮小に伴う人員整理」を指すことが多いです。
労働者解雇に関する厳しい規制に触れない「退職希望者募集」は、企業にとって比較的容易で有効なリストラ手段のひとつです。
早期退職:従業員が選択できる常設制度
「早期退職優遇制度」「転進支援」「選択定年制」など、企業によってさまざまな呼称が用いられています。内容も企業によって異なりますが、一般的には一定の年齢や勤続年数、役職などに達した従業員が「勤続か、退職か」を任意で選択できる制度を指します。
多くの企業では、早期退職は従業員の多様な選択肢を応援する福利厚生制度として、経営状況にかかわらず常設されています。
-FIREはライフスタイルのひとつ
近年話題になっている「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」は、「経済的自立を伴う早期退職」と訳されます。蓄えた資産や投資収益などで生活を賄える状態で、労働収入に頼る必要がないため、早めに退職するというものです。
FIREを「早期退職」と表現する人もいるため紛らわしいのですが、制度化されたものではないため今回のテーマからは外します。
名称ではなく「目的」で見極める
「希望退職」や「早期退職」は、法律などで明確に定義されているものではありません。そのため、企業によってはこれらを同じ意味で使っているところもあるでしょう。
「人件費削減」や「従業員の人生の選択肢」という「目的」に着目すると、その違いがはっきりわかります。
早期退職によるメリット
早期退職制度には、福利厚生の充実の他にも「人員構成の調整やポスト不足の解消による組織の活性化」というメリットがあります。
では、従業員が早期退職制度を利用するメリットは何でしょうか。
多めの退職金を受け取れる
早期退職では、多くの場合「定年まで勤める場合よりも多い」額の退職金が用意されています。
厚生労働省が調査した定年退職金と早期優遇退職金の平均給付額は、以下の通りです。
<平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)>
定年 | 早期優遇 | |
大学・大学院卒 (管理・事務・技術職) |
1,983万円 | 2,326万円 |
高校卒 (管理・事務・技術職) |
1,618万円 | 2,094万円 |
高校卒 (現業職) |
1,159万円 | 1,459万円 |
厚生労働省「平成30年就労条件総合調査 結果の概況・4_退職給付(一時金・年金)の支給実態」より
再就職支援を受けられる
企業によっては、就職先の斡旋やキャリア相談などの再就職支援を行っているところもあります。積極的な支援がない場合でも、堂々と再就職活動ができるという安心感もメリットと言えます。
第二の人生を始めやすい
さらなるキャリアアップや新たな業種への挑戦、夢の実現などを目指す人にとって、定年後に動き出すのと40代後半や50代から次への第一歩を踏み出すのとでは、大きな差があります。
例えば、「新たなキャリアを75歳まで続けたい」という場合、50歳でスタートすれば25年もの時間があります。新卒入社から50歳になるまでと同じくらいの時間で、もう一度新たな経験を積めるのです。
早期退職によるデメリット
一般的に40代後半から50代は責任のある仕事を任され、給与が最も高くなる時期です。また、住宅ローンや教育費の負担が大きい時期でもあります。
そのタイミングで仕事を変えることのデメリットは、決して小さくありません。
安定収入が途絶える
家賃や住宅ローン返済をはじめ、水道光熱費や通信費、学費・月謝など、生活に必要な費用は月単位で支払うものがほとんどです。一時的とはいえ収入のない月があると、支払いの負担が重く感じられるでしょう。
割増退職金から補填するとしても、事前に毎月の支出を把握しておくことが大切です。
無職期間が長引く可能性がある
再就職先を決めずに早期退職をした場合は、「無職期間がいつまで続くかわからない」というデメリットがあります。
失業手当は、雇用保険加入期間や離職理由などによって受給できる期間が異なります。勤続20年以上で45歳以上の場合は、通常150日しか支給されません。金額にも上限があり、45歳以上60歳未満の人の日額は8,265円までです。約25万円で1ヵ月生活できるかどうかも、確認しておきましょう。
