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「億り人」に共通する思考法

『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』より一部抜粋

(本記事は、大江 英樹氏の著書『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』=朝日新聞出版、2021年12月13日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

億り人に共通することは…

さて、同じ資産家であっても、自営業・フリーランス、そしてサラリーマンと、それぞれ職業や立場によって異なる「習慣」や「行動」の特徴とその違いについてお話をしてきましたが、職業は違っても彼らには「共通する思考法」があります。そしてその思考法が彼らの習慣や行動を決定づけている部分もありますので、この節では彼らに共通する思考について考えてみたいと思います。

「地位財」と「非地位財」

米コーネル大学の経済学教授でロバート・H・フランクという人がいます。ニューヨーク・タイムズ紙に10年以上にわたってコラムを執筆していて、面白い著書もたくさんあるのですが、そのひとつに『幸せとお金の経済学(原題:Falling Behind)』があります。この本のまえがきで「地位財」と「非地位財」という考え方が紹介されています。「地位財」とは「他人との比較優位によってはじめて価値の生まれるもの」です。具体的に言えば収入や社会的地位、評判、そして物質で言えば住宅や車といったものを指します。

一方、「非地位財」とは、「他人が何を持っているかどうかとは関係なく、自分にとって、それ自体に価値があり、喜びを感じるもの」を指します。例えば、休暇、自由、家族への愛情や友達との友情、働く環境の快適さといったものが挙げられます。

『となりの億万長者』を読んでもそうですが、私自身も資産家の人にお話を聞いていると、どうも彼らに共通するのは「非地位財」に大きな価値を感じていることなのではないかと思えてきます。フランク氏は一般的に多くの人は「地位財」を求め、それが人類の歴史だったと言います。なぜなら人類が進化の過程において生き残り、子孫を残すためには絶対的な価値である「健康」や「愛情」だけでは不十分で、相対的な価値が重要だったからです。例えば狩猟採集社会において、強い肉体を持っていなくても他者が自分よりも劣っていれば家族に食料を与えることもできたわけです。したがって他との比較において価値を認めるというのは人類にとってはごく自然なことだったと言えます。

さらに彼は短期的な満足を満たす報酬である「地位財」を追い求めることで長期的な幸福の源泉となる「非地位財」を犠牲にしてしまいがちになるとも言います。人類の歴史という壮大な話にまで及ばなくても多くの人が「地位財」を手に入れるために必死になるのは仕方がありません。そこにある感覚は人並みに暮らしたいというものです。あるいは人が持っているものは自分も手に入れたいという気持ちが強いからです。

ところが資産家は、そういうものではなくどうやら「非地位財」に価値を見いだしているようなのです。それは一体どうしてなのか?「そりゃ何でも手に入るだけのお金があればいつでも立派な家や車を買えるのだから、逆にそういうものを手に入れようということに関心がなくなったんでしょ」と考えるかもしれません。ところが、私自身が資産家の人たちに実際に話を聞いた限りでは、「お金持ち」になったからそういうものに関心が無くなり、休暇、自由、愛情や友情に関心が向くようになったのかというと、必ずしもそういう印象ではないのです。

収支の管理

そもそも彼らは高価な車や高級な洋服、アクセサリーといったものにはあまり執着を持っていないように見えます。『となりの億万長者』に出てきたエピソードのように金融機関が招いた集まりでも、提供された高級ワインやキャビアなどには目もくれずバドワイザーとクラッカーばかり食べていた億万長者の人たち。彼らは高級な食材に食べ飽きたわけではなく、元々そういうものに興味がないのです。だからこそ、あまり余分なお金を使うことなく、お金を貯めることができたとも言えるでしょう。

しかしながら普通の人が物欲を抑える、我慢するというのはなかなか難しいことです。そんな普通の人のために「節約術」を指南するような本や記事もたくさんありますが、現実には我々のような普通の人間が節約を〝続ける〞というのも難しいでしょう。自分の欲望を長い期間にわたって抑え込むのはつらいことだからです。だとすれば一体どうすればいいのか。ずばり資産家の人たちが共通してやっていることを真似しましょう。それは「収支を管理する」ということです。

特にサラリーマンの場合、収入は急に増えることはそれほどありませんので、どうしても支出を管理することがメインの施策となります。私が取材したサラリーマン資産家の人たちも例外なく収支管理はやっていましたし、メディアに登場する資産形成に成功した人も投資で一発当てたということではなく、地道に支出管理をしながら、貯めたお金を少しずつ投資につぎ込んでいった結果だと言えるでしょう。中には『本気でFIREをめざす人のための資産形成入門』の著者である穂高唯希さんのように、毎月の給料の2割で生活し、残りの8割のお金を投資につぎ込んでコツコツと続けていったという人もいます。穂高さんは節約というとなんだか暗いイメージがあるので「支出の最適化」という言葉を使っている、と書いてありますが、確かに本を読んでいると支出についてもきわめて合理的な考え方で、あまりケチケチ生活という印象はありません。

