勤務先の会社が「早期退職者」を募ったら、どうすればよいのでしょうか。退職して新たな道を歩むべきか、残留するべきか、即断するのは難しいでしょう。焦って見切り発車すると、後悔するかもしれません。
早期退職とはどのような制度なのか、どのようなメリットとデメリットがあるのかを知っておきましょう。
早期退職者を募る理由は業績悪化だけではない
「早期退職」と聞くと、業績悪化に伴う人件費削減を目的としたリストラを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、「自分の生き方を尊重したい従業員に対する支援」として行われることもあります。
「高年齢者雇用安定法」により、雇用者側には65歳までの雇用確保が義務づけられました。また2021年4月の改正では、「70歳までの就業機会の確保」のための努力義務が新設されています。早期退職者制度は、「労働者側で定年のタイミングを選択するための取り組み」でもあるわけです。
早期退職者制度とは
定年に達する前に、労働者側の選択で退職できる制度です。一般的に、退職金額が割り増しになるなどの優遇措置が設けられています。
早期退職者制度は、常設の制度と「臨時募集」に大別できます。
常設されている早期退職者制度
「55歳以上、勤続25年以上」など、企業によって定められた条件を満たした労働者が、自分の意志で退職を申請できる制度です。
早期退職者制度には明確な定義がないため企業ごとに呼称もさまざまで、「早期退職者優遇制度」「早期希望退職制度」などとも呼ばれます。
以下のような人事制度を導入し、早期退職者制度としている企業もあります。
-選択定年制
一定の年齢に達したときや勤続年数条件を満たしたときに、労働者の意志で「在籍か、退職か」を選択できる制度です。50歳、55歳など節目の年齢ごとに確認を行うケースや、55歳で退職希望年齢を確認し、59歳で確定させるケースなどがあります。
-役職定年制
定年退職の前に、管理職などの役職を解任し一般職などに戻す制度です。役職定年後も継続して勤めることができますが、一般社員と同格になることや減収を理由に退職を選ぶ人もいます。
選択定年制と併用し、「一般職に戻って在籍、または早期退職」を選択できる企業も少なくありません。
臨時募集
業績悪化による事業縮小や人件費削減など、人員整理のために早期退職者の臨時募集が行われることもあります。企業規模によっては500人以上を対象とするケースもあり、ニュースなどでも取り上げられるため「早期退職=リストラ」というイメージを持つ人は多いでしょう。
アウトソーシング化のための人員削減や、世代バランスの調整、業務効率化など、業績が安定していても早期退職者の臨時募集が行われることがあります。
早期退職のメリット・デメリット
早期退職者制度は、活用の仕方によっては大きな可能性を秘めた制度です。しかし、安易に決断すると無謀な賭けになりかねません。
メリットとデメリットをしっかり確認しておきましょう。
早期退職におけるメリット
早期退職は、自由と資金を得るチャンスでもあります。まずは、メリットを見ていきましょう。
-割増退職金を確実に受け取れる
厚生労働省の調査によると、早期退職による退職金平均額は2,087万円(月収換算46.4ヵ月分)で、定年退職による退職金平均額1,605万円(月収換算38.5ヵ月分)を上回っています。
業績悪化による臨時募集の場合、人員整理後に立て直しがかなうとは限りません。事態がさらに悪化する前に、通常より多い退職金を確実に受け取って次へ進むというのも一つの選択肢です。
-転職活動がしやすい
自分のキャリアや能力を活かして転職や起業に挑戦する場合、早期退職はメリットになるでしょう。スキルや経験を積んだ上で、定年退職よりも若く体力のあるうちに動き始められるからです。
早期退職者制度を設けている企業の中には、転職活動や起業の支援を行っているところもあります。また、割増退職金は再就職活動中の生活費や起業資金としても役立つでしょう。
-雇用保険の基本手当受給が有利になる
雇用保険から失業で給付される「基本手当」は、受給するためにいくつかの条件があります。その一つが離職理由です。
早期退職の臨時募集に応じた場合は、通常「会社都合」による離職として扱われます。そのため「自己都合」での離職よりも受給開始日が早く、受給期間も長くなるなど有利な条件で受給できます。