また、各種ローンやクレジットカードなどの審査は、無職の状態ではまず通りません。新たにローンを組む予定がある場合や、作っておきたいカードがある場合は、退職する前に済ませておきましょう。
再就職後の収入が減る可能性がある
厚生労働省の調査では、転職後に収入が1割以上減少した人は45歳~49歳が20.0%、50~54歳が26.6%、55~59歳は37.3%でした。
転職後も収入が減らないのが理想ですが、今の生活を維持できる金額をしっかり計算しておく必要があります。
二度目の退職金は期待できない
一般的に、退職金は勤続年数が長いほど金額が多くなります。勤続年数や雇用形態などの条件がある企業は多く、そもそも退職金制度を設けていない企業もあります。
再就職先の状況や雇用形態にもよりますが、二度目の退職金はあまり期待できません。
早期退職によって優遇された退職金を生活費の補填や起業資金などに使う場合は、事前に老後資金のめどが立っているかどうかを確認しておきましょう。
年金額が減る可能性がある
自営業やフリーランスに転身する、無職期間が長引く、早期退職の後は働かないといった場合は、その分将来の厚生年金額が減ります。
厚生年金は「厚生年金に加入している企業に勤めている間」を被保険者期間としており、将来受給する年金額の計算に用いられます。そのため、企業に勤めていない期間があれば、その分受給額は減ります。また、保険料は収入の増減に応じて変わる仕組みになっており、再就職したとしても、収入が減った場合は将来の年金額が減る可能性もあります。
日本年金機構から届く「ねんきん定期便」に記載されている年金受給見込額は、現状が続く前提で計算されたものです。公式サイト「ねんきんネット」では、働き方を変えた場合の年金額をシミュレーションできるので、確認するとよいでしょう。
デメリットによるダメージを回避する3つのポイント
5つのデメリットを紹介しましたが、その中のいくつかは準備をしておくことで回避できることがあります。ここからは、デメリットによるダメージを軽減するためのポイントを紹介します。
ポイント1 貯蓄額
「お金がすべて」ではありませんが、生活を維持するためにはやはりお金が必要です。逆に考えると、資金さえあれば再就職後の減収も無職期間も乗り切れる可能性が高いということになります。
冒頭で触れたFIREでは、「年間生活費の25倍の資金を確保できれば、労働収入に頼る必要がない」としています。そこまで徹底しなくても、早いうちから計画的に資産形成をして金銭的なゆとりを作っておけば、余裕を持って第二の人生をスタートできるのではないでしょうか。
ポイント2 再就職
やむを得ない退職とは異なり、早期退職は自分で選択できます。
同業種への再就職を希望する場合は、現在の職場で経験を積んで「求められる人材」になることで、有利に進めていけるでしょう。新たな業種に挑戦したい場合は、しっかり情報収集しておきましょう。
再就職先で「年齢が高いだけで能力不足な新人」にならないよう、現在の職場で努力しておくことが大切です。
ポイント3 家族の同意
最も大切なのは、家族の同意です。一緒に暮らす家族がいる場合は、早期退職について納得できるまで話し合う必要があります。一方的な説明や事後報告では家族が不満や不安を覚え、その後の関係が悪化する恐れがあります。
自分が「夢の実現」を優先した結果、家族が夢を諦めることになってはいけません。家族が望むライフプランや、貯蓄額なども確認しておきましょう。
早期退職制度を活かすための準備は、人生を豊かにする
早期退職制度は多くの企業で常設されているため、準備する時間は十分あります。
計画的な資産形成やキャリアアップ、情報収集は、早期退職をしなくても無駄にはなりません。有意義で豊かな人生を送るために役立つでしょう。
実際にどうするかは、その時に考えればよいのです。選択肢を増やすためにも、早いうちからしっかり準備を進めておくことが大切です。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買や投資を推奨するものではありません。