結局、支出を管理するというのは、欲しいものも我慢してケチケチするということではなく、「自分にとって最も価値のあることは何か」ということを真剣に考えて、その優先順位に沿って支出するということなのだと思います。その場合、自分のやりたいことや趣味に関することを削るとストレスが溜まります。ところが削ってもまったくストレスがなく、かつ実効性の高いという項目もいくつかあります。その代表的なものが「保険」です。

〝億り人〞が生命保険や医療保険に入らない理由

日本人は世界一保険が好きな国民と言われています。前節でもお話ししたように保険はとても大事なものではありますが、その目的は自分の蓄えでは到底まかなえないような巨額の出費が起きた場合のリスクに備えるものです。逆に言えば自分の蓄えでまかなえるのであれば保険に入る必要はないのです。

私の知り合いには何人もファイナンシャル・プランナーがいますが、彼らのところに相談に来る人の中には「なかなか貯蓄ができなくて困っている。どうすればいいだろうか?」と言う人が結構いるそうです。ところが支出や家計の状況を見てみるとあまり必要のない保険に毎月5万円も6万円も払っているケースもかなりあると言います。これは明らかに本末転倒と言ってもいいでしょう。

実際にサラリーマンで資産を築いた人の多くは、自動車保険や火災保険には入っていても、生命保険や医療保険に入っているという人は、今まで取材した限りではほとんどいません。一時期、生命保険に入っていたことはあるが、それはごく限定的でなるべく保険料の安い掛け捨て保険にしたと言います。彼らは非常に合理的な考え方を持っていますから、ある人はこのように考えます。「生命保険で言えば、我々サラリーマンは全員厚生年金に入っているので自分がもし亡くなっても子供が18歳になるまでは年間150万円程度の遺族年金が支給される。それにもしそうなったら、妻は働くことになるだろうから、その収入に毎月12万〜13万円の遺族年金が上乗せされるのであれば生活には困らない。ただ、すぐに働けるかどうかはわからないので、少なくとも3〜4年分ぐらいの生活費がまかなえるようにするために遺族年金で足りない分は生命保険に入れば良い。生活費を年間400万円とすると足りない分は250万円なので、その4年分、1千万円も入っていれば十分だ。それで足りない分は自分の貯蓄や投資を使えば良い」│きわめて冷静で合理的な判断と言っていいのではないでしょうか。

公益財団法人生命保険文化センターが平成30年におこなった「生命保険に関する全国実態調査」という調査によると年間に払い込む保険料の平均金額は38万2千円だそうです※1。つまり月額で3万円あまりを払い込んでいます。ところが、あるネット生保では男性の場合、30歳から10年間、保険金額が1千万円の生命保険に入れば保険料は月額1068円で済みます。つまり本当に必要な期間と金額を考えて保険に加入すれば今よりも月額3万円、年間では36万円を貯蓄や投資に回すことができるのです。30歳から60歳までその金額を積み立てると元金だけで1080万円、年3%で運用できたとすれば、約1748万円になります(税・手数料は考慮なし)。

もちろん保険以外にも無駄はたくさんあります。クレジットカードのカードローンやリボ払いで支払う金利、会員になったものの利用していないスポーツクラブの会費、ほとんど使わないのに契約したままになっているスマホのオプションプラン等々。まわりを見渡してみるとそういう無駄な支出が意外に多いことに気付くと思います。これらをやめてもほとんどストレスはありませんし、生活感にも変化はないでしょう。つまり、意識せずに支出しているもの、気が付いていない固定費の中に無駄がないかをもう一度考えるべきなのです。そしてこういう無駄をなくすことで月に1万〜2万円ぐらいのお金を捻出することは可能です。仮に保険以外にあと2万円を投資に回すことができたとしたら、前述と同じ条件で計算すると元利合計は約2913万円になりますから、ほぼ3千万円近くになるでしょう。サラリーマン資産家の人たちというのはこうやって無駄な支出を貯蓄や投資に回して資産作りをしているのです。

もちろん、投資にあたっては注意すべきことがたくさんありますので、それは次章でお話ししますが、何よりもまずは元になるお金を作ることが大切です。そのためにも収支管理、中でも支出管理というのはきわめて重要な課題であると言っていいのではないでしょうか。

※1「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」(公益財団法人生命保険文化センター)
https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/30/2018honshi_all.pdf

※上記は参考情報であり、株式投資や債券投資、そのほかの投資を推奨するものではありません。

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<著者プロフィール>

大江 英樹
経済コラムニスト
野村證券で25年間にわたって個人の資産相談業務に関わった後、確定拠出年金の運営管理業務に携わる。40万人以上の確定拠出年金加入者に対して投資教育を提供してきた。長年にわたる投資教育の経験から資産運用の基本や行動経済学、シニア層のセカンドライフプランにも詳しく、独立後は、株式会社オフィス・リベルタス代表として、全国での講演や執筆などを中心に活動している。

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