デジタル機器から電化製品、さらには社会インフラまで、多くの分野で使われている半導体ですが、世界中で供給不足が深刻化しています。その中で、国内の製造基盤の拡大や技術開発など、各国でさまざまな動きが見られます。半導体市場の最新動向をもとに、「半導体の勝ち組になるのはどの国なのか」を予想してみましょう。
今やそれなしの社会は想像できないほど日常生活に浸透している半導体ですが、供給不足が起きているのはなぜなのでしょうか。コロナ禍における混乱ももちろんありますが、主な原因は以下の2つです。
1つ目は、米国による対中制裁によって多くの欧米半導体メーカーが中国最大手半導体ファウンドリ(半導体受託製造業者)である中芯国際集成電路製造(SMIC)を委託先として使えなくなったことです。
代替として選ばれた台湾積体電路製造(TSMC)や聯華電子(UMC)には、SMICから流れてきた顧客の需要を一手に引き受けるほどの余力はありません。
2つ目は、需要が供給を大幅に上回っていることです。A Iや暗号通貨の台頭、5G通信の開始など様々ありますが、特にEV(電気自動車)の販売増加が半導体の需要の増加に拍車をかけています。米国の自動車メーカーを筆頭に、半導体不足の煽りを受けて減産を余儀なくされている企業は少なくありません。
各国で半導体略奪合戦が繰り広げられる中、半導体ファウンドリ(製造)企業最大手10社の第一四半期の総売上が、史上最高の227億ドル(約2兆4,912億円)を突破したことが、台湾の市場調査企業トレンドフォースの調査によって明らかになりました。トップを独走するのは台湾で、TSMCが全体のほぼ6割を占めています。
フィナンシャルタイムズ紙に掲載された世界の半導体勢力図によると、10~20㎚(ナノメートル)の半導体プロセッサのトップ製造国は韓国。日本と中国、米国がそれに続きますが、40~180㎚では台湾が圧勝。台湾は10㎚以下から180㎚まで、まんべんなく製造している唯一の国でもあります。
SMICに製造を委託できなくなった欧米企業が台湾に流出したため、台湾の独走状態は今後も続くと予想されています。
供給不足の深刻化を受け、欧米などでも国内の半導体生産能力を強化する動きが高まっています。
EU(欧州連合)は、半導体ファウンドリ市場で他の地域に大きく遅れをとっています。しかし、「2030年までに市場シェアを2倍にする」という大胆な目標を掲げ、半導体の確保に乗り出しました。
提携先として名乗りを上げている米半導体素子メーカーIntelは、200億ドル(約24兆1,468億円)の助成金に加え、最大8棟の工場を収容できる1,000エーカーの敷地の確保をイタリアやフランスに要請しています。
米国では、2月にバイデン大統領が国内の半導体製造業者に370億ドル(約40兆6,118億円)の支援を行うことを明らかにしました。供給不足に加え、QualcommやNvidiaなど、国内大手の製造拠点が海外に依存している現状に対する懸念も大きいと考えられます。
対中制裁で深刻な痛手を受けた中国では、ファーウェイ(華為技術)が武漢に独自の製造工場を建設する計画があることを、多くのメディアが報じています。事情に詳しい関係者によると、同社は45㎚の製造を皮切りに、2021年末までにIoT(モノのインターネット)端末向けの28㎚、さらに2022年末までに5G通信機器向けの20㎚の製造開始を目指しているといいます。SMICも2022年の製造開始を目標に、推定23億5,000万ドル(約2,579億3,758万円)を投じて新工場の建設に着手します。
一方で、アジア勢の海外進出も加速しています。韓国サムスンが米国に170億ドル(約1兆8,659億円)規模の新工場を計画しているほか、TSMCが日本での新工場を検討しているという報道もあります。TSMCは新工場についてのコメントを控えていますが、その可能性は否定していません。同社は旭化成やイビデンと連携し、先端半導体技術を開発する「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」を開設しています。
日本は2021月3月に「半導体・デジタル産業戦略検討会議」を設置。「先端半導体製造技術の共同開発と生産能力の確保」「先端ロジック半導体の設計・開発の強化」「国内半導体産業のポートフォリオおよびレジリエンス強靭化」などを目標に掲げています。
1980年代、日本は世界の半導体市場シェアの過半数を独占する半導体大国でした。しかし、脅威を感じた米国からの圧力に屈した結果、現在は国内の半導体の6割以上を海外から輸入する依存大国になっています。
半導体先進国との差を縮めるためには、前述のTSMCとの先端半導体技術共同開発など、海外企業との提携が突破口となりそうです。
台湾の独走が当面続くと思われる半導体市場ですが、各国の製造・開発競争が供給不足の解消に貢献することは間違いありません。ただし、資金だけではなく時間もかなりかかるでしょう。EUではすでに「公的資金を浪費する結果になるのではないか」と懸念する声もあり、今後の行方が注目されています。
社会のデジタル化や自動化によって需要がさらに拡大することを考えると、国を挙げての高性能・低コスト・大量生産可能な半導体の開発および製造競争も続くと考えられます。Wealth Roadでは、今後も引き続き半導体市場の動向をレポートします。
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