『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』より一部抜粋
(本記事は、大江 英樹氏の著書『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』=朝日新聞出版、2021年12月13日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
最近は投資信託で資産形成しようという人が増えてきています。実際に第4章で紹介する億り人の中にも、投資信託で大きな資産をこしらえた人はいます。昔であれば考えられなかったことですが、初心者は株式よりもむしろ投資信託を使って投資を始めるという人も多いぐらいです。
そもそも投資信託というのは株式や債券をパッケージにして投資するものですから、その中身についてある程度わかっていないと、「自分が何に投資をしているのかがわからないままにお金をつぎ込む」という投資で一番やってはいけないことに陥りかねません。したがって、本来は株式や債券についても勉強し、株式投資も同時に経験することが好ましいと私は思います。
とは言え、そんな時間的余裕の無い人であれば投資信託で資産形成をするというのもありでしょう。そして投資信託の最も大きな目的は分散投資によってリスクを小さくするということですから、自ずと株式への投資とはその扱い方が異なってくるのは当然です。そこを間違えないようにすることが大事です。前節で投資の目的は「積極的にリスクを取って儲ける」という考え方と「自分のお金の購買力を維持する」というやり方の2つがあるというお話をしましたが、若い人で投資信託を使った投資を始めている人は恐らく前者の考え方でしょう。しかしながら最近よく言われる「草食投資」というのは、どちらかと言えば、積極的にリスクを取るというよりもコツコツと積立をして資産形成を図ろうという考え方ですので、前述の2つの目的のまあ中間ぐらいと言っても良いかもしれません。いずれにしても投資信託で大きく資産を増やそうということであれば、いくつかの守るべき基本は知っておいた方が良いと思います。ここではその基本的な考え方を3つの観点からお話ししたいと思います。
最近、投資信託はごく少額でも買えるようになりました。以前は最低でも1万円だったものが、最近では千円とか百円でも購入することができます。しかしながら、千円でも百円でもできるというのは販売業者が心理的なハードルを下げるためにアピールしている謳い文句であって、本当にそんな金額で資産形成なんかできるわけがありません。仮に毎月千円ずつ積み立てても年間1万2千円です。10年間で12 万円、50年続けても60万円ですから住宅の頭金にすらなりません。あくまでもそういう単位で投資をするのは勉強のため、〝経験〞を積むためと割り切らないといけません。
実際、投資信託で資産形成しようと思った場合、最も大切なのは投入する金額です。仮に毎月1万円ずつ積立で投資をし、年利3%で運用できたとしても1億円を達成するには128年かかります。毎月5万円ずつ投入しても68年です。毎月10万円ずつつぎ込んでようやく1億円に達するのは46年後ですから、かなり気の長い話になります(いずれも現行の税率で計算)。事実、投資信託の積立で〝億り人〞になった人というのはそれほど多くはいませんが、それらの人に共通することは何と言っても投入額を増やしていったことに尽きます。
そもそも投資信託は多くの人が共同でお金を出し、ひとつのまとまった塊にして分散投資をおこなう仕組みのものですから、直接株式に投資する場合に比べればリスクは小さいと言っても良いでしょう。言うまでもなくリスクが小さいということは結果のブレ幅が小さいということですから、大きく上昇して高いリターンを得ることも難しいのは当然です。
したがって、本当に大きな資産を作ろうということであれば、毎月少額のお金をコツコツと投資信託で積立をするだけではまず実現することはできないでしょう。大切なことは支出を適正化しながら、投資に回すお金を増やしていき、可能な限り投下元本を増やして積立をするということです。
言うまでもありませんが、定年退職者のように「自分のお金の購買力を維持する」ことを投資の主目的にするのであれば、投資元本をやたら増やす必要はありません。自分がリスク許容できる範囲内で積み立てていけばいいでしょう。私も投資信託の積立をしていますが、年齢は69歳なので、それほど多くの金額は投入していません。でも投資信託を継続的に購入していくことで億り人になりたいのであれば、まず知っておくべきことは「支出を管理して毎月の投資可能資金を増やすこと」です。
また、投資信託で大きな資産を作って億り人になろうということであれば、基本は積立投資であったとしても、どこかの時点では、やはりリスクを取る覚悟が求められます。私が今までに取材した人たちの中で、投資信託によって大きく資産を増やした人は多かれ少なかれどこかの時点で覚悟してリスクを取っています。
