ピーター・リンチの経験から学ぶ 失敗しないための株の売買タイミング

『マンガでわかるピーター・リンチの投資術』より一部抜粋

(本記事は、栫井駿介氏の著書『マンガでわかるピーター・リンチの投資術』=ループスプロダクション、2021年11月27日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

有望な銘柄の売買タイミング

プロでも悩む売買タイミング

株で判断が難しいのは買うタイミングよりも売るタイミングであるとよくいわれる。株が購入時より値上がりしても、売るか売らないか悩むうちに値下がりし、手に入るはずだった利益を失ってしまうことがよくあるからである。「この銘柄はいま買ったほうがいいのか」「今のうちに売ってしまいたい」……こうした悩みはプロの投資家も抱えている。

多くの有望株を手放したリンチだったが、彼の経験に基づき、失敗しないための売買のタイミングを、これまでに触れた6種類の銘柄分類に沿ってまとめている。原則は、「なぜ買ったかの根拠を明確にしてから買う」「保有し続ける根拠がなくなったときに売ればよい」である

すでに3章で買いの根拠となるストーリーの組み立て方を解説したが、ここではリンチが「銘柄購入前の最終チェック」として挙げている項目、そして売りのタイミングについて、原則を補足する形で6つの分類に沿ってそれぞれ解説していく。

低成長株の売買

低成長株は、株価の大きな値上がりは期待できないため、配当目的に購入することになる。配当が支払われているか、増配が定期的にあるかがポイントという点はすでに95ページで解説した通りだ。

さらに買いのポイントを加えるなら、景気が悪化したときにも配当を支払えるかにも注目したい。「配当性向」といって、企業が得た純利益のうち何%が配当として払われているのかを計算した指標がある。この数字が大きいと配当をたくさん払う「大盤振る舞い」な銘柄だが、一方で不景気になり余裕がなくなると配当を切り詰める可能性が高い。

配当性向が低い企業は、配当に回さない分のお金を蓄えているため、不況時にも配当を維持できると考えられる。配当額が高く、かつ配当性向が低い銘柄があれば買いのサインとなる

売りどきは、「事業の悪化による配当の減配の可能性」だ。新商品がなく研究開発費を切り詰めている、市場占有率が2年以上下がっているなどの状態は、ゆくゆく減配につながっていく。

優良株の売買

96ページで解説した2つの買いポイント「PERが低く割安であるか」「成長率を維持しているか」がわかれば、さらに2つのポイントで買いの判断を行う。そのひとつ目が「過去の不況をどう乗り切ったか」である

たとえば、ニトリホールディングス(9843)は、不況を先読みして先手を打ってきた。2000年代からアメリカでの住宅価格が上昇していることを察知した同社会長は「この価格は必ず暴落する」と予測し、暴落に備えることにした。

2008年の年初、保有していた外国債券をすべて売却して現金を確保。5月には「値下げ宣言」として1000品目の値下げを行ったところ、予想を超える売上を達成した。同年9月に起きたリーマンショック後も、定期的に値下げを行うことで売上の確保に成功した。

2つ目のポイントは、ここ数年の買収の実績だ。しばし、事業の「多角化」を求めるあまり誤った経営状態に陥ることがある

ここでいう多角化とは、企業が事業拡大のために行う他企業の買収を指す。ゼロから新しい部門を立ち上げたり、新たに数百人規模の人を雇ったりすることは難しいため、ほかの企業を買収し、子会社化することで事業拡大をはかることがある。たとえば、外食チェーンですき家などを運営するゼンショーホールディングス(7550)は、これまでにココスジャパン、なか卯、ジョリーパスタなどを買収し、日本マクドナルドに並ぶ巨大企業になった。

しかし、むやみに多角化を行うと「買収価格が高すぎた」「買収後に経営困難に陥った」「経営ノウハウがない分野を買収したため思うように事業を進められない」といった状況が発生し、経営が悪化するケースもある。

こうした課題を解決できなければ、最終的には買収価格よりも安い値段で子会社を手放すことになってしまう。リンチはこれを「多悪化」と呼ぶ。多悪化は業績下落の要因であるため、ここ数年でどんな企業をいくらで買収したか、これからどのような企業を買収するのかという動向を探るとよい

売りサインとしては、「買いの根拠」であったPERが高くなったとき、あるいは新商品の評判がまちまちであるときなどが挙げられる。

また、優良株に限っていうと「株価が25~30%ほど上がれば利確して別の優良株に乗り換える」という手法を繰り返すと十分な利益になる。リンチは急成長株の買い替えで失敗したことはあるが、優良株については買い替えを行い成功している。

市況関連株の売買

優良株の場合はPERの低さ(=割安な銘柄)が買いサインだったが、市況関連株の場合は反対となる。市況関連株の業績がピークに近づくと、多くの投資家は、これから業績が下がる時期に入ることを見越して売りに出すため株価が下がっていく。当然、株価下落に伴ってPERも下がるが、これを割安株と誤認し、業績の低下を予見できずに買ってしまうと高値掴みになるのだ。

このことから、市況関連株の場合、PERの低さは「割安さのサイン」ではなく下降トレンドのサイン(=売りサイン)だといえる。

また、新規参入の企業があれば業績が落ち込みやすくなる。競争がはじまるとどの企業も低価格で商品を提供せざるを得なくなり、企業の収益を下げる原因になる。そのほか、コストが増大した、在庫をさばけなくなったといった要素がある。

急成長株の売買

急成長株の購入前の最後のチェック項目は、「成長が急すぎないか」である。20〜25%ほどの成長率が適切だが、これより大きい場合、事業拡大を急いだ結果として息切れに陥る可能性が考えられる

また、店舗を構える事業であれば出店数からも推測できる。去年は新規に5店舗出店し、今年は8店舗出店している、といった具合で順調に規模を拡大できていれば、その銘柄はより期待できる。急に出店数が激増していれば息切れの可能性があるし、逆に出店数が減少している場合は成長が停滞している可能性がある。

※上記は、本書からの抜粋であり、過去の実績ないし著者が作成したもので、今後の投資成果を保証するものではなく例示を目的としたものになります。また、個別株式の売買や投資を推奨するものではありません。

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<著者プロフィール>

栫井 駿介
1986年鹿児島生まれ。つばめ投資顧問合同会社代表、株式投資アドバイザー、証券アナリスト。
東京大学経済学部卒業。2009年より大手証券会社にて投資銀行業務に従事。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。2016年にバリュー株投資の実践を目的としたつばめ投資顧問を設立。ビジネス・ブレークスルーにて、「株式・資産形成実践講座」の講師を務める。
著書に『株式vs. 不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)、『年率10% を達成する! プロの「株」勉強法』(クロスメディア・パブリッシング)。

『マンガでわかるピーター・リンチの投資術』

  1. 数量化したがる人に株は不向き!?株投資に向いている人の特徴
  2. 株価が10倍“テンバガー”を狙える、3つの銘柄タイプ
  3. ピーター・リンチの経験から学ぶ 失敗しないための株の売買タイミング
  4. 有望な銘柄を見つける決算情報の読み方
  5. ピーター・リンチが5銘柄以内への分散投資をすすめるワケ

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