ただし常設の早期退職者制度では、離職の取り扱いは企業によって異なります。選択定年制や役員定年制で離職を選択した場合は「自己都合」として扱われることが多いため、注意が必要です。
早期退職におけるデメリット
失敗例を知り、デメリットについても十分理解しておくことが大切です。
-収入が減少する
通常、早期退職制度の対象者は勤続年数の長い50代以上であることが多く、これまで転職の経験がない人も多いでしょう。長年勤めた職場を出て、新しい環境での再出発がうまくいかない可能性もあります。
引き抜きや経験者優遇で初年度の高給が約束されていても、転職先に適応できず翌年から減収になるというケースも珍しくありません。起業した事業が軌道に乗るまでに、時間がかかることもあるでしょう。他業種に転職した場合は、新人相応の給与額になる覚悟も必要です。
-無職期間が長引く
臨時募集に対して短期間で決断した場合、転職活動が間に合わないこともあるでしょう。離職してから始めても、すぐに再就職できるとは限りません。
前職以上の役職や収入にこだわることで再就職先が見つからず、受け取った退職金を使い切ってしまったという話もよく聞きます。
無職期間は、新規にローンを組んだりクレジットカードを作ったり、新しく賃貸契約を結んだりすることが難しくなる点にも注意が必要です。
-将来の年金が減る
会社勤めの人は、受給年齢に達したときに国民年金(老齢基礎年金)に加えて厚生年金(老齢厚生年金)を受給する資格があります。このうち、老齢厚生年金の受給額は「平均収入額×料率×加入期間」で計算します。
つまり、離職期間が長くなるとその分加入期間が短くなり、減収の場合は平均収入額が下がります。そのため、将来の年金額が下がる可能性が大きくなるのです。
退職後に店を開くなど自営業に転じた場合は、国民年金のみに加入することになります。厚生年金に加入することはできません。ただし、過去の加入歴に応じた額の老齢厚生年金を受給することはできます。
早期退職に応募する前に、チェックしておくべきポイント
早期退職で後悔しないために、決断する前には以下のポイントをチェックしておきましょう。
①資産状況
固定収入がなくなるかもしれないため、現在の貯蓄額でどのくらい生活できるか確認しておきましょう。
総務省の「家計調査年報」によると、50代は月あたりの消費支出額が最も高く、約36万2,600円です。生活費は節約できる部分もありますが、住居費や教育費用などは削ることができません。
それぞれの生活スタイルによって、当然生活費は変わります。自分の家の生活費を確認し、現在の貯蓄高が「毎月の生活費×何ヵ月分」になるか計算しておくとよいでしょう。
②家族の意向
家族に相談することなく、早期退職を決めてしまう人は少なくありません。しかし、それはトラブルを招く恐れがあります。
再就職がうまくいかなかった場合は、家計を大きく圧迫します。子どもの進路などにも影響が出るかもしれません。結果的に早期退職が大きな利益につながったとしても失われた信頼関係が戻らず、わだかまりが残るケースもあります。
自分の決意や考えを家族に伝えてよく話し合い、理解と賛同を得ることが大切です。
③自分の価値
現在の会社での評価と市場価値が一致するとは限りません。
市場価値は、需要(企業が求めるスキルや経験)と供給(企業が求めるスキルや経験を持つ求職者数)のバランスで変動します。専門性の高いスキルがあっても、企業が求めていなければ宝の持ち腐れです。また、同じスキルを持っている人が多い場合も価値が下がります。
業種が同じでも、企業の規模や方向性によって求められるスキルは変わります。自分の市場価値を客観的に見てくれる人に相談するとよいでしょう。
早期退職はいつ直面するかわからない
早期退職制度で後悔しないためには、楽観的な情報に踊らされないことが大切です。割り増しされた退職金額や知人の成功体験談は魅力的に映るかもしれませんが、安易な決断は危険です。
必要な生活費額と貯蓄額を計算し、自分の市場価値を見極め、家族とも十分に話し合った上で、後悔のない選択をすることが大切です。
また、Wealth Roadで投資のヒントを得ながら、資産運用を学んでみるのも今後の人生設計を考える上で良い機会になるでしょう。