具体的に言えば、少しずつ積立投資をしていたとしてもリーマンショックのような大幅な下落が起きた時には普段の積立金額よりもかなり多くの金額を投資することです。もちろんそのためには資金が必要です。積立投資の場合は毎月一定金額が銀行口座から自動的に引き落とされて購入します(場合によっては給与天引きという場合もあるでしょう)。ところが少しまとまったお金ということになると給料からでは無理ですから、それまで預金などの形で蓄えていたお金を投資に振り向ける必要が出てきます。これはとても勇気のいることです。そうでなくても市場が大きく下落している時は不安な気持ちに苛さいなまれます。売らずにじっと辛抱するだけでもかなりの忍耐力が必要でしょう。ましてやそこで新たにまとまった資金で投資するというのは相当な勇気が必要です。でもそれをしなければ資産を大きく増やすことはできません。いつの時代でも大きな資産をこしらえた人というのはそれが投資であっても商売であってもどこかの時点で何らかの大きな勝負を何度か経験してきています。リスクを覚悟しない限り高いリターンは得られないというのは永遠の真実だからです。したがって大事なことの2番目は「あなたはリスクを取れる勇気がありますか」ということなのです。
投資信託を使って長期に資産形成する場合、大切なことの3つめは市場から出たり入ったりせず、「市場に居続けること」です。出たり入ったりするというのはどういうことかというと、売買を繰り返すことを言います。これに対して「市場に居続ける」というのは買った投資信託を売らずに持ち続けることです。ところがこれができずに売買する人は結構多いのです。よく、「じっと持っているだけじゃあ能がない。高い時に一旦売っておいて安くなったらまた買えば良いじゃないか」と言う人がいますが、実際にはそんなにうまくいくわけはありません。高い時は「もっと上がるんじゃないか」と思って売りそびれるのはよくあることですし、逆に下がると「まだ、もっと安い値段で買えるんじゃないか」といった気持ちになりがちですから、そんな絵に描いたようにうまく売買などできるはずがないのです。たまたまできたことがあったとしてもいつも100%成功することはまずあり得ません。
投資に関する書籍の中では不朽の名著のひとつと言われている『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス著)という本があります。その中にこんな事実が綴られているのです。
アメリカの代表的な株価指数であるS&P500の1982年から2000年までの18年間にわたる値動きを詳細に調べてみると、18年間(=6570日間)の内、最も株価が上がった上位30日だけで実に上昇幅の4割近くを占めているのだそうです。つまり、もし仮にその30日間だけS&P500に投資する投資信託を持っていたら、ごく短期で大幅な利益を得ることができたものの、もしその30日間、市場に居なかったら(保有していなければ)収益の4割は失われたことを意味します。ところがこの30日間がいつなのかは事前には絶対にわかりません。それにこの30日間というのは連続しているわけではありません。18年間の間、ところどころに散らばっているのです。したがって、この30日間を逃さないようにするためには持ち続ける、すなわちずっと「市場に居続けること」が大切なのです。最近のコロナ禍におけるStay at Homeをもじって言えばStay in the Marketという知恵を持つことが重要ということになります。
また、これは投資信託に限らず株式でも同じことですから前節でも詳しくお話ししましたが、投資において最もやってはいけないことは、暴落した時に売ることです。これは評価損が実現損に変わるだけでなく、そういう場面で売ってしまうと、なかなか市場に戻ることができなくなるからです。したがってその後に株価が回復する局面での収益も逃してしまうことになります。本来なら2番目のポイントでお話ししたように暴落時は「買うこと」が必要なのですが、勇気を出してリスクを取りに行くことができないのであれば、せめて売らずに我慢するという行動だけでも良いと思います。
前述したように投資信託の最も大きなメリットは分散投資でリスクを下げることにあります。ところが大きなリターンを得ようとすればそれなりにリスクを負わなければ不可能ですから、本来的には投資信託は「億り人」になるための方法としては必ずしもベストであるとは言えません。しかしながら、過去30年にわたって、毎月1万円ずつグローバルに分散する投資信託を積み立てていれば約4倍となっています。図3にもあるように1991年3月から2021年3月まで30年間、1万円の積立を続けた場合積立額累計は360万円ですが、2021年3月時点での評価額は1421万円です。仮に積立額を毎月5万円でしていれば7100万円になります。これは世界中に分散投資をした結果ですが、もし仮にアメリカのS&P500だけに投資をしていれば更に増えていたかもしれません。
このように、たとえ投資信託のように個別株に比べて価格変動のブレ具合がそれほど大きくない投資手法でも①投下金額を増やすこと、②暴落した時に買い増しをすること、そして③保有し続けることによって、一定の成果を出すのは可能と考えて良いでしょう。投資信託だけで億り人になるためには、ある程度の資金を投入することが必要ですが、長期の構えで運用することによって十分可能性はあると思います。第4章では実際に投資信託で億り人になった人の実例も紹介します。
※上記は参考情報であり、株式投資や債券投資、
<著者プロフィール>
大江 英樹
経済コラムニスト
野村證券で25年間にわたって個人の資産相談業務に関わった後、確定拠出年金の運営管理業務に携わる。40万人以上の確定拠出年金加入者に対して投資教育を提供してきた。長年にわたる投資教育の経験から資産運用の基本や行動経済学、シニア層のセカンドライフプランにも詳しく、独立後は、株式会社オフィス・リベルタス代表として、全国での講演や執筆などを中心に活動している。
『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』